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【PHI】Dave Dombrowskiはどうやってフィリーズをワールドシリーズに導いたのか

どうも、フィリーズ担当のペンでございます。
もうすぐフィリーズにとって12年ぶりのワールドシリーズが始まります。

開幕前の戦力分析で書いたことが現実味を帯びてきたので改めて「みんなフィリーズの戦力を過小評価しているって言ったでしょ」とドヤっておきたいと思います。

そんな私の意味のないドヤりは置いておきまして、
今回は現在フィリーズの野球部門の最高責任者であるDave Dombrowskiがどのようにフィリーズを勝てるチームにしたのか、その改革の工程をnoteにまとめたいと思います。
それではnoteスタートです。

Dave Dombrowski就任までの過程と20年オフの動きをまとめる

まずはDombrowskiがフィリーズの野球部門の最高責任者に就任するまでの過程をおさらいしましょう。

2015年に先代のフィリーズのオーナー故David Montgomeryが病気のためにオーナー職を退任、現在のオーナーであるJohn Middletonがその職に就任したところから現在のフィリーズの再建は始まりました。
Middletonはオーナーに就任すると同年途中に元オリオールズ球団社長だったAndy MacPhailを球団社長に、同年オフに当時エンゼルスのアシスタントGMだったMatt KlentakをGMに採用し王朝としての力をすでに失っていたフィリーズの再建を任せます。
一気に時間を進めます。MacPhail球団社長-Klentak GM政権下は5年間続きましたが一度もシーズン勝ち越しすらすることが出来ず、Klentakは20年のシーズン終了後すぐに解任されることになります。

2020/10/3
解任
・Matt Klentak 前GM

MacPhailはチームに残りましたが、野球部門の最高責任者の地位からは追われることとなりました。
そして、Middletonが新たに野球部門の最高責任者として獲得したのがDombrowskiだったのです。

2020/12/11 
就任
・Dave Dombrowski 野球部門最高責任者

Dombrowskiの経歴は書くだけでnote1ネタ分あるくらいに長いので気になる方はググってください。
というわけで、これからDombrowskiは最低限の人事を実施します。

2020/12/20
昇格
・Sam Fuld GM
・Jorge Velandia アシスタントGM
就任
・Terry Ryan GM付きスペシャルアシスタント

ツインズで長年GMを務めたTerry Ryan御大は相談役程度の位置付けなので割愛するとして、新しくGMとアシスタントGMに指名したのは元メジャーリーガーですでにフィリーズの組織内で仕事をしていたSam FuldJorge Velandiaでした。
通常のGMが持つ選手の獲得についての最終決定権がDombrowskiにあるフィリーズにおいて、Fuldは元選手という経歴とその優れたコミュニケーション能力と知性でフロント・アナリティクス部門とコーチ・選手たち現場のコミュニケーションを繋ぐ重要な役割を担っています。また、ベネズエラ人として初めてのアシスタントGMとなったVelandiaは選手育成部門においてその力を発揮しています。また、VelandiaのアシスタントGM就任によりこの時点でフィリーズにはアシスタントGMが4名いる状況となりました。

ちなみに2020年の短縮シーズンで壊滅的な成績を残した投手陣を立て直すため、唯一外部から投手コーチとしてCaleb Cothamをヘッドハンティングしていますがこの人事はDombrowski就任前の人事となります。

つまり、Dombrowskiは就任後あえて早急に新しい人事を行うことはせずに、現時点でのフィリーズの組織内の人事評価をしっかり行うことで必要な人材の洗い出しを行う方法を選んだわけです。

驚きの契約延長

上で書いたようにDombrowskiの就任以降大きなフロントの入れ替えをしなかった20年オフのフィリーズですがある点においてはサプライズでもありました。
それはオリオールズ時代からMacPhail, Klentakと共に働き、Klentak解任後は暫定GMをしていたNed RiceアシスタントGMとの契約延長です。

2021/2/11
契約延長
・Ned Rice アシスタントGM

Klentakらと強い繋がりがあり強い権限も持っていたRiceはKlentakらと同じように職を解かれるのではないかと予測されていましたが、その中でのこの契約延長は驚きをもって迎えられました。
アシスタントGMの中でも契約交渉面で力を発揮していたRiceは本人の契約延長の直前に合意したJ.T. Realmutoとの再契約でもメインの交渉担当として活躍したとされており、能力のある人物をしっかり評価して重用するというDombrowskiの方針はすでにこの時点で示されていたのだと今になると理解できます。

Dombrowskiの改革のスタート

多少のサプライズはあったものの就任前とほぼ変わらないフロント陣で迎えたDombrowski政権の1年目でしたが、就任から8か月が経過した2021年8月についにDombrowskiは大なたを振いはじめます。

