相殺適状
問題
自働債権に弁済期が到来していなくても,受働債権に弁済期が到来していれば,相殺することができる。
類題:H30-19ウ
解答
誤り
自働債権には弁済期が到来している必要がある。逆に,受働債権に弁済期が到来していなくても相殺は可能。
解説
相殺とは
相殺とは、2人が互いに同種の債権を有している場合に、一方的な意思表示(単独行為)により、お互いの債権を対当額で消滅させる行為である。
例えば、AがBに対して100万円の債権を有し、他方、BがAに対して100万円の債権を有している場合、本来ならば、BはAに100万円を支払い、AもBに100万円を支払わなければならない。相殺は、これを、現実にお金を動かさずにお互いに双方の債権を支払ったことにして、双方の債権を消滅させる行為である。
以下の説明では、相殺の意思表示をしたのはAであるとする。
相殺の意思表示をしたAの債権を自働債権、された側Bの債権を受働債権(反対債権)という。自働債権と受働債権はこんがらがりそうだが、「自分から」相殺の意思表示をした側の債権が「自働」債権だと覚えればいい。
相殺適状
民法の規定上、相殺するためには自働債権と受働債権の「双方の」債権に弁済期が到来している必要があるとされている。
この知識だけで本問は正解できてしまいそうだが、実は、出題者は「自働債権は弁済期が到来している必要があるが、受働債権は弁済期が到来していなくてもよい」という知識との混同を狙っていたはずだ。
この知識は、司法試験や司法書士試験でもしばしば問われる知識であるが、次に示す理由さえ押さえておけば、暗記しなくても、考えれば正解できる。
相殺は、自働債権の債権者Aの「一方的」意思表示により、双方の債権を消滅させるものだから、自働債権の債務者B(=受働債権の債権者)にしてみれば、受働債権(の回収金)により自働債権を弁済することを強要されたのと同じことになる。
ところで、自働債権の債務者Bは、自働債権の弁済期が到来するまでは自働債権を弁済する義務はない(期限の利益がある)。Bとすれば、自働債権と受働債権の弁済期のタイムラグを利用して、先に弁済期が到来した受動債権をAから回収し、その回収金を他の支払に充て、Aへの自働債権の支払は、その後に回収する別の債権からの回収金を充てるという資金繰り計画を立てることもできる。
しかし、この場合にもAから相殺されてしまうとなると、自働債権の債務者Bは、本来、自由に利用できたはずの受働債権の回収金を、弁済期が到来していない自働債権の弁済に充てることを強要されたのと同じことになり、期限の利益を一方的に奪われることになる。それ故、自働債権には弁済期が到来している必要があるとされている。
他方、弁済期までは債務を支払わなくてもいいという期限の利益は、債務者のためのものであるから、債務者が、期限の利益を放棄して、弁済期の到来していない債務を弁済することは自由である。
したがって、自働債権の債権者A(=受働債権の債務者)は、受働債権について弁済期が到来していなくても(自働債権の弁済期が到来していれば)、期限の利益を放棄して、相殺することができる。
ここを押さえよう
①「自分から」相殺の意思表示をする側の債権が「自働」債権
②自分から相殺の意思表示をする側は、自分の債務(受働債権)については期限の利益を放棄して、弁済期が未到来でも支払うことができるが、相手方の債務(自働債権)については期限の利益を奪うことはできず、弁済期が到来するまで弁済を強制できないから、相殺するためには、受働債権は弁済期が到来している必要はないが、自働債権には弁済期が到来している必要がある。
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