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【日記】日常そのものみたいな映画/2023.08.05

映画を観に行った。本当にいい作品で、観終わってから数時間たった今もやわらかい余韻が続いている。
思い切り感想を書きたいんだけど、地元のミニシアターでしか上映していない作品なので、タイトルは出さないでおく。

この映画のどういうところを良いと思ったのか考えてみる。
伏線回収が美しいとか、主人公の劇的な人生に心を動かされたとか、アクションが大胆でわくわくしたとか、そういうのは一切ない。セリフも全然無いし、だれも何も喋らない、物音だけのシーンだってかなりある。
主人公の目線で、ありふれた日常をそのまま映し出しただけ、という感じの作品。創作物というのも不自然なくらい、日常そのものだった。それが本当に新鮮だった。

主人公を演じる俳優さん以外は素人で、映画の中の姿と同じように生活しているらしい(知り合いが出てるから観に来たというお客さんもいた)。だからなおさらリアルだった。
主人公がおばあちゃんの話し声を聞いているシーンがあったんだけど、声のトーンから抑揚までそこら辺で立ち話しているおばあちゃんとなんら変わりなかった。あまりにもリアルすぎて、映画を観ていることを忘れてしまいそうになった。

出てくる人たちの話し声とか、地元の空気感とか、作品で描かれているものと自分の記憶が結びつく瞬間がいくつもあって、それも嬉しかった。

映画を観たあとは、映画のことを振り返りながら考察したり、印象的だったシーンとかセリフを噛み締めたり、そういう余韻の浸り方をすることが多い。
でも、この映画を観たあとは、なぜか自分自身の記憶を遡りたくなった。自分にもこういうことあったなあとか、今もあの人は元気かなあとか、今もあの場所って残ってるのかなあとか、そういうことを考えた。そんなことを考えている間に映画の記憶は薄れていくんだけど、その代わりに、自分の中にある大切な思い出がより鮮明に蘇った。映画の中に自分の記憶が染み込んでいくのが心地よかった。

映画の後に監督の舞台挨拶があった。質疑応答の時間もあって、前方にいるおじいさんが手を挙げた。この映画に出てきそうなくらい、どこにでもいそうな佇まいのおじいさんだ。
おじいさんは「映画を通して自分が若かった頃の町のことを思い出した」みたいなことを話していた。自分の記憶に思いを馳せていたのはわたしだけじゃなかったんだなって、すごく嬉しくなった。ちょっと寂しくてあたたかい、不思議な気持ちのままミニシアターを出た。舞台挨拶も含めて、なんかすごくいいひとときだったな。今日のことはしばらく忘れたくない。

余白がものすごく多い作品だからこそ、観た人が自らの記憶を重ねることができる。映画を作ることはないかもしれないけど、わたしもこういう短歌を作れるようになりたいなあってぼんやりと思った。

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