絵師が「生成AIの無断学習問題がテーマの小説」を書いて公募に出してみた

そのXでの報告。


カクヨムに公開してある小説全文がこれです。

結果、一次通過しましたが二次通過できませんでした。残念。
公募中はカクヨムで非公開にしなければならなかったので、ほとんど閲覧されていません。
まだほとんど読まれていないということで、一番読んでほしい人たちに全く届いていない状況です。

一番読んでほしい人たちというのはもちろん、AI問題を憂いている人たち、人間絵師と、それを支持してくれる人たちです。#NOMORE無断生成AIというタグを使っている人たち。規制を訴えて、パブコメに投稿した人たち。彼らの共感を得たくて書きました。彼らと同じ意見だからです。

もちろん、そういった限られた領域だけではなく、普遍的な面白さを追求したつもりです。それどころか、AI推進派の人にも楽しんで笑ってもらえる要素も多くいれました。しかし、そもそも読まれていなければ無意味です。だから、AIに興味がある人が多そうなnoteに来ました。(初投稿です)

あらすじは、19世紀イギリスで、「巣に画像生成AIみたいな迷彩を施す能力を持つ異国のミツバチ」を飼っている養蜂家の少年フィルが、巨大な巣箱から生成されるAIアートを流行させて一斉を風靡する、というのが軸になっています。
昆虫である蜂をAIのメタファーにするというのは、AIの神秘化というか、擬人化を排するためにあえて行ったものです。
「ChatGPTみたいな鳥」が出てくる小説を書いて、昨年さなコン3の審査員賞を頂きました。その味をしめてということもありますが、受賞の原因はそこではなかったようです。

ところで、昨年流行った「画家とAI」という漫画、漫画としてすばらしいです。ですが、AIを妖精として描いていました。そのように「アートを理解する別種の知的生物」と位置づけると、「著作物を収集し統計処理をして利用する機械」としての批判とは遠いところに行ってしまいます。だから、生成AIを通常の知性を持たない、擬人化を排したものとして描きました。

自分の小説はあの強力な作品に対して影響力が皆無です。しかも、小説という媒体は読むのに時間がかかるから広まらないだろうというのがあります。
自分も漫画の形にすればいいのかと思います。でも、やりたいことは漫画にしては文字数が多すぎてコマに入り切らないというのがわかってもらえると思います。なにしろ、テッド・チャンのような小説が目標なので…。

テッド・チャンはインタビューで、生成AIを擬人化するべきではなく、LLMは小説の執筆には役に立たないだろうと言っています。

また、別の記事でチャンが生成AIの学習を単なる不可逆圧縮に例えたのも有名です。主にLLMについて言っていますが、その批判意識を画像やイラストに応用してはいけないでしょうか?

自分の小説では、謎の老婦人がニューラルネットワークを発明し、謎の数学者が拡散モデルを発明するという過程で、原理について比喩を用いてわかりやすく説明したつもりです。そうすることで、AIの学習が人間の学習と似ていること、それでも根源的に違うことが、わかりやすくなるようにしたつもりです。画像生成AI問題の動向に興味がない人は、本当に便利なツールができたなぁとしか思っておらず、問題が何なのか伝わらないからです。

このように、現代のコンピューター技術を、過去の別のものに置き換えて持ち込む手法は、テッド・チャンが多用するものです。「七十二文字」や、「息吹」において見られます。

自分は、画像生成AIを蜂の巣箱に例えました。油絵のキャンバスが、巣板のように巣箱に格納されて、蜂は分泌する蜜蝋をメディウム代わりにして絵画を生成するのです。
こういったギミックが少しでも面白いと思われたら幸いです。

