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失われたものたちの本/ジョン・コナリー

主人公のデイヴィットが不思議な世界にとりこまれていく前までが面白かった。

病に蝕まれゆっくりと死にゆく母親を前にして、強迫性障害となった少年の一途な様が痛々しいほど事細やかに描かれている。
心の後ろ暗さから少年は、滑落するように、隣りの世界軸にとりこまれてしまう。

この本の内容はこの作者が体験した出来事だと
記載されているけれども、もし本当にそうだというならば、現実の世界までが面白いことに納得してしまう。現実の世界の描写は手触りが匂いが息づかいがあるのだ。

少年が、母親の命をつなぎとめるために
うっかり頭をぶつけた回数を偶数にするためにもう一度ぶつかったり、ドアノブを何度も触る、というのがあまりにも現実で、まるで目の前に彼がいるようだった。
そして彼がそうせざるを得ないのは納得せざるをえなかった。 

自分が幼い時、かなり近い人間が強迫性障害だった。当時は自分もそして本人もその病名については知らなかったのだが、何かしらの呪いが彼女に取り憑いていることは、私も彼女も気づいてた。しかしその呪いに抗うことはできず、従うしかなかった。"ルール"というものは絶対なのだ。
その時のいたいけな彼女をまた目の前にするようであり心を痛めると同時に、その行動で彼女は安心をしていたのだと思うと、救われる思いもある。
いずれにせよ、愛する人がいる故の不安に苦しんで振り回される人間の存在が、克明だった。

しかし夢見物語に飲み込まれてからは、個人的には舌に合わなかった。
残虐性の強さは物語をコミカルにしてしまい、苦しんでいた少年の存在がぼやけてしまった。
有名童話をダークに新解釈したのもまたどれもハマらなかった。そこに温度がなくなってしまった。母親の死と新しい母親の愛に苦しむ少年は、想像上の世界の後ろへと追いやられた。

ジブリ映画の下地になっていると聞いたが、まさにこの現実の部分だけを取り出し、ファンタジー部分についてはほとんどを改変している。

ラストも本来であれば、グッとくる展開であることは頭では理解できていたのだが
そこに至るまでの残虐な描写のせいで陳腐に感じてしまった。
評価の高い一冊ではあるけれど、個人的にはそんなにおすすめではないです。
最初と最後を読んでジブリ映画と照らし合わせるのはまあいいかも。

★★★☆☆

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