30年ぶりに釣りをしてみようと思う (3)

2020/06/07
唐突に具体的な日付が登場したけれど、もっとも大事なファクターであるポイントの下見を開始しようと思う。魚のいない池に投げていたらどんなルアーだろうが釣れない。これはどんな達人でも破れない鉄則だ。なるべく地形を見たかったので、干潮から上げに変わってすぐの午後6時、まずはうちからいちばん近いピア35にまた行く。今日も3人。誰も釣れてない。南下してみることにする。

スクリーンショット 2020-06-21 午前6.08.10

マンハッタンブリッジをくぐり、ブルックリンブリッジ(地図で黄色のほう)をくぐり、釣り人はゼロ。ストラクチャーはちょこちょこあるんだけどだいぶ浅い印象で、あと橋脚には補修工事の台船が付いていたりして雰囲気あるんだけど、陸から100mくらいあって、自分がキャストしても届きそうなイメージが抱けない。やはり桟橋みたいに岸から張り出したところがよさそうに見える。

ピア17は巨大ビアガーデンが有名だけどコロナで閉鎖中。隣のピア16でようやくひとり、釣り人を発見した。やたらと背の高いチャイニーズのご夫婦。この人はこれまで見てきたエサ釣りの仕掛けにソフトベイト付けてる人たちと違って、ジグヘッドにストレートテールのソフトベイトを付けてスローリトリーブしていて、つまり初めて見かけた明確なルアーマンだった。

「陸っぱりで釣れるのはこれ(30cm)くらいから大きくてもこれ(1m)くらいで、それ以上のサイズを釣りたければ乗合船で沖に出たほうがいい。釣れるのはいつもボトムで、ワーム」とのこと。いまになって思うと、ワームはたぶん5インチなんだけど、ジグヘッドは船でやるワーム釣りみたいにでっかいの使ってた。動画で伝わるかわからないけど、潮がめちゃくちゃ速いせいじゃないかと思う。河口の水ってこんなゴウンゴウン流れてるもんだっけ。

となりのピア15も真ん中くらいにブッコミおじさんがひとり。ただ先端部はウッドデッキが階段状になっていて、デッキチェアがふんだんに設置されているので、もう日焼け&ダベりのカップルやBluetoothスピーカーでEDMかけてるウェイ勢がわしゃーっと50人以上いる。みんなソーシャルディスタンスなんか知るかーって感じで楽しそう(屋外の感染リスクは低いと言われている影響?)。いずれにせよこんなに人手があるんじゃ危なっかしくてキャスティングどころじゃない。やれて明け方くらいか。

そこからまた、来紐者におれがいつも薦めるイーストリバーフェリーのターミナル、おととし墜落を出した観光ヘリポート、夏だけオープンするガバナーズアイランドフェリー、そして有名だけどちょっと退屈なスタテンアイランドフェリー、と建造物が続き、マンハッタン最南端まで釣り人はゼロ。あれだけ船がガンガン行き来してたら魚も居着いていられないのかもしれない。道は大きく右に湾曲して、バッテリーパークに突入。ここを境に水域はイーストリバーからハドソン川に切り替わることになる。

バッテリーパークに入ってすぐ、自由の女神のビューポイントとして開けた部分が、たぶんロウワーマンハッタンでもっとも多くの釣り客が出ているエリアだ。このときも10人近くいた。全員エサ釣りの置き竿で、ひとりで4本も出してたりするんだけど、みんな釣りよりダベりと社交がメインディッシューって感じ。あと人種構成がすっかり入れ替わってチャイニーズはひとりしかいなかった。いちおう全グループに聞いてみたけど、誰もまだ釣れていなかった。

そしてまたぱったり釣り人はいなくなり、ハーバーハウス、サウスコーヴ、ノースコーヴ、ロッカフェラパークからピア25、絶対釣り人がいるだろうと踏んでいたピア34(最初の地図で左上の、グレーの線が飛び出してるところ。グレーの線は海底トンネルなんだけど、トンネルの換気口まで長ーい桟橋が続いてる)も釣り人ゼロを確認したところで、この日の下見は終了。それにしても、だ。ここに至るまで釣れてる魚もゼロだし、ベイトも甲殻類も、動く生命体を目撃することもゼロ。貝と海苔だけ。こんなに生命感ない海ってあるもんかね。