2021/8/24
解任
・Bryan Minnitti アシスタントGM
・Josh Bonifey ファームディレクター
・Scott Proefrock アシスタントGM

契約交渉、選手予算の管理や各種ルール面の対策等を主に担当していたScott ProefrockアシスタントGMに関してはすでに還暦を超えていたこともあり退任の側面が強いのでここでは割愛します。
ポイントはファーム組織の育成を担当していたBryan MinnittiアシスタントGMとJosh Bonifeyファームディレクターの解任です。
Klentak政権時のフィリーズは最先端の理論等を積極的に取り入れていく方針でプロスペクトたちの育成を目指しましたが、組織内での育成のプランの統一が行われていなかったためせっかくの投資もまったく結果に結び付かずファーム組織ランキングがMLBの最下位層に落ち込むレベルの崩壊をおこしていました。結果を残せなかったMinnittiとBonifeyが解任されたのは当然の話でした。
このようにフィリーズ内部の人材の評価を終え取捨選択を実施したDombrowskiは次に外部の人材の採用と組織改革を始めます。

外部の人材の採用と組織改革

Dombrowskiはファーム組織の育成、そしてここ数年崩壊していたブルペンという弱点の建て直しを図るべく外部から2人の人材を採用します。
まず、解任したBonifeyファームディレクターの後任として21年のシーズン終了前に選手育成担当部門ディレクターのPreston Mattinglyを迎え入れます。

2021/9/27
採用
・Preston Mattingly 選手育成担当ディレクター

Mattinglyはここ数年常にファーム組織の評価がトップクラスだったパドレスの選手育成部門の中心人物であり、前述した通り前任者たちがボロボロにしてしまったフィリーズのファーム組織の建て直しをFuld GM, VelandiaアシスタントGMと共に任されることになりました。

次にアシスタントGMとして当時若干28歳であったAli Kilambiと契約します。

2021/11/11
採用
・Ali Kilambi アシスタントGM

Kilambiは先進的なレイズのアナリティクス部門の中心人物の1人であり、特に毎年無名の選手を発掘しリーグトップクラスの成績を残しているレイズのブルペンの構築に深く携わっている人物でした。多くの費用を割いているアナリティクス部門の責任者、そしてブルペン立て直しのキーマンとしてKilambiがフィリーズに招かれたのは必然だったと言っていいでしょう。

この2つの人事によりDombrowskiが11ヶ月をかけて行ったフロント陣の刷新は完了しました。

フィリーズ 現フロント陣

Dave Dombrowski 野球部門最高責任者
Sam Fuld GM(内部昇格)
Ned Rice アシスタントGM:交渉関連担当(残留)
Jorge Velandia アシスタントGM:育成関連担当(内部昇格)
 + Preston Mattingly 選手育成部門ディレクター(外部登用)
Ani Kilambi アシスタントGM:アナリティクス部門担当(外部登用)

フロントだけではなく現場のコーチ陣の入れ替えも21年オフには行われます。
すでに高い評価を得ていたKevin Long打撃コーチ、Bobby Dickerson内野守備コーチ、Brian Kaplanアシスタント投手コーチの3名を外部から登用。
特にアシスタント投手コーチに就任したKaplanは投手育成ディレクターの職も兼任しており、メジャーレベルのコーチングを行うだけでなくマイナーレベルの投手の育成にも関わる重要な役割を担うことになりました。
詳しくは22年の開幕前に「監督・コーチ名鑑」ということでnoteをアップしているのでそちらをお読みいただければと思います。

さらにマイナーリーグレベルの監督についても外部からの登用があり、Mattinglyの下でパドレス傘下のマイナーレベルで監督していたAnthony ContrerasをAAAの監督に迎えています。

柔軟で長期的な選手補強の数々

Dobrowskiの動きはもちろんフロントやコーチ陣だけではありませんでした。
まずはなんといってもロックアウト解除後に一気にまとめたKyle SchwarberNick Castellanosの2名のスラッガーとの契約でしょう。
Andrew McCutchenOdubel HerreraがFAとなり外野の2枠を補強する必要があっあフィリーズはオフシーズンの当初は攻守に優れたStarling Marteをメインターゲットに定めていましたがMarteはロックアウト前にメッツと契約。残っていたFAの外野手の中でMarteのような攻守に秀でた存在は他におらず、守備のマイナスを差し引いても総合的に戦力として価値が高い2名をDombrowskiはMiddletonにラグジュアリータックスをオーバーすることの許可をもらった上で獲得したのです。
この補強はバランスの悪い補強として多くの議論を呼び開幕前にフィリーズの評価を落とす一因にもなったかと思いますが、私個人の意見としては昨年の外野手市場で攻守に優れたタイプがいなくなった時点で攻撃力に特化して攻撃力のプラスが守備のマイナスを上回るような編成にしようと柔軟に動いたのはフロントとしてはむしろバランス感覚に優れた動きだったと考えています。サラリーについても両者とも年平均2,000万ドル程度の金額とフィリーズレベルのお金を出せるチームにとってはリスクヘッジ可能な金額だったのも含めて良い契約だと言えます。

