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21世紀のムスタング。

この記事は2020年にブログとして発表したものに加筆しています。

Introduction

2019年の夏はフェンダー(日本)から「Charムスタング」が出るというので、われわれCharファンはそっちに引きずられた人が多かったと思います。あれから2年あまり。その後の世の中は想像もしなかった展開になって、「オリンピック」ホワイトのくだりとか、残念な感じになりましたね。誰にも想像できないことが起こる。あるいは誰かにはわかってたんでしょうか。

「Charムスタング」については過去記事で扱っていますのでご覧ください。このギターの意義は、もちろん「Charさんが使う」というのもありますが、個人的には「ダイナミックビブラートの扱いに苦労している人が多いから」というものが少なからずあったのではないかと思っています。扱いやすいムスタング。

当然、元祖ムスタングの悪いところをすべて取り除いて単純にいいギターになってるんですけど、ある意味ムスタングの「アク」まで取ってしまってムスタングの皮をかぶったストラト、遠い昔、成毛滋氏が狙っていたものの、当時は実現できなかったという「ショートスケールストラト」になっている気がします。

このCharムスタングが出たことで打ち止めかと思っていたわけですが。Charさん、みのくんにあげて以来、なかなか使わないですねえ。先日2021年12月の武道館公演ではペイズリーと白で、Charムスタングは登場しませんでした。うーん、やっぱりストラングはだめなのか?

最近メイン扱いのペイズリームスタングは、Free Spirit/Pink Loudのアナザーバージョンということですが、クローズアップの資料がないのでどこまでそうなのかがわかりません。どこが知りたいか。アームユニットをヴィンテージに替えているのかというところ。これこそがこの記事のベースです。

ヴィンテージタイプのUSAモデルは、Free Spiritがリリースされた時点で一時的にカスタムショップからリイシューされました。ただ、限定ですごく高くて。その後続かなかった。日本円で50万超える値段もあったでしょう。この値段ならヴィンテージ買えるから^^そもそもグランジの頃流行ったのは安いからだし。加えて、もうひとつ。僕はアームユニットが気になっていました。ある時期からアームユニットの使用に支点部分が耐えられない、という話を聞くようになっていたからです。これが改善されないと、ムスタングは続かないだろうなあと思っていた。

ところが。2019年にフェンダーがついにその答えを出していました。僕は2020年の終わりまで2年近く完全にノーマークだった。周りでも話題になりませんでした。雑誌とかで発表当時から今まで、記事を見た記憶もなく。Charさんが使えば違ってたでしょうけどね。Charムス企画とかぶったのかな??

American Performer Mustang。

いちおううちのサイトはムスタングの調整Tipsサイトとしてデビューしてますから、新しいシリーズも一応チェックしてはいたんです。ムスタングはこれまでにもいろんなバージョンがリリースされてきていますが、オリジナルも含めて、正直なところ、難しい楽器ですよね^^;。実際、楽器屋さんにしても、「こんなものは狂うんだから」と冷たく言い放った人もいれば、「いやいやちゃんと調整すれば使えるよ」という人もいて。まあそのおかげでこの20年以上このギターと付き合ってこれたわけですけど、一応、ビギナー向けの楽器に搭載するにはもったいないくらいの機能はあるんですよね。ただ、ほんの微妙なあれこれが重なってチープな音色になるために残念な評価を受けていますけど。

2019年1月に発表されていたUSAFenderのアメリカンパフォーマーシリーズ。このシリーズは一気にストラト、テレ、ジャズマスターなど、いわゆるフェンダーのメインラインナップがリリースされていて、ムスタングはその中のひとつです。

ボディの全景。最近のモデルはみんなこの位置にスイッチがあります。Charムスタング然り。

このシリーズの前に「アメリカンムスタング」というのが2013年にリリースされています。ただ、チューンOマチックなんでムスタングじゃないと言われればそれまでですけど、Charファン的に面白いのは、サーキットがヤマハSFっぽいんです。バイサウンドスイッチこそないけど、2ハム仕様でプッシュプルでシングルになる。

