King Gnuの90年代感と様々な考察について

今間違いなく日本のロックシーンの先頭に立っていることもあり、
様々な語られ方をしていますKing Gnu。
しかしそれらKing Gnuに関する文章を色々と読んでいくと、どれもあまり要領を得ない感じで混沌とした面白さがあります。かといって自分も的を射たような何かが言えるわけでもないですが(そもそも滅茶苦茶愛聴しているわけでもない、大好きですが)、この混沌さは結構好きなので乗っていく感じで色々と雑多に書いていこうと思います。

私がtwitterでKing Gnuについて話すときに度々キーワードとして挙げているのは「90年代感」です。

ただどの要素が具体的に90年代っぽいのかはっきりと説明できるわけでは無いんですよね。かなり大雑把に言えばヒップホップ、アシッドジャズ、ビッグビートのような太くて大きなビート感とか、リバーブが濃くても何故かあっさりとしたサウンドのニュアンスや短調の感じとかがそうなのかと思っていますが。
ただ、当たり前ですが70~80年代とかにも太くて大きなビート感は全然あるわけで、もっと細かいニュアンスの方に90年代感を覚えているのかなとも…。このあたり上手く言語化できる人がいないかな~と思ってます。解説できる人募集。
とりあえず色々な有名そうな例を挙げていくと…。

A Tribe Called Quest「Can I Kick It?」
ヒップホップからはATCQ。まあ自分が大好きだからってだけでもありますが…。King Gnuに限らずよく言われるヒップホップっぽいリズムというのはこういう感じのことを言われているんじゃないかと思ってます。

Jamiroquai「Virtual Insanity」
アシッドジャズからはジャミロクワイ。PV含めて有名すぎるやつ。

Fatboy Slim「Because We Can」
ビッグビートからはファットボーイスリム。M-1のやつ。

あとはベックなんかは90年代ど真ん中のビートって感じがしますね。

Beck「Loser」

そしてこういうのに影響を受けたか、日本にも近いニュアンスの曲がたくさんあります。

まずは説明も面倒になる有名曲を列挙。

小沢健二 featuring スチャダラパー「今夜はブギー・バック」

UA「情熱」

椎名林檎「本能」
椎名林檎1st2ndは該当しそうな曲としなさそうな曲が混ざってます。
丸の内サディスティックとか先述のジャミロクワイっぽさのある楽器構成ですがなんか違うなと感じます。バスコンプのかけ方の違いでしょうか…。

Mr.Children「掌」
これは00年代ですが白日が似ていることが一部で知られているそうです。

こうしてみると200万枚とか頭おかしいくらい売れた曲の中には該当する曲はあんまりないなと感じます。
個人的に好きな曲だと

朝日美穂「唇に」

猫沢エミ「目には見えないもの」

高橋徹也「チャイナカフェ」

小林建樹「Sweet Rendez-Vous」
色々調べてたらKing Gnuは小林建樹のパクリだという過激な意見もあるようです。腑に落ちるところはありますが、まあパクリは行き過ぎでしょう。


こうして色々と挙げましたが、翻ってKing Gnu井口理氏の影響を受けたミュージシャンを調べてみれば納得の名前が出てきます。七尾旅人です。七尾旅人氏は一言で言い表せるようなミュージシャンではありませんが、King Gnuが影響を受けたという点では初期の、特に1stアルバム「雨に撃たえば...!disc2」付近の頃が大きいのは間違いありません。

七尾旅人「ココロはこうして売るの」

伊藤銀次氏や鈴木正人氏の巧みな手腕もあり、混沌としつつもギリギリのバランスでポップに消化された90年代サウンドを展開しています。そのサウンドやボーカリゼーションがKing Gnuにかなり影響を与えていることが聴いて取れるのではないでしょうか。

さてこれくらいが自分のKing Gnuの好きなとこですが、では他にどんなKing Gnu観があるでしょうか。
印象的なのは以下2つの記事です。

伏見瞬氏と柴那典氏の記事です。内容は読んでいただくとして結論から言うと、伏見瞬氏側に近い見解を個人的に持っています。大雑把なテーマとしては、King Gnuは邦楽的か洋楽的なのか、あるいはどのように洋邦の要素が絡み合っているか、ということだと思います。

両記事の中で最も引っかかる点は柴氏の「King Gnuの音楽的なイディオムの背景にあるのは、ジャズとヒップホップが融合し革新を果たした2010年代のブラック・ミュージックの潮流だ。」という部分です。ここまででいくつか音楽を挙げた通り、King Gnuの音楽は現代的な広い音場やコードワークがあることを除けば、そもそもそこまで新しいものではないというのが自分の見解です(もちろん新しいからこそ価値があるというわけでもないし、過去の音楽の参照の方法自体に新しさがあるという見方も可能ではあると思います。)。確かにKing Gnuメンバーは現代のジャズの象徴に限りなく近い存在であるロバート・グラスパーを挙げるなどしていますが、それはあくまで記事の中、そしてコンポーザーとしての意識の中での話であって、実際の音楽を聴くと大きな括りとして共通しているだけで、肝要な部分はそこではないのではと感じます。

