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【記録】原武史、富士正晴、待鳥聡史、大久保健晴、ルナン

『「民都」大阪対「帝都」東京』 原武史

疾駆する列車のスピードでぐいぐい読まされる、関西私鉄の近代史。中心となるのは小林一三の阪急だ。関西私鉄の特色は、官製の鉄道からは独立した形でターミナルと路線を展開し、自ら沿線文化を拓いてきた点にあった。しかしながら昭和の天皇即位を契機に「私鉄王国」の栄華にも陰りが見え始める。全体を貫く民と官という対立軸もよいが、近代的に開発されるキタと古代の都の面影をとどめるミナミとの対立軸も興味深い。ミナミから路線が伊勢神宮、熱田神宮へと接続・延長することで、民都にも復古の機運が高まり、勢力図は書き換えられるのだった。

『中国の隠者』 富士正晴

情報量は多くないし、整理もされてない。単なる読書ノートみたいな本だけど、のらりくらりと中国古典のまわりを歩き回っている感じがいかにも散文という感じで、いまの自分には心地よかった。魯迅へのツッコミの入れ方とかも参考になる。書かれていることをそのままは受け取らず、「論証すると疲れるからこんなふうにわかりやすいこと言ってんじゃない?」みたいな感じで探りを入れたりするんだが、それが魯迅への信頼込みでなされているので、なんだか好ましい。

『代議制民主主義』 待鳥聡史

見事な本だ。代議制民主主義の利点は、自由主義と民主主義をバランスよく両立させられるところにある、という主張を軸にして、歴史と現状分析を丁寧に丁寧に行なってくれる。執政制度と選挙制度がそれぞれ自由主義、民主主義と関わり深いという整理を行ったうえで、議院内閣制/大統領制(執政)、比例性の高/低(選挙)によって分類してくれるから、より一層理解が深まる。委任と責任の連鎖とそれがうまく機能するためにうまくインセンティブ設計しなくちゃ、というのはもっともなんだが、それがやっぱ難しい。

『福沢諭吉』 大久保健晴

おお、これはいい。福沢諭吉の思想が120ページ程度に収まっている。蘭学というキーワードが、福沢の思想を説明するのにこれほどよく機能するとは思わなかった。また物理学とか兵法がいかに福沢の思想の滋養となっているか、というのも今までにない視点だった。「会読」に関する記述も面白い。自分なりの解釈を打ち出すために「ヅーフ部屋」で黙々と辞書を引き、文字に喰らいつくように学問していた当時の適塾生の姿が非常に印象的だった。

以下、読みたい福沢論を取り留めなく挙げてみる。
北岡伸一『独立自尊』ちくま学芸
小川原正道『福沢諭吉』ちくま新書
池田勇太『福沢諭吉と大隈重信』山川リブレット
松永昌三『福沢諭吉と中江兆民』中公新書
平石直昭『福沢諭吉と丸山眞男』 
松沢弘陽『福沢諭吉の思想的格闘』『近代日本の形成と西洋経験』
クレイグ『文明と啓蒙』
松田宏一郎『擬制の論理 自由の不安』
丸山眞男『文明論之概略を読む』『福沢諭吉の哲学』

そもそもこの本を読んだのは、新書大賞2024の発表号で、識者によるおすすめの中でちらほらと題名があがっていたからだ。2023年はあまり新書を読んでいなかったので、その他にも読みたいと思いつつ読めてなかったものが多く見つかった。リストにして残しておく。

◯岩波新書
さらば、男性政治
西洋書物史への扉
読み書きの日本史
言語哲学がはじまる
◯中公新書
自動車の世界史
言語の本質
ケマルアタテュルク
日本の歴史問題
軍と兵士のローマ帝国
新興国は世界を変えるか
物語 江南の歴史
実験の民主主義
戦後日本政治史
◯その他
自称詞僕の歴史
ガンディーの真実
z世代のアメリカ
イノベーションの考え方
なぜ日本企業は強みを捨てるのか
スーザンソンタグ
ハイデガーの哲学
客観性の落とし穴

『国民とは何か』 エネルスト・ルナン

ナショナリズム論。本文はとても短いが、訳者解説がとても充実している。「日々の人民投票」。国民という考え方が立ち現るためには、記憶の共有は大切だけれど、それと同時にある種の忘却も必要だよね、という主張を本文から取り出せないこともないな、と思った。すこし強引な解釈の謗りを受けるだろうけど。

金には困ってません。