カートコバーンモデル以来、P-90とかハム載せたやつとか、いわゆる改造したムスタングを彷彿とさせるやつはいろいろあるわけですけどね。いつも付きまとう問題点は、ブリッジまわりが使いにくいことをふまえてそこを通らないような改善の仕方であったこと、なんです。つまり、「ピックアップの変更」か「アームは使わない」。それをふまえて、ムスタングのこういうところが改善されればなあ、というひとつの答えがCharムスタング。「ストラトになればなあ」、ですよね。一方、このアメリカンパフォーマーは「ムスタングの性能が向上すればなあ」、だと言えると思います。

ムスタングのいちばんの「アク」は、やはりブリッジまわり。ここが一番音に関係するから、これを変えるとムスタングじゃなくなる。そこを変えなかったUSAフェンダーに拍手。

Problems。

これまでに僕が思っていたムスタングの問題点は以下のとおりです。みなさんはどう思われるでしょうか?
1.ブリッジが浮いている(ボディとは針の先で接する)ので低域がスポイルされている(音に締まりがない)。(US/J共通)
2.アームのスタッドがねじになっていてこれがベースプレートとの支点になっているため微妙なバランスがとれるまで調整しないとチューニングが安定しない。(US/J)
3.フェンダージャパン時代のアームはアームとユニットのサイズが合ってない上に固定するチップが入っていないので演奏中に抜け落ちる。(J)
4.仮に留める素材を見つけても、サイズが合っていない分、動いてカコカコ言う。(J)
5.ねじもロックタイトとか使わないと緩んできてしまう。(J)
6.00年代くらいからベースプレートがやわになっていてアームのテンションに耐えられず使い方によっては支点がガタガタになる。(J)
7.90年代以降のジャパン製はユニット部分にUSAにはない共振がある(J)

ユーザーはこういうのをふまえて、我慢してずっと使ってるうちにだんだん悪いところが分かってきていじる箇所を覚えて、みたいな感じで来てると思うんですけど^^。

このギターを見つけて、発表当時の記事をググってみました。少しありました。記述が。「ブリッジにはアームのトルク調整に配慮がされているAmerican Performer Mustang Tremolo」これだけ。まあこれではわかりませんね(苦笑)。実際にはムスタングはほぼ言及されていない。もったいない。

では、どういう部分が改善されているのか。見てみましょう。

緩んでなくなってしまうねじと今では入ってさえいないアームチップ。使えないなら。「アームを差し込む穴を改善すればいい」。なるほど。これがその差し込み穴です。

アーム差し込み穴。

穴の周辺にこれはなんだろう?ナイロン的な素材なのか?がはいっていてぴったりアームが収まります。オリジナルのねじのところでトルクを調節することができます。PRSのアームユニットを初めて使った時にねじがないことに驚きましたけどあの差し込み感です。あれに近い。

Fig.2が新アームのくだり。

そして、全然記述されていないスタッドの支点部分。まあいくつかの記事では表現されているけれど、これまたわかりにくい。ムスタングって弦を外したり、緩めたりするとユニットが傾いちゃうじゃないですか。で、70年代後半以降のはねじが大味でバコンってずれちゃう。そうすると弦変えたらまた最初から調整しないと、みたいになる。

皿、わかります?
これならわかりますね。オリジナルにはない支点部分。

スタッドの根元に皿があるんですよ。これのおかげで弦を緩めてもスタッドが直立する。アーム押しながらユニット立てて弦を通さなくてもいい。

デフォルトはアップしないところに作ってるような感じですね。何を言っているかというと、横から見たときのスタッドの傾き。最近のCharさん、もしくはアイドル期のCharさんのように1音半くらいアップできるようにセットするとユニットが前に傾きます。これはこのモデル以外のムスタングでこうなると絶対合いませんからね、チューニング。最初見て焦ったんだけど、これでOKでした。

このダイナミックビブラートの弱点は、作り的にフローティングさせている形ゆえ、ボディとの接地面積が少ないところです。だからユニットを固めると嘘みたいに太い音になるんですが、そうすると…の無限ループ。が、この新型、皿のせいなのか?多少だけど改善されている気がします。