一方で、人間ドラマも一応あります。設定やギミックにこだわりすぎると小説としての評価は低くなるので、人間描写も重要です。
養蜂家/AI開発者のフィルに対抗するもう一人の主人公として、画家のエステラという女性が登場します。ディケンズの原作では「男に復讐するために育てられた」という設定を持ってますが、現代的に「画家として成功するために育てられた」という設定に変えました。
(原作あるの?二次創作なの?それが悪かったのでしょうか。でも古典だからモチーフにするのは問題ないし、これがぴったりだと思ったんです。なんとディケンズは著作権に関する活動もしていました。原作には絵画も蜂もAIも全く登場しませんので、ほとんど別物です)

この画家の女性を、AIによる搾取に苦しむキャラクターとして配置しました。最初は主人公視点では冷淡なだけの女の子ですが、徐々に成長して変化するのが見所です。搾取に対抗するようになるのです。しかし、主人公はそれに気づかずどんどん成功を追求し、彼女と権力関係が逆転してしまうのが終盤の見所です。最終的に悲しい破局があって、フィルはほぼ破滅してしまいます。中盤のAI開発ワクワクパートから転落です。

終盤ではNightshadeやglazeが元ネタの学習妨害加工が出てきますが、これは普通の人には通じないでしょう。結構ビジュアル的に楽しいシーンなのですが。それに、現実ではこんなにうまくいかないでしょう。楽しいフィクションです。
こんな調子で、全編AI用語のアレのことかな?と分かる人には分かるネタになってるいます。でも狭すぎるか。だから、こういうクラスタの人を呼ぶしかないのです。

自分は絵のアカウントで反AI活動をすると、かなり闇が深い話ですので、絵を見に来てくれただけの人・同じ絵師の人にストレスになると思うのでしてません。しかし、創作の一環としてなら出来ます。
グレッグ・イーガンやテッド・チャンは単にハードなSF作家というだけではなく、非常に倫理的な信念を持っています。今回の無断生成AIと絵師の問題も、将来的にはイーガンやチャンの作品の中にある対立の一つのように過去のものになると思います。それらは常に倫理的な側に寄り添ったお話になると思います。(ゼンデギやビットプレイヤーでは、搾取側が勝ちそうなディストピアという感じでしたが)現実でどうかは別として。
要するに、#NOMORE無断生成AIといったハッシュタグや、反AIと呼ばれる意見は、SFのジャンルとして気軽に語れるものでいいのではと思うということです。


取り留めもない紹介になりました。
実は、3/31には別の公募の締め切りがあります。(ハヤカワのアレです)

それに向かって改稿するのが、この作品を活かす可能性の一つなのですが、気が進みません。受かると思えない。
今回は短編に出したのでかなり文字数を削って駆け足の展開になったので、伸ばせるのはありがたいのですが、完全版にしたところで、テーマ的に好まれるとは思えない。何より、自分の筆力不足であって、テーマは関係ないかもしれませんが。でも、たとえばジェンダーなどのテーマは考慮されると思います。AIもそうかも?(SFマガジンのAI絵が表紙の号、読みました?私は読みました)
それでも、もし公募に出すとなれば、非公開にしなければならないです。全く別物まで改稿すれば公開しておけるかな。
だから読んでもいいという方は、二週間以内に読んでくださるとうれしいです。

もし十分に読んでもらえたら、別に公募に出す必要はないのです…。

3/18 16:00追記
公募落ちた後の「とにかく読んでほしいモード」(公募落選後の発作です。毎回来ます)はわりとすぐに終わり、冷静になって今改稿してるんですが

よく考えると短編の枠に収めるために大量に字数を削り、改行すべきところを詰めたので不自然なところがあるのはわかってました。とても読みづらいと思います。
自分でも不完全だと思っているものをお出ししているので、落選は妥当だと思います。
むしろ今改稿していることで、削る前に入れたかった要素を入れることができて嬉しいまである。
今はLLMと1984のニュースピークの類似みたいな部分を新しく入れようとしてる。データセットからモデルを作るときに、情報を削減しているわけですから、語彙を減らすニュースピークと類似している。

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