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サンデル、リラ、河上徹太郎、山本淳子、光嶋祐介

マイケル・サンデル 『実力も運のうち』

けっこうジャーナリスティックというか、時事と絡めて議論していくスタイルなので、読みやすかった。とはいえ説明がくどくてちょっと萎えた。この内容で400ページは分厚すぎる。哲学的議論がなされる五章「成功の倫理学」は面白い。弱者の怨念・怒り・ルサンチマンがあるかぎり、いかなるリベラリズムも能力主義の手先となってしまう。それはまあそうだと思うが、対案として示されるサンデル自身の主張はいまいちキレがない。この本でいちばん先生の筆致がいきいきしているのは、オバマの無自覚な残酷さを指摘するところ。

マーク・リラ 『シュラクサイの誘惑』

奔放で刺激的な言論活動により世に大きな影響を与えた哲学者・思想家たちのヤケクソな政治的行動とその悪影響を、軽やかですばやい筆致によって描き出す。ハイデガーからデリダまで、居並ぶキラキラしたビッグネームを、党派性からくる無理解な全否定によって退けるのではなく、それなりに堅実な要約・整理を経た上で皮肉り、たしなめる。シュミットのキャラの濃さは面白く、蔭山の中公新書を読み直したくなったし、コジェーヴに関する伝記的記述も貴重。フーコーは最も手厳しく批判されている。デリダの晩年はなんか柄谷の晩年(今)とだぶる。

河上徹太郎 『日本のアウトサイダー』

目次を一読し、文学者たちに関する挿話が豊富そうだったので、それに惹かれて本書を手に取った。が、読み終えてみるとむしろ面白かったのは後半の、広義の社会運動家たちについての記述の方だった。アウトサイダーは幻(ヴィジョン)を見、それに向かって邁進する人のことであって、それ以外にさしたる共通点はない。そのためこの本もまとまりを欠く部分があり、それが読みづらさにもつながっていると思う。しかし三好達治、梶井基次郎、岩野泡鳴、河上肇、内村鑑三といった人々の章は面白く読めた。

山本淳子 『紫式部ひとり語り』

紫式部じしんが書いたものや同時代の人びとの日記などに拠りつつ、紫式部の人生を再構成した本。口語体の回顧録。道長との戯れや、娘への思い、女房としての苦労、清少納言や和泉式部の評価など、紫式部がどんな人だったかを大掴みで知るには良い本だったと思う。でも親しみやすい文章で書かれているあまり、紫式部の自意識との距離感が縮まりすぎて、それが若干食傷気味。等身大といえば聞こえがいいが、その自意識はやや矮小なものになっている気がしないでもない。意図せずして、「ひとり語り」における韜晦の重要性に気付かされる本だった。

光嶋祐介 『ここちよさの建築』

あほみたいな感想だが、自分にとってここちよいと感じる空間を作ることはたいせつだな、と気付かされた。でも願わくばもう少し知識が詰まった本であってほしかった。ブックリストが付いているのは嬉しい。

金には困ってません。