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アーモンド・スウィート 夢は 働きたくない、寝ていたい

 塩沢勝雄の父親は工事用10㌧トラックの運転手をしている。朝早く自宅前のガレージに停めた125ccのカブに載って、江東区塩浜にある会社に向かう。毎日通勤に三・四十分かかる。暗いうちから家を出て、大変な仕事だと思う。勝雄もトイレに起きたとき、父がまだ居るときは「いってらっしゃい」と目をこすりながら言う。父は自分で拵えた弁当を持ってゆく。大概は大きなおにぎり二個と自然解凍の冷凍唐揚げ、業○用スーパーから買って置いた野菜の煮物を少し、同じく買って置いた冷凍茹でブロッコリーとカリフラワーの冷サラダを籐の入れ物に入れてお弁当として持ってゆく。
 勝雄は将来父のようなトラック運転手、工事現場で働く特殊車両、ショベルカーやクレーン車、ホイールローダー(ショベルカーが内側にアームを動かし瓦礫や土をすくうクルマなら、外側にアームを動かし瓦礫や土を掬うクルマ)やガラパゴス車(解体現場などで出たコンクリートをその場で細かく砕き、再利用できるように、またはトラックに積みやすいようにする)に乗る人に成りたいとは思わない。何しろ大変そうだと思う。工事現場、建築現場で働くとびや鉄筋工、型枠工、基礎工、外装・内装工事なども同じように大変な仕事だと思う。勝雄は外で身体を使う仕事より、建物の中で働く仕事のほうが良いように思う。でも会社の営業マンとか経理マンなどの、事務所で頭を使った仕事をしたいという風にも考えていない。勉強は好きではない。出来れば中学を卒業したらもう学校へは通いたくない。高校くらいは卒業しておいた方が良いよと母親や兄はいうけど、勝雄は行くつもりはない。兄は八歳上で、現在大学で理工学部に通っている。
 勝雄が好きなことは、一に寝ること、二にアイスクリームが好き、アイスクリームは春夏はもちろんのこと秋冬でも食べる。三にカップラーメンが好き、四にSNSにライブ中継を見るのが好き、特に高校生か大学生くらいのお姉さんが自室でやっているライブ放送を見るのが好き。中学を卒業したら家を出て、何かのバイトをしながらネットカフェで暮らすのが夢だ。以前、土曜日の午後に母親が見ていたテレビで、インターネットカフェで暮らす人びとについてやっていたのを勝雄も見た。この生き方が勝雄の考える理想だと思い、それからネットカフェでの一人暮らしが夢になった。

 働きたくないのには理由があり。勝雄は授業中すぐに眠くなり、そのまま頑張らずに寝てしまう。五年二組の担任の椎本先生に毎日怒られて、クラスのみんなからは笑われている。笑いたいヤツは笑えばいいさ、と思う。寝て生活出来るなら、一番それが良いのだがそんな上手い話しはない。大人の世界では、株や為替や先物取引という架空のお金や物を売り買いしてお金を儲ける方法があるらしい。しかし、堀○貴文というその世界で有名な人が言っていた動画を見たけども、「一億円ないと、(仕事を何もしないで)配当だけで遊んで暮らすなんて出来ないですよ」「分散投資しても、結局、儲けたり損をしたりはあり前にするんです。常に利益だけ得るという虫の良い話しはない。だけど総合的に一億円くらいの資産があれば平均して、仕事をしなくても食べては行ける」と思うと言っていた。夢のような話しだと勝雄は、胸をドキドキしながら聞いた。
 しかし現在の勝雄には一億円はない。働かずに一億円は手にするにはジャンボ宝くじを当てるしかない。やはり堀江○文が「宝くじを買うようなヤツはバカですよ。あんな物当たるわけがない」と言っていた。じゃあ、どすれば良い。銀行強盗をするか、特殊詐欺をするか、お金を沢山持った老人に近づき養子になって保険金を掛けた後殺すか、全部テレビのニュースで見た、一攫千金を狙った悪い大人たちがやった犯罪だ。完全犯罪が成功すれば、一億円が手に入り、あとは株や為替で儲け、ネットカフェで一生遊んで暮らせる生活が出来る、ということか。

 今は誰にも言ってない。内緒である。

 ただ、勝雄には自分で自覚している欠点がある。それは、人との約束をすぐに忘れる。自分で決めた目標も計画も約束事も覚えられない。忘れると分かっているのにメモを取らないことだ。
 きっと寝るからいけないのだと思う。寝ると、目覚めたときに約束は必ず忘れている。宿題も、椎本先生から親への連絡も、クラスの友達した待ち合わせも、全部忘れている。寝なければ良いと母は言うけど、ともかく眠くて眠くてしょうがないのだ。学校でも眠い、家に帰って来ても眠い、夕ご飯を食べるともう眠い。

 眠い……。眠い……。学校に行く、スクールゾーンの途中に寝る場所があれば、すぐに横になって眠るのに。勝雄が寝ている間に義務教育の五年が過ぎたら、その間考えなくて良いに。覚える必要もないのに。守る約束もしなくて良いのに。約束も忘れてしまって良いのに。
 朝のホームルームまで、机で腕に頭を付けて寝よう。ふあっ……。

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