ショートショート十二支。子。
さっき脱いだスリッパが目を離した隙にこちらに振り向いた。
今日は清々しいほどの晴天だ。まるですべてを透かすような青空が広がっている。私はなんでもない道を一人で歩いている。
脇道からふと人の気配がする。しかし、そこには誰もいない。今度は後ろに人の気配を感じる。振り返るが、そこには誰もいない。背中に嫌な汗をかく。
私は猛烈な喉の渇きを感じ、目の前まで迫った家に駆けこんだ。
「ただいま。」
返事はない。
「ただいま。」
やはり返事はない。私はその場で振り返った。
「とうとうこれも透けちまったか。」
誰もいない部屋に男の声が反響する。
残されたのは青のスリッパだけだった。
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