一方で伏見氏の記事にも諸手を挙げて賛同というまでは行ってません。そもそも柴氏も指摘する通り「ブラック・ミュージック」自体がいろいろあるので、「リズム隊(ドラムとベース)の演奏と、ヒップホップ経由のスクラッチ音の多用」だけで表現できるもんではないのではと思うところです。King Gnuを洋楽的たらしめているのは「ブラック・ミュージック」まで広げなくとも、ヒップホップやR&B辺りに留めるのが妥当だと感じています。

その上で、洋楽的である要素を塗りつぶすほどにKing Gnuが邦楽的である理由を、コード進行の強さとしているのは全くもって納得いっているところです。記事内でLed Zeppelinが引き合いに出てきているので、では洋楽方面でのツェッペリンフォロワーを聴いてみましょう。このロックバンド受難の時代に生まれた「ロックの未来」と呼ばれるバンド、Greta Van Fleetです。

(ツェッペリン聴けばいいやんとか言ってはいけません。じゃあバート・ヤンシュとか聴けば…と延々続くことになります。)
この曲のコード進行はいたって単純。基本的にGCFしか出てきませんし、小節の頭は必ずGで始まります。この進行の弱さはいかにも洋楽らしさ、というよりも邦楽っぽくなさに繋がっていると言えます。

ではツェッペリンリスペクトと思われるKing Gnuの「飛行艇」はどうでしょうか。

こちらは基本的には同じコード進行の繰り返しですが、「大雨降らせ」の辺りから少しずつコードの工夫が多くなります。終盤辺りには転調する上、さらにDm7-5など近年の邦楽ポップスではよく聴ける、名前の見た目からして複雑そうなコードが頻出します。

はっきり言ってしまえばこのコード進行の展開は不要だと聴く度に感じます。もちろんそう判断する根拠はほぼほぼ自分の好みでしかありませんしここが好きな人に文句は言いません。ただ、メロディーが繰り返しなのでコードを変えること自体は難しくは無いのですが、強いメッセージ性を持つ歌詞なのにわざわざコードを変化させて演奏の方に耳を向けさせる意味が分かりません。というかルートが下っていっているので飛行艇が落ちていっているように感じます。なので最初は墜落する歌なのかと思った(実際「Led Zeppelin」には墜落の意味がある)けど「命生まれ」との整合が取れない(「名も無き風となって」とどっちなんだろう?)。

ここでどうしても、邦楽ではこういう複雑さが流行っているからそうしたのではないか、という嫌な勘繰りをしてしまいます。せっかくギターはBring It on Homeの中盤っぽくて、キックの重さもボンゾっぽくてこだわりを感じるし良いメロディーなのに残念さが際立ちます。伏見氏は主に歌詞や表現の全般を指して「ポピュラリティと権威への迎合を示していると判断せざるを得ない」と評していますが、そもそもの曲自体だけでもそうした傾向が、嫌でも個人的に感じられます。

別に複雑なコード=今の日本では大衆迎合だからダメと言いたい訳ではありません。以前twitterで話題にしましたが、米津玄師の「Lemon」では「雨が降り止むまでは帰れない」の部分でFm7-5が登場します。「帰れない」という歌詞とのリンクとして、帰れなさを表現するためにわざわざ不安定なこのコードを選んだことは明々白々です。素晴らしいですね。ムカつくほど素晴らしいのでぼくはもう聴きたくもないのですが。

冒頭で書いたようにKing Gnu好きなのですが、何かもう一つ上に行ってほしいなとも思ってます。ここで指摘したことが全部正しいわけでもないと思いますし、ありきたりな言い方ですが期待を込めて、ということで読んでいただけたら幸いです。そして何らかの参考になればと思います。


ところでLed Zeppelinと邦楽らしさ、というところでこの曲の話題を出そうとしましたが、上手く文章の流れが作れなかったので最後についでに紹介します。

いやー強烈ですね。強烈すぎるので本編で紹介しなかったのは正解かもしれません。

これは最近の曲ですが、演歌自体ロックより歴史が短くむしろロックの影響を結構受けてたりするので、そこから色々考えるとツェッペリンのニュアンスを基に洋楽的/邦楽的と判断するのは難しいのではないかと思ったりしています。


もう一つ。

元ツイが消えてるので大まかに補足すると「King GnuやOfficial髭男dismにはボカロネイティブ以降の技巧がある」というような内容です。賛同できない以上に、そもそも何のことかさっぱり分からないので解説できる人募集です。

(2020/7/4改訂 軽微な表現の修正、紹介楽曲の整理)



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