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ラトナー=ローゼンハーゲン、貴堂嘉之、上杉忍、岡山裕、和田光弘

4月も忙しくて、速かった。1週間が経ったと思えば半月が経っていて、くしゃみを何度かしているうちに、さらにもう1週間が経っていた。新しくかわる組織や人間関係に急き立てられて、何かを始めなくちゃと慌てふためきながら、一方で毎日風呂に入って寝ることも不可欠であるために、引き裂かれて結局なにもできない。そのまま突入してしまった5月を前にして、とりあえず肩をすくめて驚いたり嘆いてみせている。そこまでが一呼吸。その驚嘆の身振りがすこし大袈裟だったとしても、誰もおれを責めたりしないだろう。

音楽は、ニールヤングの「Only Love Can Break Your Heart」やR.E.M.の「The Sidewinder Sleeps Tonite」ばかり聞いていた。そんな感じ。

和田光弘『植民地から建国へ』

「シリーズ アメリカ合衆国史」のはじめの一冊。この通史シリーズは、内容や切り口に新しさを感じる。以前読んだ同シリーズの3と同じく、僕のような初心者にはややハードに感じられもしたが。ユナイテッドステイツの「ステイト」に関して今まで何も思ってなかったけど、言われてみれば確かに「国/邦」だよなあ、と思った。かなり終盤に書いてあったことだけど、建国初期の政権をヴァージニア王朝と呼び、合衆国は奴隷主の国家として成立した、という記述にもハッとした。憲法の成立過程とか、連邦派と共和派の対立のあたりの話はもう少し別の本で補完したい。

貴堂嘉之『南北戦争の時代』

「シリーズ アメリカ合衆国史」の二巻目。アメリカの歴史は南北戦争へ向かって流れ、そして南北戦争から流れ出している。一つの収斂のモーメントとしての南北戦争が、本のはじめから終わりまで扱われていた。それゆえに読み応えがあったが、同時に読みやすくもあった。リンカンを動かしていたのが連邦の回復であって奴隷制廃止ではないということ、そしてジョンソンの再建時代の迷走など、どこかで読んだ気がするけど、忘れていた。また金ぴか時代の同化政策やアジア系の処遇などいろいろ問題が山積みのまま合衆国史は突き進む。知れば知るほど、掘り下げて学びたいことが増える。

上杉忍『アメリカ黒人の歴史』

黒人にとってのアメリカ史は、差別撤廃を謳った法律が「骨抜き」にされてきた歴史だ。南北戦争によって奴隷が解放され、建前で平等な世の中が生まれた。しかしながら事実としての差別が消えることはなかった。黒人が自らの力で社会を動かし、自由を獲得した公民権運動は、歴史的事実として胸を打つものだが、それもまた全ての清算とはなり得なかった。その後も暴動や麻薬戦争といったものによってアメリカの「人種」問題は引き続き困難に直面し続けている。世の中は良くなっていると信じたいが、苦い現実から目を背けるわけにはいかない。

白岩英樹「講義アメリカの思想と文学』

フランクリン、ペイン、エマソン、ソロー、ホイットマン、アンダーソン(、伊藤比呂美)。アメリカの人びとが独自の「声」を発見していく過程に着目する、ちいさな文学史=思想史。欲張りすぎず、よい。とくに143〜144ページのアンダーソン評はめっちゃその通りだと思った。でも、個人的には「声」っていう概念は昔からあんまり好きじゃない。

ジェニファー・ラトナー=ローゼンハーゲン『アメリカを作った思想』

面白くて一気に読んでしまった。日本語版序文から、溌剌としたその筆致にひきこまれる。膨大な情報が整理されながらスピーディーに流れていく心地よさ。女性や非白人も取り上げられており、とりわけマーガレットフラーを知れたことは大きいし、リチャードライトとボーヴォワールらの交遊も勉強になった。ダーウィニズム、プラグマティズム 、革新主義の影響関係は個人的な興味関心と合致して、面白かった。ポストモダンの侵食を警戒するアランブルームに対し、コーネルウェストがエマソンやプラグマティズムにおける哲学回避の伝統を踏まえて再批判するところもいい。

今谷明『近江から日本史を読み直す』

そういえば俺って滋賀県出身だったな。気になるタイトルやん、と思ってブックオフで入手。元が新聞連載なので、全体的に薄味だった。古代から中世にかけてが面白かったんだけど、それは一時的にせよ都があったことや、比叡山があって仏教との絡みがいろいろあるからだと思う。戦国時代にも滋賀は歴史の現場になっているわけだが、いかんせん個人的にいま関心があまりない時代なのでいまいち楽しめず…。江戸時代以降に関してはパンチが弱すぎる。土地勘があるんだからもう少し重厚なやつを読めばよかったかもしれない。

岡本裕『アメリカの政党政治』

建国当初は共通善を阻害する存在と見做されていた政党が、やがて二大政党制という形でアメリカ政治の軸となっていく。「柔構造」という捉え方が印象的だったが、アメリカの政党及び選挙システムについてほぼ無知だったこともあり、読み進めるのにやや苦労した。(猟官制とメリットシステム、フィリバスターなどの用語は知らなかった。)でも我慢して読んでいくと、現代に近づくに従い自分の理解も深まってくるし、かつシステム自体の問題も顕在化してくるので、俄然面白くなる。それにしても近年の連邦政治の「決められなさ」は深刻だと思った。

金には困ってません。