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アーモンド・スウィート

 中嶋彩葉は自分の将来を楽観視していない。自分の顔を少しも可愛いと思ったことがない。まず目が細くて瞳も小さくて可愛くない。鼻が低い。耳は顔の大きさに対して大きくて厚みがあって可愛くない。唇は母に似て薄い。肌の色は白いけども、なんとなく青みがかっている老けてみえる。背もクラス女子20人中で前から七番目。低いと思う。可愛いければだぶんバカでも、アイドルでも雑誌モデルにでも成れるだろうが可愛くないから成れない。そもそもモデルになるには背も低い。成長期に伸びたからといって20㎝も30㎝も背は伸びないだろう。良くて10㎝、15㎝くらいで、ならば150㎝くらいに成れればいいと思う。ギャル雑誌のモデルさんは160㎝なくても成れると聞いたけれど、ギャル雑誌のモデルになるにも愛嬌と人に好かれる性格、キャラが必要だと思う。彩葉は自分が他人に好かれる性格だったと思ったこともない。
 運動も得意ではない。50メートル走をすれば、なぜか両肘を外側に振るような走りになり。足も真っ直ぐ前に伸びず、すこしガニ股走りになる。もともと脚がO脚なのでしかたがない。水泳もO脚の所為でバタ足が下手でクロールが苦手。なら平泳ぎが得意そうだけど、横向きにも正面でも顔を上げるのが下手で、水面から顔を上げて息継ぎをしただけでおぼれそうになってしまう。もちろんバタフライ、背泳ぎもだめ。背泳ぎも水を掻いたときに掻いた水が顔にかかりおぼれそうになっている。球技はドッチボール、ミニバスケットボール、バレーボールと好きなんだけど、ボールを掴まえるときに痛いのが嫌で、逃げ回っている。そんなもんだから、一分、二分もしないうちに彩葉にはボールが廻って来ない。みんなから遠慮されているのか、期待されていないのか。嫌になる。それでも好きだから、クラスのみんなが楽しそうにプレイしているとまた参加したくなる。入れてもらうと、ただただ逃げ回っている。

 彩葉自身は勉強して良い大学を出て、良い職業に就いて、結婚して円満な家庭を築く。これがもっとも想像しやすい自分の将来だと考える。会社に入って管理職に就くとか、弁護士になるとか、医者になるとかキャリア女子になる気はない。一生仕事だけの人生なんて、想像するだけで辛くなる。結婚して子供を作って、幸せになる。家族と仕事を天秤にかければ、家族の方へ天秤は下がる。家族を優先出来るならば、弁護士も、医者も成れたら良いと思う。いまから中学、高校、大学での男女交際なんてどうでも良いと思っている。カレシが居ても邪魔じゃないし。居なくても寂しくないと思える。きっと大学を出たあとの就職先で出会った男性と本格的に付き合い、そしてその人か、周りから紹介された人と結婚するのだろう。彩葉は三人姉妹の長女だから、子供は出来れば三人、少なくても二人は産もうと思ってる。妹が二人居て、良い思い出も、嫌な気持ちになったことも沢山あった。いろいろ考えて兄弟は居た方が良いと思う。

 遊海は自分のことが好きらしい。羨ましいと思うと共に自惚れが鼻につく。本来なら嫌いなタイプだけど、「好き」とはっきり何度も言ってくれるのは遊海だけだから。なんとなく捨てがたい。このままで良いかなと思う。

 今は勉強することで、将来に向けて煉瓦を積んでいる気がして安心する。
 でも漠然と、ときどき不安を感じるときもある。11歳のいまだけしかない輝きや気持ちを活かさないで、あと10年も繰り返し繰り返し勉強しているだけで本当に良いんだろうか。遊びたいというのではなく、いまだけの経験と感覚を取りこぼして進んでいる気がするだけのこと。いいんだろうか?
 

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