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幸せのポモドーロ

初夏を思わせるような日差し。ワイシャツの下の肌が汗ばむ。堤防沿いの草がなびいて、初夏の風を縁取る。遠くを眺めている。霞む空の中に映る君の面影が夢のよう。

「ぉぃ…おい、聞いてるのか!?」

リチャードバック・ジョナサンの声で我に帰る。「ああ、ごめん。考え事していたよ」

「なぁ、Sちゃんがいなくなって気落ちしてるのもわかるけど、そんなんじゃ、目の前の看板に頭ぶつけて、脳みそぶち撒けるぞ」

「そうだな。なぁジョナサン、幸せってなんだろうな?」

呆れた顔してジョナサンは僕を眺めている。

「なんだ、そんなことも分からないのか?じゃぁ、今日はかわいそうな君にタダで幸せとは何かについて教えてあげるよ」



「幸せってのは何かに没頭している時なんだ」

もっと別な答えを期待していた僕は拍子抜けした。なんだそれって言おうとした時、言葉を遮るようにジョナサンは続けた。

「ハーバード大学の心理学者キリングズワース博士は世界13ヵ国、13歳から80歳の5000人を対象にiPhoneのアプリを使った実験を行った。今何をしていますか?今何を考えてますか?今やっている事以外のことを考えてますか?って感じで形を変えて様々な質問をしたんだ」

「その結果、46.9%の人が【何かをしている時、その事と関係ない事を考えている】ことがわかった。君にもそんな経験あるだろ?」

そう言われると、確かに仕事中に別の不安なことが頭をよぎったり、読書中にメールの返信がないかと気になることが多いことに気付いた。

「キリングズワース博士とギルバート博士は科学誌scienceで【幸福に必要な事は、心身が集中している事なんだ】と報告しているよ」

「なぁ、何かに熱中してる時って不安も何もないよな、それを幸せって言ってしまっても言い過ぎることはないよな」

確かに、すごく良い本に出会って次々にページをめくっている時、目の前に迫ってくる100kgのバーベルを押し挙げてる時、グッとくるメロディーとリズムに身体と感情が動いた時、すごく充実して生きているって感じる時がある。それを幸せって思ったことはなかったけど…



「幸せについての新しい概念に触れたところで次に集中する方法だが【ポモドーロテクニック】ってのが非常に有効な方法だ」

「要はアラームが25分後に鳴る様にタイマーを設定して爆発的になんでもいいから何かに集中するんだ。大事なのはそのあと5分程度のご褒美のコーヒータイムを入れるんだ。それの繰り返し。簡単だろ」

「確かに終わりのない感じだと集中力がなくなるよな。25分くらいなら僕にも集中できそうだ」

「君でもそれなら取り組めるだろ。それと俺が敬愛する近代哲学の祖と言われるネオ・デカルト先生が著書「方法序説」で述べた有難い名言を君に付け加えておくよ!」

「困難は分割せよ!」

おお、ポモドーロテクニックとデカルトが繋がってるなんて!感心して彼を振り返ると、ジョナサンは血走った目で携帯をいじりながらアダルトサイトを懸命に眺めているじゃないか!冷ややかな目で僕はジョナサンを見ていたが周りも気にならないくらいアダルトサイトを見てる彼はとても集中していて幸せそうだった。そうだよな、何かに没頭してる時って幸せだよなぁ。そう思えたら徐々に暖かく彼を見守る事が出来た。

ありがとうジョナサン。僕も何かに集中してみるよ。


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