見出し画像

法政大学法学部・通信教育学部 法律論文レポート課題―刑法総論第2課題

法学部生(通信教育学部含む)や法律初心者の方向けに、あえて言葉を補って参考答案例を長く書いてみることで、理解しやすくしました。法律論文やレポートの書き方に慣れていない方の参考になれば幸いです。

<法政大学法律論文・レポート課題―刑法総論2018年度第2課題>
「共謀共同正犯」について、問題の所在を明らかにし、判例および学説の状況を分析したうえ、各自の意見を論述しなさい。


<答案構成例>
1.共謀共同正犯の定義と問題の所在
共謀共同正犯の定義
共謀共同正犯論の背景
問題の所在

2.判例および学説の状況
 大審院の判例
 学説の状況1―否定説が支配的
 練馬事件最高裁判決
 学説の状況2―肯定説が多数説
 肯定説の中でその根拠をめぐる議論

3.共謀共同正犯の根拠と要件(私見―包括的正犯説の立場から)
 根拠について
 要件について


<参考答案例>
1.共謀共同正犯の定義と問題の所在
共謀共同正犯とは、二人以上の者が一定の犯罪を実現することを共謀し、その一部の者がその犯罪を実行した場合には、実行行為に関与しなかった者も含め、共謀者全員について共同正犯(刑法60条)が成立することをいう。
共謀共同正犯論は、背後の大物を犯罪の実態に見合った「正犯」として処罰する必要から生まれたものである。
もっとも、首謀者とはいえ、実行行為を何ら行わなかった者も共同正犯として処罰し得るのかについて、その「正犯」性の解釈が問題となってきた。
2.判例および学説の状況
共謀共同正犯論について、判例は古く旧刑法の時代から採用してきている。大審院は当初、詐欺罪・恐喝罪といった知能犯について共謀共同正犯を認めていたが、やがて放火罪、殺人罪、窃盗罪、強盗罪などの実力犯についても広く肯定するようになった。
このような判例の流れに理論的根拠を与えたとされるのは、共同意思主体説である。これは、共謀により共同意思主体が形成され、一部の者の実行行為が共同意思主体自体の行為と捉えられ、組合理論を類推することで、実行者以外の共謀者にも共同正犯としての責任を問い得るという説である。
しかし、共同意思主体という超個人的な主体を認めるため、個人責任の原則に反する結果になるという批判にさらされ、少数説にとどまった。
学説の多くは、共同正犯は正犯であり、正犯とは実行行為を行う者であるから、共謀それ自体は実行行為ではなく、実行行為の共同がない以上は共同正犯とはいえないとして、共同正犯は常に実行共同正犯であることを要すると解する共謀共同正犯否定説が支配的であった。
なお、否定説からは、教唆犯の法定刑は正犯と同じであり、幇助犯も法定刑の範囲は広いから、その範囲内で犯罪の実態に即した量刑を行えば足りるとも主張されている。
そのため、最高裁は、大審院の判例理論を継承しつつも、練馬事件(最大判昭和33年5月28日刑集12巻8号1718頁)において、「共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められなければならない。したがって、右のような関係において共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、その間刑責の成立に差異を生ずると解すべき理由はない。さればこの関係において実行行為に直接関与したかどうか、その分担または役割のいかんは右共犯の刑責じたいの成立を左右するものではないと解するのを相当とする。」と判示し、従前とはやや異なった理由付けを行って、共謀共同正犯の無制限な適用拡大に歯止めをかける姿勢を示すようになった。
これに対しては、従来の共同意思主体説的な立場を修正し、「他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行った」という間接正犯類似の共謀共同正犯概念を提示したものと評価されている。
この判例をきっかけとして、また、判例の流れが不変のものであることが自覚されたため、学説では肯定説が次第に支持者を増やしていった結果、今日では理由付けの違いはあれども、結論的には共謀共同正犯を認める説が多数説となっている。
そして、その理由付けについては、共同意思主体説、共同意思の下に一体となり、相互に了解し合って互に相手を道具として利用し合う点に正犯性を認める間接正犯類似説、共謀者は実行担当者の行為を支配するから正犯者としての行為支配が認められるとする行為支配説、「共同して実行した」(刑法60条)というのは、二人以上の共同意思に基づいて犯罪を実行することをいうから、実行共同正犯の場合ばかりでなく、共同実行の意思と共同実行の事実とが認められる限り共同正犯が成立するとする包括的正犯説などが主張されている。
他方で、実行共同正犯の形式的明確性の確保という観点から、否定説も依然として支持者がいるものの、否定説からも行為支配論や優越支配共同正犯説が主張され、実質的には共謀共同正犯を認めるに至っている。
3.共謀共同正犯の根拠と要件
「正犯」という名はその犯罪の主犯であるという実質的な評価を含んでいるところ、否定説では背後の大物を犯罪の実態に合わない教唆犯(61条1項)や幇助犯(62条1項)としてしか処罰できず、国民の法感情に反する。また、教唆・幇助→実行という法の予定する類型が、現実の共謀形成過程と必ずしも合致しない点においても、否定説は支持できない。
そもそも60条が「すべて正犯とする」として、一部実行全部責任の原則を認めているのは、共同実行の意思の下に相互に他の共同者の行為を利用・補充し合って実行行為に至るためである。そうすると、「共同して実行」とは、共同実行の意思の下、相互に他人の行為を利用・補充し合って犯罪を実現することをいい、必ずしも共同者全員の実行行為の分担は必要でない。
よって、共謀共同正犯の要件としては、①二人以上の者が相互に他人の行為を利用して各自の意思を実行に移す謀議をなし、②共同して犯罪を実行する意思の下に、③共謀者のある者がその犯罪を実行することが必要であると解する。

                                以上


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?