そして、大物だけじゃなく脇役の獲得についても創造的な動きを連発していきます。
まずは21年オフシーズンのルール5に備えてロースターを整理するタイミングで枠に余裕のあったフィリーズはNick NelsonGarrett Stubbsをトレードで獲得。
また、今年22年のトレードデッドラインでは長期間保有可能な若手野手で守備力に秀でたBrandon MarshEdmundo Sosaを獲得。
この4人は今年22年のフィリーズのワイルドカード獲得に貢献してくれただけでなく、今後数年も戦力として期待することができ長期的な目線でも優れた動きと言えるでしょう。
結果、今年は期待はずれの結果に終わったCastellanosなどはいましたが、獲得した多くの選手が戦力として活躍。しかも、複数年保有できる選手ばかりであり、長期的にフィリーズの穴を埋める素晴らしい補強になったと言えるでしょう。

プロスペクトじゃなくなった選手たちの戦力化

担当のフロントメンバーやマイナーのコーチ陣が刷新された選手育成部門はロックアウトの時期に全体ミーティングを実施し選手育成方針の統一を行うなど今までの問題点の改善に着手し始めました。
その成果か22年は今までマイナーレベルでも残念な打撃成績レベルに終わりすでに25歳に到達していたもはやプロスペクトと呼べなくなった若手選手たちが成長を見せます。
21年にメジャーデビューをしていたとはいえAAAで打率.199 2HR OPS.677と打撃面で失格レベルの成績に終わっていたNick Matonは長打力が上昇し少ない試合数ながらMLBレベルでOPS .855を記録。大事な場面で値千金の一打を多く放ちラッキーボーイと呼べる活躍を披露。
巨漢スラッガーながら荒い打撃でAAレベル以上では満足できる成績を残せていなかったDarick Hallも打撃が安定。Harper離脱時のDHとしてフィリーズでも一時は中軸打者として活躍。
今までプロスペクトランクに顔を見せることもなかったDalton GuthrieもAAAで打率3割以上を記録。9月のメジャー初昇格を果たすと出塁率5割を記録し最終盤のフィリーズで貴重な戦力となりました。

Girardiの解任とThomson, Calitriの昇格

今までDombrowskiのフィリーズの組織改革についてまとめましたが、最後に今年のフィリーズの成功において最も重要な点において書きたいと思います。
Dombrowskiたちの改革も虚しく今年22年のシーズン前半借金生活を送っていたフィリーズは監督のJoe Girardiを解雇。Dombrowskiはタイガース時代の盟友であるJim Leylandの招集も検討したそうですが、最終的にコミュニケーション能力に長けたベンチコーチのRob Thomsonを暫定監督に昇格させる人事を採用。また、Thomson昇格により空いたベンチコーチの職にはこちらもQAコーチを担当していたMike Calitriが昇格する形になりました。
Thomson暫定監督は昇格後すぐにブルペンの起用プランの変更と若手選手の積極起用の方針を打ち出しこれがフィリーズの快進撃に繋がっていきます。
特にブルペンの起用方法の変更は元々QAコーチとしてデータ・戦略面を担当していたCalitriがベンチコーチに昇格したことをキッカケに試合前の投手起用プランのミーティングに参加するようになり、フロント・アナリティクス部門の意見がより現場レベルに反映されるようになったことも大きいようです。

Dombrowskiによる大手術は最高の結果となるのか

ここまでDombrowskiがフィリーズに来てからの改革という名の大手術の過程をまとめました。

Dombrowskiの改革のポイント
・就任から1年をかけて行ったフィリーズの問題点とメンバーの精査
・優秀な内部の人材の登用と問題のある部門への優秀な外部人材の投入
・チーム内での育成プランの統一

Dombrowskiの行った改革はどれも組織を運営する上で普通の動きと言っていいでしょう。
ただその普通の動きをやって組織をしっかり運営するというのは大変難しいものです。
それを2年の間にやりきりフィリーズをポストシーズンに導いたDombrowskiは流石という他ありません。
改革に着手したフィリーズにはまだAndrew Painterら超有望なプロスペクトがおり黄金期はこれから始まります。
その黄金期を迎えるフィリーズでDombrowskiがどのような動きをするか楽しみに見ていきましょう。

まずは今日からのワールドシリーズです。
Dombrowskiがマーリンズ、レッドソックスに続きフィリーズでもワールドチャンピオンになれるのか?
あとは見守るだけです。
それでは、また。

ヘッダー画像:
https://www.pehalnews.in/phillies-dave-dombrowski-went-and-built-another-world-series-team/2568814/

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