2020/06/10
いっとき完全に破綻していた物流はほぼ完全に回復、amazonの荷物がちゃんと予定日に届くようになり、竿とリール、道糸とハリス、あとスナップまで手元に揃った。これらは大きく外すことはなさそうなので、ぜんぶバーゲン品ばかりで揃えたが、問題はルアーだ。ピア35の人たちは全員グラブかシャッドで、色もみんなグローかチャート。それはわかっている。だけどなんか、それじゃつまらない気がして、youtubeを見まくっていた。 

ひとつにはアメリカのストライパーアングラーの動画を見て、現地の人が何を使ってるか、おおよそ把握するようにチェックしていった。そしたらこれが、まったく役に立たない。ソフトベイト各種から名作ミノー 、最新ミノー 、ポッパー、クランクベイト、バイブレーション、スプーンからバックテールジグ、果てはスピナーベイトまで紹介されていて、みんなあまりに思い思いすぎる。トレンドはないのかトレンドは。これじゃどんなルアーでもいいってことになってしまう(ひょっとしたらそうなのかもしれない)。

いっぽうで日本人プロアングラーのyoutubeも見まくった。こちらは使用ルアーもさることながら、視座を収集することが目的だった。初めての土地で釣ってる動画ばかりをなるべく選んで、そのプロが何に着目して何を判断材料にどういう釣りを組み立てていくのか、その思考経路のサンプルを集めていった。考え方をある程度模倣できるようになれば、シーバスとストライパーという魚種の違いこそあれ、いま目の前にある光景のなかで何をやったらいいか、取っ掛かりが得られるんじゃないだろうかという期待があった。

ほんとはこういうとき、地元の釣具屋に言ったらリコメンドが出てきて情報も得られて一発で解決なんだけど、コロナのせいで釣具屋はしまったままだ。情報収集のあいだに現代的な釣り糸の結び方を、これまたyoutubeで学習する。ナイロンラインがPEラインにとってかわられたのは、同じ強度ならPEのほうがずっと細いこと、あと伸びが少ないことが理由だという。ナイロンしかない世界しか知らないので、選択肢があることがまず現代的だなーと思う。

しかしPEラインにも弱点があって、摩擦にめちゃ弱いらしい。そのためフロロカーボンという固い素材の糸を最後の数10センチに結んで、岩や魚体で擦れて切れるのを防ぐ。問題は細いPEと太いフロロの結節だ。太い糸と細い糸を強く結ぶのは簡単ではない。昔は電車結びというのがあったけれど、いまは廃れていて、FGノットというのが主流らしい。そしてこれが、うまい人でも2分かかる。初心者なら10分かかる。

あるテクノロジーが発明される。しかしその新技術を使うためには別の技術が必要になって、その別の技術を取り入れるためにはさらに別の技術が必要になる。ものごとが玉突き事故のように高度化、複雑化していくのって現代的だなーと思う。もうチチワ結びの昔に戻れないのだろうか。意外とそうでもない気もしないでもない(悪文)。そんなことを思いながら14、5回FGノットを練習して、およそ動画どおりきれいに編めるようになった。

考えてみると釣りを思い立ってからまだ、サカナの姿を一切見かけていない。ものごとを習得するのが極端に上手な人っていて、たぶんそういう人ってバッとホームセンター行って何でもいいからバカ安セットみたいのをバッと買って、片結びでとりあえず針と糸を結んで、隣の人と同じエサつけてバッと放り込んで、それでビギナーズラックかなんかで1匹かけて、それで釣ったりバラしたりして軌道修正しながらアップグレードを図ったりしていくんだと思う。

そういう人に対する憧れが、ある。かたや私は動き出しが極端に遅くて、動き出しまでにじくじくじくじく考えを練ったり煮詰めたりして、ようやく現場に出るタイプだ。いくら考えたところで実地が伴っていないので、結局はさっきのバッと始めた人と同じくらい軌道修正を図らなければならず、つまりネチネチネチネチ考えている時間はただの無駄ということになる。なるのだが、好きなんだよネチネチネチネチ考えてる時間が。たぶん。


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