よそものたちの部屋

文筆家(Iori)探究者(Hanaki)記者(Chisato)の3人がそれぞれの視点か…

よそものたちの部屋

文筆家(Iori)探究者(Hanaki)記者(Chisato)の3人がそれぞれの視点から日々、木の葉のように落ちてくるあらゆるモノコトについて自由気ままに綴ります。

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    「よそものたちの部屋」ではテーマに対して3人がそれぞれに言葉を綴っていきます。一緒に考えたり、共有したり、いろいろな見方をしていける場所になるといいと思っています。

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はじめに

私たち3人はとあるアパートの303号室から始まりました。 貧乏学生だった私たちは一つの部屋を借りて、毎日いろんな話をしたものです。 大人になり私たちはそれぞれ文筆家(Iori)、研究者(Hanaki)、記者(Chisato)になりました。 そしてあいかわらず些細なことを話しています。 子ども時代のこと、恋人について、好きな本、世紀の大問題、親指の話……幸不幸とは関係なしに毎日はちいさな出来事の積み重なりです。 それらは事故よりもはるかに重大ではないけれど、おそらく事故よりも

    • 衣替えのエクリチュール IORI

      人生の多くに完璧を求めるのは不可能だ。でも真っ白いシャツに完璧を求めることならできるかもしれない。 何年も私はヴァレンティノのポプリン生地のドレスシャツや大きな襟のついたトリーバーチ、刺繍入り、レース、それからシンプルなリネンのシャツ、ランタンスリーブ、オーバーシルエットへの審美眼を磨いてきた。かつて丈が長ければ長いほど身分が高いとされてきた古代ローマに起源をもつこの衣装は、大まかな形を変えることなく中世へと受け継がれ、装飾を欠き、単純なフォルムを保ったまま現代まで受け継が

      • 雨のエクリチュール Hanaki

        雨が降る時は大抵気圧が大きく変動するせいか、頭痛が発症する。市販薬を飲めば治る程度だが、煩わしい。コレさえなければ、私は雨が与えてくれるちょっとしたイベントが特に子どもの時好きだったんだ。 私が育った地域は、雨季から秋になるまで、部分的に急激な雨がふり、雷まで伴う強い雨なのに、嘘のように数分で雨が止むような、通り雨が多かった。まさにバケツでひっくり返したような雨だ。 雨雲がはっきりわかるし、車で走れば、雨の通り道がわかる。ここは通ったけど、ここは通ってないんだなって。コンク

        • 雨のエクリチュール IORI

          雨が好き。 家のなかにいても外にいるような感覚にさせてくれるところが好き。 外にいるような、というのはつまり外にいるのとは違うわけで、靴を履いたりカバンを持ったりしなくて済むということ。身軽、と言い換えてもいい。外にいるようなというのは、だからちょっと視線を向けるだけ、耳を傾けるだけで水のなかを散歩しているみたいな気分になれるということ。体だけじゃなくて心まで水に浸ったみたいになる。その自由、すこし寂しいけれど安心する感じ。一日のほとんどを家の中で過ごす私のような生きもの

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          桜のエクリチュール chisato

          今年の桜も散ってしまった。 咲いた散ったでこんなに全国中をそわそわさせる花は他にないだろう。咲いたのに見に行けなかったものなら、ものすごく損をしたような気持ちになる。あれはいったい何故なのだろう。私たちが日本人たる所以なのだろうか。それくらい春には桜を見るものだ、という文化が自分に根付いているのを感じる。 私が思う印象的な桜は、「桜ライン311」。岩手県陸前高田市で、東日本大震災をへて作られた桜並木だ。瓦礫撤去が進み、津波の最高到達点がぼやけてしまう前にと、そこに桜の苗木

          桜のエクリチュール chisato

          桜のエクリチュール Hanaki

          私が「桜」と言われて最初に思い浮かぶのは、卒業や入学。桜と思い出がリンクすると、そう言った郷愁的な場面とか、一緒に見た人のこととか、連想ゲームのように紡がれていって、結局桜とは直接関係ないような、楽しいことやワクワクすること、幸せな記憶たちに満たされる。桜は思い出を振り返るトリガーになる。それだけたぶん私以外もきっと多くの日本人の生活や、思い出の一つに組み込まれているんだろうなと思う。 でも、いざ桜を見上げて思ったのは、なぜだかほんの少し切ない気持ちだった。私も桜が与えてくれ

          桜のエクリチュール Hanaki

          桜のエクリチュール IORI

          ついに春がやって来ると、キッチンの戸棚のもっとも高いところから、スープジャー、ランチボックス、アウトドアグラスを引っ張り出す。シャンパン、ジャム、果物、チーズとパンの買い置きも確認しなくてはならない。そして外気と温度、枯れ葉や枝の乾いた音を靴裏で確かめ、草花がさらにカラフルになり、鳥や虫たちが騒がしくなり、数週間前より会いたい人が増えて、お喋りの衝動に耐えきれなくなったころ、次の週末を完璧に過ごすための入念な予定を立てはじめる。 この季節になると、一日のほとんどを外で過ごす

          桜のエクリチュール IORI

          芽吹きのエクリチュール  chisato

          芽吹かないわたしについて ふたりは自分の中に芽吹いたものの話をしていたけれど、私はといえば最近とみに凪いでいる。 やりたいこととか特にないし、 隙があるなら寝ていたいし、 人の話も聞きたくないし、 余計なニュースも消しちゃいたい。 みたいな、、、 つかれてますね〜〜〜〜!!!!! ってこんな話聞いたら相手に言うし、実際疲れてるんだろうと思う、でもなにになんだろう。 原因の特定ってやつにも一定労力を使うので、いまはそんなことする気分でもない。 そんな時は自分の中

