30年ぶりに釣りをしてみようと思う (7)

2020/06/22 7:30PM〜11:30PM  上げ5分〜満潮〜引き2分

夕方、太平洋水族館に行って、ロストしたぶんのジグヘッド類と、あとYO-ZURIのバイブレーションを買った。タイドグラフを調べていて気がついたんだけれど、マンハッタンの突端にあるバッテリーパークと、そこから3kmほどイーストリバーを上ったブルックリンブリッジとでは、満潮時間が40分も違う。12kmほど上ったヘルズゲイトになると、4時間も違う。なんかこれはすごい気がする。

潮汐はマクロ的には緯度経度で決まるけど、実際には地形の影響を大きく受ける。たとえば変化に乏しい九十九里浜でつながっている片貝と大原は、40km離れてるけど満潮の時差は10数分しかない。一方で神戸と明石は12kmしか離れていないけど、満潮時刻が2時間近く違ったりする。つまり海峡のような地形では、単純な海岸線とはまったく異なる力学で海水の移動が生じ、結果渦潮が発生するような強い潮流が生まれるし、満潮時刻も変動するというわけだ。

同様にイーストリバー河口も潮汐による流れは上げも下げも激流みたいで、それとどう向き合うか、もしくはどういなしていくかで釣り方があらかた規定されてしまう。たとえば常識的には潮の動きが止まる時間帯ってサカナの活性が下がり、釣りには向かないとされているんだけど、潮流のやたら速いこの河口では、仕掛けが流されずに済む潮止まり前後がいちばん釣りになる時間帯となる。

そう考えていくと、ローカルの人たちが使ってる前時代的なブッコミ仕掛けはアタリへの感度がどう考えても悪いけど、仕掛けを流れに持ち去られないという大前提を満たすためには必要なものだし、重くて鈍感そうなぶっとい竿にデカリールも、流されない重いオモリを使うためには理に適っているってことになる。ただ自分の手もとにいまブッコミ仕掛けはないから、別のアプローチを考えることにした。

たとえばどんな突風が吹いていても、建物の裏側に回り込めば無風地帯がありそうなことは経験的にわかる。水の流れも流体なのは一緒だろう。ロウワーマンハッタンは地形的には岬なので、海に面する方位は東〜南〜西と少なくとも3方位ある。3方位選べるうえに建造物も豊富にあるので、どっかしら流れが弱い場所があると思うのだ。以前下見で回ったときは流れなんて見てなかったから、それがどこなのかはわからないけれど。

というわけでピア35の陰になっていそうなピア42からスタートして、南向きのバッテリーパーク、西向きのロッカフェラパークと流れの弱いところを探す旅に出ることに決めた。もし疲れてしまってもレンタルバイクのステーションがどこにでもあるし、まだ台数が少ないけど電動スクーターのシェアライドもある。なんとかなるだろう。

ピア42は敢えなくゴウンゴウンに流れていて、いきなり当てが外れた。例によってマンハッタンブリッジをくぐり、ブルックリンブリッジをくぐり、フルトン魚市場跡の手前にようやく、魚市場にブロックされた、水路みたいになった場所をはっけん。ところが逆に淀みすぎていて、見るからに沼みたいな、酸素供給もなさそうな水。一応投げてみたけど、水深もないし、すぐにやめて次を目指した。

ニューヨーク湾の海上灯台として機能したアンブローズ号が係留保存されているピア16。下見に来たとき話したチャイニーズのご夫婦がまたいて、こないだは世間話だったのに釣竿持って現れたもんだからちょっと笑われた。プラス中華系が2人、やや先端側に白人が2人。桟橋の南側、ピア15との間はゴンゴンに流れが入っているのだが、北側にあたるピア17との間は、なぜか無風地帯になっていた。そして全員がそこめがけて釣りをしている。みんな考えることは同じなのだ。

