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言葉が引き出すもの。

大塚東洋さんのお店「串焼き輝ちゃん」でライヴが開催されるようになったのは90年代の後半。南大分から中央町へ。数ヶ月に一度から毎月開催へ。今でこそ演奏させてもらえる場所はたくさんある大分市ですが、当時はライヴスポットそのものが少ない上に、アコースティックでやらせてくれるところなんてほぼありませんでした。

宴会の場にギターを持ち込むような形で始まった会は、次第に体裁を整えて、対バン形式、セッションありの定期ライヴへと発展していきました。

プロレスのプロモーターだった大塚さんのお店だから、当初はプロレスファンのお客さんで音楽「も」好きな常連さんがオーディエンスの中心でしたが、ライヴを重ねるうちに、いったい今までどこにいたのか?と思うほどのフォーク好きな人が集まって来てくれるようになりました。のど自慢、好き自慢、ギター自慢…だんだんとその会場の噂が広がって行きました。

輝ちゃんの特徴はオリジナル志向だったこと。当時某団体がなかなかのやり口だったこともあるけど、大塚さん自身がオリジナルを作って歌う人だったので、定期ライヴはオリジナルを歌う人中心の場所になっていきました。そのせいだったのか、詩人が集う店になっていったのです。大塚さんがその人の詩に曲をつけて歌う人だったからでしょう。

当時はインターネットがまだ人と人を繋ごうとしていた時代、たくさんの人が新たな出会いを求めて世界が広がろうとしていました。距離を飛び越えて創作の共有ができるというのはプロとしてマスメディアを通さなくても自分の作品を聴いてもらえるというほんとうに魅力的なものでした。できた曲を披露して、同時にインターネットでもシェアする、自宅録音の機材が発達し、扱いやすいものになったのもそのことに寄与したと思います。

今日の主人公、山村俊明さんは、その串焼き輝ちゃんで出会った人。どういう風に話すようになったか、もうまったく覚えていないけど、気がつけば四半世紀近くお付き合いしていただいています。そしてこの山村さんは、出会った時には「フライフィッシングの人」だったんだけど、気がつけば「詩を書くふ〜らいさん」になっていました。

僕は詞を書けるようになりたいとずっと思って来たので、人の書く詞に興味があるんです。フォークが好きなのは、メロディやリズムや英語に逃げられない確率が高いからですね^ ^。その人がどんな言葉を使ってどんなことを歌おうとしているのか。自分にはない言葉やイメージに触れることができるのがアマチュアだろうとプロだろうと、僕にとっていちばん面白いところです。

今回、山村さんが作品集「風のIRODORI」を発表されました。過去四半世紀で、山村さんの書いた詩にいろんな人が曲をつけ発表してきた楽曲を一枚にまとめたコンピレーションアルバムです。厳選された全10曲の中で興味深いのは同じ詩に違う人が曲をつけていること。いわゆる競作的なスタンスとは少し違う…つまり、普通のはボーカル違いとかね、アレンジ違いとか、そういうのはよくあるけど、もう曲そのものが違う。

今回のインナージャケットにも書かれていますが、「絵を描くように」書かれた詩を読んだ人が思い浮かべたイメージにメロディをつけていったものを並べて聞くと、同じお題で描かれた絵の展覧会の感じ。作曲者それぞれのフィルターを通ると同じ言葉が違う色を持つんだなあと改めて感じます。

ストーリーを思い浮かべさせる詩。「ふ〜らい釣り師が見つめてきた愛と浪漫と抒情の世界」というコピーそのままです^ ^。

改めてアルバムを通して聴くと、四半世紀の時間、時が、人が移り変わっていく(きた)というのを実感します。去年の夏、山村さんと話していて、こんなイメージを…というのを「風来風行」という曲にまとめました。

昨夜は、ひさしぶりに串焼き輝ちゃんで、ライヴが行われました。詞の書き方や言いたいことなど、思わず繰り広げられる(笑)クリエイティブなやり取りは、四半世紀経っても何も変わっていない。これからもそうありたいねと、ライヴが終わったあと今はお店を継いでいる洋一くんと話しました^ ^

「風のIRODORI」は山村さんご本人か、中央町のライヴハウス「ファイナルステージ」でお求めいただけます。ぜひお問合せください。



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