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権利を実現するのは大変 その2

 債務名義を取得したら、次は強制執行だ。権利にはいろいろな内容のものがあるが、具体的にどのようにして実現するのだろうか。

強制執行が必要

 確定判決その他の債務名義により、権利者の権利が認定されていたとしても、権利者が実力で権利を実現することは許されない(自力救済の禁止)。
 買主は売主のところから商品を無理矢理持っていってはいけないし、家主は(たとえ行方不明になっていたとしても)借家人の荷物を搬出してはいけない。そんなことをすれば、逆に売主や借家人から損害賠償を求められてしまうし(実際、損害賠償を求められていると相談されたことがある)、犯罪にもなってしまいかねない。
 権利を実現するには、国家権力により強制的に実現してもらうしかない。これが強制執行である(民事執行法が規定している)。
 権利者は、債務名義を添えて裁判所に強制執行を申し立てなければならない。

「債権の強制履行」と「強制執行」

 経営法務のテキストでは、債権の強制履行について説明がされている。
 しかし、強制的に権利を実現する必要性があるのは債権に限った話ではない。他人が自分の土地に勝手に建物を建てて居座っているとき、土地所有者は所有権に基づいて土地の明渡請求ができる。これは物権的請求権であるが、義務者が義務を履行しない場合にも権利が実現できるのでないと困ることは債権と同じである。
 国家は、債権に限らず権利(厳密には請求権)を強制的に実現させる手段(義務を強制履行させる手段)を用意しており、これが強制執行である。
 したがって、債権の強制履行の手段は強制執行であるが、強制執行のなかには債権以外の権利の強制履行も含まれていることになる。
 では、なぜ、テキストでは債権についてだけ強制履行のことが触れられているのか。それは、民法(債権総論)の専門書で触れられているからだ。専門書では、債権の強制履行は民法414条の説明として触れられている。

債権の強制履行 

 民法414条は、債権は強制履行することができると定めている。
 こんな当たり前のことを定めているのは、法制度としては、債権の履行の強制を許さず、損害賠償だけで対処するというものもあり得るからだ。「強制」ということは「債務者の意思に関わらず」ということであり、個人の自由意思を重んじる近代民法においては履行の強制は許されないというのである。
 また、民法414条は、債務の性質によっては強制履行ができないことを定める。債権(債務)の内容には様々なものがあり得、なかには強制履行に馴染まないものがある。婚約も契約であるが、婚姻を強制することはできない(婚姻するという債務自体は有効であり、不履行の場合、損害賠償請求ができる)。また、画家に強制的に絵を描かせても、絵を描く債務を履行させたことにはならないだろう。

強制執行(債権の強制履行)の方法

 債権の強制履行は強制執行により行うから、強制執行の方法は債権の強制履行の方法と同じである。
 テキストでは、強制履行の方法には直接強制、代替執行、間接強制があるなどと説明される。専門書では、債務の性質と絡めて説明されている。

直接強制

 物の引渡し(不動産の明渡し)の強制執行は、債務者から物を取り上げて(債務者の占有を解いて)、債権者に引き渡すという方法により行われる。金銭の支払いは債務者の財産を差し押さえて売却し、売却金から支払うという方法が取られる。これらは、国家権力が直接、債権の内容を実現するもので直接強制と言われる。

作為債務 

 債務の中には、労務を提供する、物を作る・壊す、舞台に出演する、所有権移転登記をするなど、債務者の行為そのものを内容とするもの(作為債務)もある。
 作為債務の強制執行の方法は、債務の内容が債務者本人でないと履行できないものであるか否かによって異なる。

代替執行

 建物を壊す債務のように、債務者本人でなくても履行できる債務(代替的作為債務)の場合は、第三者にやらせる(その費用は債務者に負担させる)という代替執行の方法が取られる。
 手続としては、(債務名義を添えて)裁判所に授権決定(第三者に債務を履行させるという決定)の申立てをし、これを得た上、第三者(通常は執行官)に義務を履行させる。
 債務者本人でなくても履行できる債務というと、いろいろな債務が含まれてきそうだが(建物建築請負とか)、履行させる内容が一義的に決まる必要があるから(そうでないと履行する第三者は困ってしまう)、代替執行の方法を取ることができるのは、実際上、「壊す」とか「撤去する」債務に限られている。

間接強制

 債務者本人でないと履行することができない債務(不代替的作為債務)は、債務者本人に履行してもらうよりほかない、
 しかし、債務者を無理矢理連れてきて、監視の下、債務を履行させる(労働させる、物を作らせる)ことは、債務者の人格を否定するものであり、許されない。
 不代替的作為債務の強制執行は間接強制という方法が取られる。間接強制は、債権者の申立てにより、裁判所が、履行しない場合に債務者に金銭を支払うこと(不履行1日につき○円とか)を命じる決定をすることにより、心理的に履行を強制するものである。
 もっとも、債務者本人でなければ履行できない債務には、そもそも強制執行に馴染まないものが多い。また、履行が容易であり、かつ履行と不履行の区別が明解な債務でないと間接強制の方法は馴染まない。そうすると、不代替的作為債務で間接強制が可能な場合はかなり限定され、説明しやすい例が思い浮かばないほどである。典型例としては、中小企業診断士試験の出題範囲からはずれるが、離婚後の子どもとの面会交流の義務がある。
 ところで、不履行の場合は金銭を支払わせることにより心理的に履行を強制するという方法は、不代替的作為債務の場合でなくても効果がありそうである(物を引き渡すまで1日○円払え)。そこで、金銭債権を除いては、他の方法によることができる場合であっても、間接強制の方法を選択することができることとされている。金銭債権が除かれているのは、お金のない人にさらにお金を払えといってみても強制にはならないからである。なお、最近の改正で金銭債権であっても養育費・婚姻費用の支払債務については間接強制が可能となっている。

不作為債務

 ○db以上の騒音を出してはならないといった不作為債務の強制執行については、間接強制の方法が取られる。

不動産登記の実現

 所有権移転登記等の不動産登記を命じる判決の効力については、不動産登記法に規定があり、勝訴判決を得た原告は、その判決書を登記所に持っていけば、判決どおりに登記してもらえることになっている。

試験対策

 出題可能性は低いが、次の点は押さえておこう。
①代替執行と間接強制の内容
②金銭債権は間接強制ができないが、婚姻費用・養育費債務だけは間接強制が可能であること
③不動産登記の場合は判決書を登記所に持っていけば登記してくれること

 



 
 






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