音に関しては、紹介記事に記述がありました。これはピックアップとサーキットが共通になっているせいのようですね。

・Yosemiteシングルコイルピックアップ
・GREASEBUCKET TONE SYSTEM

上はもちろんピックアップ。パワー感あります。くっきり感かな。違和感はないです。下はトーンコントロール。絞っても低域が弱まらないサーキットらしい。ムスタングってフロントリアにそんな使える感ないじゃないですか(苦笑)これは、あります。Charムスタングと同じ感じです。

・9.5インチの指板R
・22fジャンボフレット
・サテンフィニッシュネック

これは昨今のアメリカンムスタングとかと同様です。まあ弾きやすいです。ネックはCharムスタングと比べると太いんですけどこのあたりは好みですよね。Charムスタングを細すぎると思う人もいるだろうし。ペグもクルーソンの見た目でロトマチックのブッシュ^^安定感はいいです。使い勝手は圧倒的。

余談ですが。Charムスタングと前後してリリースされた?King Gnuのギターの常田氏の使ってるムスタングのベースモデルらしいですね。彼がムスタング持ってるのは知ってたんだけどあまりに形をいじってるので全くノーマークだった。よく見てみるとボディ形状、ネック素材、ピックアップ、いろいろいじってる中で唯一アームユニットだけそのままなんですよね。プレートの部分はなんかガレージ風にしてるように見えるけど。ちゃんとアームが刺さってる。それこそが、このユニットが使えるという評価ではないでしょうか。さらに。さすがと思ったのはスイッチ。穴をつぶしてるけど、ボリュームとトーンの間に移設したのかな?カッティングの際に当たるのではというのはCharムスタングでも指摘されていた心配点です。デザインと見せかけてすごく考えられている。King Gnuおそるべし^^。このムスタングについて彼が何か言及してることがあれば聞いてみたいですね。ご存知の方教えてください。

Improved points。

では、その改善されている点を見ていきましょう。買ってみて、本家フェンダーの誰か(笑)はちゃんとムスタングの課題を認識していて改善をしようとしていた!返す返すもこのユニットでフリスピになってたらと思うと本当に惜しいですけど、逆に言えばフリスピで問題がはっきりしたからこれになったのかもしれませんね。ともあれ、USA Fenderが立ち止まっていなかったということが証明されて少しうれしい^^CBS期の役員さんに見習ってほしいですね(笑)

マニュアルがすごいというか、丁寧に書いてあります。たぶん歴代のマニュアルでいちばん丁寧なんじゃないのか(笑)今回、マニュアルの情報量が多すぎて(笑)というより従来の情報量が少なすぎる(爆笑)からなんですけど、まあそれがフェンダーの自信の裏返しとも受け取れます。よほど不憫に思ったんだろうなあ。

付属品一式。この白い紙が濃い内容でした。

以下私の意訳です。いわゆる英語的な表現のために日本じゃこうは言わないよな、というところもそのまま残しています。ぎこちない感じをお楽しみください^^。なお、細かいところは日本人ユーザーに分かりやすいように用語を置き換えています(つもり)。

以下和訳。

この素晴らしいフェンダー楽器のご購入、おめでとうございます。あなたの新しいギターには、『フェンダー・パフォーマー・ムスタング・ビブラート・システム』が搭載されています。このユニットはアーム(同梱)の操作によってすべての弦のピッチを同時に変化させます。演奏するギタリストのニーズに応えるべく、多くの新機能が今回の進化したデザインに丁寧に組み込まれました。アップグレード部分として「スタッドの軸受部分の強化(硬化)」があり、「スムーズで低摩擦な動き」、「ブリッジへの均一動作距離」、そして「アームが傷つかずテンションの調節が可能な差込口」が実現しています。この最高のデバイスが適切にセットアップできるように、以下をぜひお読みください。

テールピース中央に穴が。

今回、目を引くのは新しい工夫。テールピースの真ん中に穴がある。よく見るとこの穴、ベースプレートにも垂直位置に開いている。単なる穴なんです(笑)ところがね、これ、重要な穴だった。

