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花田清輝、小池昌代、舌津智之、難波和彦、ハッキング

花田清輝『花田清輝評論集』

花田清輝は文体で読ませる。古びない。が、この本は評論集と呼ぶにはいささか小文の寄せ集め感があって、なんかこうもっとゆったりとした、うねりのある論考が読みたかったと思わないでもない。だがそれは、ないものねだりというやつだろう。次は講談社文芸文庫の『七 錯乱の論理 二つの世界』でも読むか。古本で見つけたら買おう。

小池昌代『タタド』

あ、傑作だ。いつか長い感想を書きたい。「タタド」は四人の登場人物のあいだをなめらかにカメラが動いていく。会話文によってリズムが作られて、凝縮したり拡散したりするイメージの自在さがウルフの『灯台へ』と思わせる。というのは褒めすぎか。とにかく海のそばで何かが蠢いている。この感触は「波を待って」にも共通して見られる。そして「45文字」。主人公が徐々に現実にまでキャプションをつけるようになる。詩をつくることは現実にキャプションをつけることなのかもしれない。その意味で詩の生成みたいなものを描いている傑作だと思った。

舌津智之『抒情するアメリカ』

「抒情とは逆説の領分である」。緊密な構成からわずかな感傷が覗くときに、抒情は最大の効果をあげる。ある種の人工性、技巧性を追求するモダニズムのなかに発露する抒情をとらえ、分析すること、それがこの本のテーマだ。あるいはまた、(比較的わかりやすい、抒情の書き手として理解されている)サローヤンやテネシー・ウィリアムズのモダニストとしての相貌に着目し論じているのも本書の特色であろう。読んでいて加藤幹郎のフィルムノワール論を思い出したりした。総論にあたる序章と、サローヤン論である5章はいつか忘れた頃に読み返したい。

難波和彦『住まいをよむ』

おもしろい。住まいの近現代についていい感じにまとまっている。歴史・制度的な面と技術・機能的な面がバランスよく記述されており、初心者にはうれしい。モダニズム建築の広がり、日本における持家政策、住居と街並みの関係などについてはもう少し掘り下げて知りたくなった。日本の建築家は戸建住宅のデザインによってデビューすることが多く、それは世界的にみると異例らしいが、そこには建物自体の価値が重視されない日本の住宅ローン事情が関係しているとのこと。なるほどーと思った。

イアン・ハッキング『知の歴史学』

ぶあつい。ハッキングのエッセンスが詰まった、よくばりでお得な本だ。僕にはそれをじゅうぶんに味わい消化することはできないが。ここに収められた諸論文と彼の著作と往復することで、より深い理解へと自分を推し進めることができそう。『表現と介入』『偶然を飼いならす』しか読んだことないけど、この本を読んでいる途中、それらの本におけるハッキングの問題意識みたいなものが立ち上がってくる瞬間があった。やっぱり言語哲学はよく分からん。「ドリームズ・イン・プレイス」が意外におもしろかった。

金には困ってません。