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よっしゃーとディスタンスをさぐりつつ混ぜてもらう。ぜんぜんバイトもないのだが、ミノーを投げればちゃんと泳ぐし、バイブレーション投げればカウントダウンして泳層を選べるし、ジグを対岸の壁際に投げてそのままキワに落としたり、流れがないだけでだいぶ楽しいというか、下手なりにそれっぽく戦えるのだった。逆にいえば上手くなるということは、もろもろの悪条件のなかでも自由が利くようになる、ということなのだろう。

チャイニーズのうちふたりはストライパー狙いでジグヘッド、あとのふたりは巨大な反射板のついたサビキを落としていて、サビキの人は10〜15分に1匹ペースでシャッド(たぶんヒッコリーシャッド。サッパとかコノシロに似ている)が釣れている。白人ふたりもジグヘッドだけど、ちょいちょい魚を掛けては、しかし全部バラしている。フッキングが難しいのかな。

そんなことを観察していたら、白人ふたり組が挨拶してきて、やおら「ずいぶんデカいジグを投げてるね。ちょっとこれ使ってみなよ。あげるから」と自分が使ってるルアーを渡してきた。えらい小さいジグヘッドに、たぶん3インチの白いグラブが付いてる。えーいいの? サンキューサンキュー。こんな軽くて着底するのかいな、と思いながら放ってみて、なんとなく底を取ってシェイクしていたら、ものの2分も経たないうちにゴンゴーンと魚のアタリ。「えっ?えっ?」って取り乱してる間にバラシてしまった。

このシリーズ読んでる人はおわかりのとおり、ぐだぐだウジウジと準備したり、キャスティング練をしたり、ようやく本気出したりしてもう2週間になるけど、これまでおサカナさんとのやり取りは皆無。それがもらったジグ付けたとたん、ゴンゴーンですよ。焦ったわ正直。フィッシュしたけどミスしたーッ、って伝えると「イエーイそれいいだろ? ワークするだろ?」と2人組。そんなやり取りしてる間に、またゴンゴーン!

今度はだいぶ落ち着いて、竿の弾力を使って浮かせることができた。水面に姿を見せたのは……ストライパーだ! 小さいけど。「ウオッとぉ(魚だけに)」またバレた。でも姿を見たぞ。さすがに2回バラシたので、数メートルだけ場所を変えてまたシェイクしてると、こんなことあるもんかね、またもやゴンゴーンですよ。

今度はサビキの人が釣ってるシャッドだった。ギョッとして(魚だけに)水面から抜き上げようとした瞬間、ボチャーン。ちょうど2人組が帰るところで、ウザいくらいにお礼を言いまくる。最初のバラしがシャッドだったかストライパーだったかわからないけど、とにかく生きてるストライプドバスの姿が見れたことで、もう俄然テンションが上がってしまった。大きさ、ルアーの大きさなのだ。大きさを変えるだけで食ってくるのか。

残念ながらその後はバラシどころかアタリもなくなってしまい、いくつルアーをチェンジしたところでパーンと軽い音がして竿先が折れて、おしまい。強制終了。えええ、こんなかんたんに折れちゃうの? それもボキッ、じゃなくてカラスノエンドウの莢が弾け散るように、パーンって。呆然としながらシェアライドのエレクトリックスクーターで家まで帰った。

翌朝。カーボン竿が安く手に入る時代になったのはいいけど、あまりに扱いが難しい。昔の重くて鈍感だけどのんびり雑に扱えるグラスファイバー製のつり竿が懐かしい、と奥さんに言うと、「バドミントンのラケットもそうよ。軽くてスイートスポット広くなってめちゃ飛ぶようになったんだけど、ガットのテンションちょっと間違えただけでポッキリ折れる」とのこと。あらゆるものが軽量で敏感で、けれど折れやすく取り扱いが難しくなったのが現代だなーと思いました。チャリのフレームも、メガネも、人の心も。なんつって。なーんつって。

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