見出し画像

第三十四話 海へと帰る

 僕らは真っ暗闇の中、ライトを持ち浜辺まで向う。
僕のマグライトは、ビルマの停電に使用し過ぎたので、電池が足りない。薄暗い。
こんな時に肝心の電池が無いとは…。
3mくらい先までしか見えない。

浅野さんは中国に居た時に手に入れた大きなライトを持っているが、手元しか明るくならず全く使えない。

途中、何度も迷いそうになりながら、浜辺まで到着。
 
するとライトが照らされ、人だかりが出来ているところがある。
 
「あれか。あれが、そうなのか。」
 
僕らはその人だかりのところへと向う。
 
すると、人集りの真ん中に、大きな大きなウミガメが。
え?ウミガメって、こんなにデカいっけ?

背中に余裕で乗れるくらいにデカい。
2mくらいあり、僕よりデカい!

そんな大きなカメ、レザーバックが穴を掘り卵を産んでいる。
話で聞いたり映像で見ていたように、涙を流しながら(涙ではないけど)、沢山の卵が産み落とされる。
 
 もし、僕がここで一人でウミガメの産卵を見ていたのなら、感動の場面だったかもしれない。

だが、何やら色々なツアー客が沢山居て、ウミガメも僕らも落ち着いていられる様な感じではない。
 
 一部の欧米人と中国人(シンガポーリアンとマレーシアの華僑でしょうか)の観光客が、フラッシュをたいてバンバン撮影している。
地元の自然保護官らしき人が、「フラッシュ撮影はやめて」と怒る。しかし止まないフラッシュ。
 
ウミガメもたまったものではない。
 
僕も一番前で見ていたのだが、後ろからフラッシュの光の連続で、落ち着いていられない。
 
「フラッシュ、止めろっていってんだろ!」
いい加減止まないフラッシュの嵐に、一部の欧米人、僕、係官が怒る。
 
「こっちは金払って見にきてるんだ!」
華人のツアー客が怒鳴る。
 
更に怒る僕ら(我関せずの浅野さん)。
 もう、収集のつかないこの場…。
 
 しかし華僑や他のツアー客は写真を撮って満足したのか、早々に引き上げる。

半分以下に減り、ようやく落ち着きを取り戻す、この浜辺。
これで少し落ち着いたのか、もうフラッシュ撮影するような人はいないようだ。
 
最初から大人しく観察していた集団が居た。
どうも同じアジア系でも、さっきの集団とは明らかに違う。
話しているのを聞いているとなんと日本語。
 
「あれ?日本人なんだ?どっから来たの?」
と僕は、そこに居た一人の小学生の低学年くらいのコに話し掛ける。
 
「ぼ、僕らは大分県から来ました。農協の集まりで皆んなで来たんです!」
突然、知らない日本人に声を掛けられ、明らかに緊張している。
本当に田舎の方のコのようで、非常に純朴そうな少年でした。
 
「マレーシアまで来たんだ!凄いね~。」
「は、はい!マレーシアでこんなに大きなウミガメを見れて感動しました!」満面の笑顔になるのを見て、僕まで嬉しくなった。

ここまで観光バスで来たらしいですが、敢えて、こんな自然を観に来るなんて素晴らしい。
そして、その団体だけ、静かに言われた事を全員で守って観察していた。

また、こんな場所でも日本人らしさに出会いました。
 
 このレザーバックは近い将来、絶滅の危機があると言われています。自然保護官からウミガメの現状などの話を聞く。
次の世代達は僕らが今見てる動物達、植物達を見れないのかもしれない。見れたとしても、野生ではなく保護下でのみ。
結局、それは自らの首も締める事になる。
そんな話をする。

いつか世界の人々が、それに気付くと良いんですが…。

そんな話しをしているウチに、レザーバックが産卵を終え海に帰るようだ。
折角、高感度のフィルムがあるのに、撮影するの忘れてた!
僕はウミガメを追って海へと入る。
 
「危ないですよ!どこへ行くんですか!?」
と浅野さん。

「帰ります!海に!」
と僕。
 
巨大なウミガメを追って海へ。
しかし、海に入るとカメのスピードは陸での動きとは桁違い。
大きな身体が悠然と、この広大な海へと帰っていく。
 
 彼らは僕ら陸の生き物と違い、海の世界で生きているんだなあ。

僕はカメも自分との違いを感じた。
 
 どんどん変わる陸地の環境。それでも産卵の為、陸に上がらなくてはならない。
彼ら彼女らの住む海の環境もどんどん汚染されていく。

きっと海で生活しているもの達には、年々生活しにくい環境になっていくのだろう。
これからも。更に。
 
色々と考えさせられる経験、体験となった。

 ウミガメの産卵を見た僕らは、その後、マレーシアのカンポンを巡りながら、更に南下して行くのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?