          芽吹きのエクリチュール  chisato

          芽吹きのエクリチュール Hanaki

          春分を迎えた。 気候の変動みたいなのに影響を受けているのか、私は気温が少しずつ上がって穏やかな陽気になると、少し逸る気持ちになる。気分がいい時はワクワクする。落ち込んでいる時にはあんまり関係ないかもだけど。 9月新学年制度の噂がたったけど、コロナの影響に限らず、制度としてのメリットがあっていいなと思いながら、日照時間が与える影響や四季を考えると、日本では4月始まりで新天地ってのはメンタル的には良いのかなと思うこの頃。 ただし、春を迎えて喜びの舞を踊っているのは、何も動物たち

          芽吹きのエクリチュール Hanaki

          芽吹きのエクリチュール IORI

          テレツィア・モーラの『森に迷う』という短編に、若者が車の中から陽が沈むのを見るシーンがあって、このホテルマンは、仕事の行き帰りに朝陽と夕陽をミラー越しに見るのを人生の楽しみにしている。いいな、と思った。 ポール・オースターの『偶然の音楽』の主人公は、気の向くまま計画もなしに、あちこち車を走らせる旅に出る。 「ナッシュは少しずつ、自由で責任のない新しい生活に恋していた」 車を走らせている限りは何の責任も担うことなく、人生のどんな欠片にも邪魔されることはない。車内にはバッハ、

          芽吹きのエクリチュール IORI

          チョコレートのエクリチュール chisato

          チョコレートは幸せの記憶 ストレスがたまると、とにかくチョコレートを食べたくなる。 理不尽だなと感じて嫌な気持ちになって、それでも仕事は終わらなくて夜まで働いて、帰ってくると家は真っ暗で、寒くて片付いてなくて、作り置きなんてしてないからコンビニまでご飯を求めにいかざるをえない。 そんな日にはとにかくチョコレート。明日だって仕事に行かなきゃいけないんだから、肉体的にも精神的にも自分を甘やかさないとやってられないのである。 などと言い訳をしながら、可愛いサイズのお菓子では

          チョコレートのエクリチュール chisato

          チョコレートのエクリチュール Hanaki

          チョコレートに含まれているモノとは? さて、前回のチョコレートを巡る甘美な歴史を一読しましたか?もしくは読んでなければぜひ読んでほしいのですが、 そんなチョコレートのたった一口に込められている悦びとは一体何なんだ? と思って、私はとりあえず板チョコの食品表示の配合をみてみました。 砂糖、カカオマス、植物油脂、全粉乳、ココアバター、乳化剤、その他香料などを基本として作られている。 その微妙な分量でそれぞれのメーカーが差別化を計り、私たちの悦びをつくりげている。 コーラが元

          チョコレートのエクリチュール Hanaki

          チョコレートのエクリチュール IORI

          誰かと恋に落ちるはるか以前、マスカラをぬり、ヒールの靴を履くより先に、人はチョコレートと恋に落ちている。 きちんと言葉を話せるようになる前から、人はチョコレートを食べ、チョコレートに夢中だ。チョコレートは幸せの味。甘みとほのかな苦みが溶け出して、小さな舌が動くより早く、幸せがやってくる。コネチカット大学の医師によれば、チョコレートの味と言われるのは、ほとんどが香りらしい。匂いと感情に関係があることは古くから知られている。それは、古代ギリシアで哲学者が活躍した時代よりもさらに

          チョコレートのエクリチュール IORI

          はじめに chisato

          通り過ぎていくほんの些細なことたちを、ずっと大事にするために 私は中学生の頃から、「書きたくなった時だけ書く日記」というものをつけている。 中学生の私には、他人と共有するにはちょっと恥ずかしかったり、傷が深かったり、複雑だったりする、自分の中で沸き起こる様々な感情や考えや気づきがあったのだ。それを書き留めた。なんとなく、忘れてはならない、忘れたくないと思ったからである。 そこから、はや10数年(!!!)。中学、高校、大学と進んで社会人になった私は、今もまだ日記をつけてい

          はじめに Hanaki

          何を考えて生きているのか、そして何を考えて生きていきたいのか 今自分のなかにある、不確かで悶々としたものたちを、他のみんなはどう感じてどう対処しているのだろうか。 さっき駅ですれ違ったスーツの男性は、いったい何をふさぎこんでいたのだろうか。家の前でゴム人形片手に遊ぶ子どもたちは、今何を感じて生きているのだろうか。 いや、そもそも一体この悶々とした違和感や疑問や不安はなんなのか? 私の身の回りは、常にこの正体のわからないものに溢れ、どうやら何かを考えずには生きていられないよ

          はじめに Iori

          事故よりもはるかに重大ではないが、しかしおそらく事故よりももっと不安な出来事について。 私たち3人の関係はとあるアパートの303号室から始まった。学生だった私たちは(貧乏だったので)家族みたいに同じ部屋で生活していた。スーパーで買ったコーヒーとクッキー(手作りクッキーの日もあったが)をかじりながら中古のソファに腰かけて、いろんな話をしたものだ。子どもの頃の思い出や、好きな本、哲学や宗教、文化人類学といったそれぞれの研究分野について語った。ほとんどのダイエットや新年の抱負のよ