フェンダーの人はこのユニットをフローティング前提で使うものだとしています。そして、多くのムスタングユーザーがフローティングの設定がよくわからないままうまく使えずにこのユニットを使わなくなるのです。僕自身、最初の2年くらいこのユニットのセッティングの仕方知りませんでしたからね。諦めるかどうかはまさに出会い次第(笑)。そのあとノンフローティングの調整の仕方覚えて(90年代のCharさんね)、その後Charさんがまたフローティングに戻って新たに調整の仕方覚えて、そんな感じでしたから。

ではどうやって設定するのか。マニュアルには丁寧にこの部分の説明があるんです。

まずテールピースをベースプレートから「5/16インチの高さ」に上げる…もうこれでわからん人はわかりませんね(笑)。7.9mm。マニュアルが長すぎるんで端折りますけど、要はこれで基準を設定してから改めて高さを下げていく。

じゃあ穴は?その位置でキープするためにテールピースとベースプレートとを串刺しにして(これ以外の表現が思いつかない)テールピースが動かないようにするんです。

レンチに混じって真っ直ぐの棒に??だったがこれがミソだった。
串刺しの図。

これをもとにテンションを決めていく。なるほど。

Floating。

さて。調整していきます。今回の形は、テールピースを上から下へ下げて合わせていくパターンですね。それに、串刺し。

マニュアル通りにやってみます。
①弦を張る。

②弦をべろべろに緩める。そうするとユニットが後ろに傾きます。

支点部分の皿の傾きが後ろに倒れています。

で、スタッドのねじを回してテールピースが5/16インチ(7.9mm)になるように上げる。

③弦をきつく締める(と書いてある)実際には普通にチューニングするくらいで^^

このくらい前にユニットが傾きます。

④アームバーをさしてアップ方向に戻し、真ん中の穴にピンを挿す。

つるんとしてるでしょ。PRS的。
挿すとこんな感じ。

アームバーを離すとテールピースはヘッド側に戻るのでこの位置でピンはロックされます。

⑤マニュアルによれば、これがフローティングのデフォルト位置。これでチューニングしろと。

マニュアル参照。

⑥これで、チューニングしたらアームを戻してピンを抜く。当然チューニングは狂います。

⑦ここからがなかなか頭いいなと思ったところなんですけど、ここからチューニングが合うところまでテールピースを下げればいいと。

この⑦がもともと経験値というか、アームの動き具合に合わせてユニットのクセとか見ながら僕らがやっていたことですけど、これのとおりにやれば自動的にフローティングでセットできるっていうわけ。

⑧マニュアルでは6弦側から先に下げてEに合わせ、そのあと1弦側を下げて合わせてチューニングとアーミングを繰り返せ、とあります。まあここは当然ですね。

マニュアル参照。

⑨そうするとフローティングの位置でセットが完成するよ、と。

ナイフエッジの感じはストラトのフローティングっぽい感じになります。

アームの動きはぐにょぐにょです。Girlです。ちょっとダウンが少ないかな。でもこのへんは最初のアームが上向いてるのに慣れてるせいだと思います。このセットだとアームはほぼボディに平行になります。チューニングは非常に安定感いいです。

僕は最初このマニュアルに頓着なかったというかそんなにていねいにできてるとか思いもしなかったので(失礼)いつも通り自分のやり方でさっさとやりました。で、これよりも下に下げてセットしたんですけどここより下はフローティングのアップ方向の動きとアームのテンション感(重さ)を変えるくらいで基本的には安定感高いです。もちろんノンフローティングでも大丈夫です。

もともと自分で調整できる方には別にどうでもいい機能ですけど、困ってる方はこれ、参考になる気がしますね。

誕生から50年以上経ってユーザーにやさしくなったムスタング。あんまり見かけないので、お店で見かけたら是非チェックしてみてはいかがでしょうか。ムスタングを弾きたくて、Charさんと同じルックスにこだわらないんならというか、ダイナミックトレモロをストレスなく使いたいなら圧倒的にこれをおススメします。まあ知らん人から見れば違いはそんなに判らないと思いますよ^^;

この新型ダイナミックビブラートユニットについて、田村六蔵氏が素晴らしいレポートを書かれています。ぜひご覧ください!

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