國保監督による大船渡・佐々木朗希投手の登板回避は、高校野球の歴史を変えた瞬間かもしれない 〜SPORTS X Conferenceメモ

SPORTS X Conference2019での個人的なメモです。自分が気になったところ、解釈して記述しているので、講演者の考えとズレているかもしれませんのでご了承ください。(当日はスライド撮影不可でした。文中のリンクは私が勝手に入れたものです)

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タイトル:100球制限は必要なのか。~科学とリアルから考える~
パネリスト:
神事 努 (国学院大学 人間開発学部 准教授 /ネクストベース エグゼクティブ・フェロー)
林 卓史 (朝日大学経営学部准教授 / 慶大野球部前助監督)
大野 倫 (沖縄水産高校元エース / NPO法人野球未来.Ryukyu理事長)
渡邊 幹彦(東京明日佳病院院長 / 全日本野球協会 医科学部会 部会長)
モデレーター:氏原 英明(スポーツライター&ジャーナリスト)

神事氏より解説と提案

・医学会でも年代毎の投球数の基準を作っている。しかし、全力投球をしてなくても肘の痛みがある人が2割。100球以上投げても痛みのない人が4割。実際の指導者の体感的にも個人差は大きい。
・肘の靭帯損傷につながる内反トルクを調査した。球速が上がると大きくなり平均的には135kmで80Nmぐらい。しかし、110Nmになる投手もいれば、球速に影響されない投手もいた。
・提案:制限球数を上下させるテーラーメード型の投球制限
(1)全国のモーションキャプチャ施設と提携
(2)MOTUS(スリーブ型)やボール型などのセンサー機器をばらまく
 →フォームによる負担のかかり具合を評価して、上限球数を設定する(負担のかからないフォームなら球数が多くできる)


(3)試合時にマーカーレスのリアルタイム計測で、内反トルク値を球速のように表示、90Nm以上の球は100球までといった制限をする
・テーラーメード型投球制限のメリット:障害予防効果が高い/良いフォームを習得する動機付けになる/リスクの低い投手育成/良いフォームへの知見が集まる/客観的評価で指導者の負担減/納得感がある

シンポジウム

元沖縄水産エース、大野倫さんの高校時代の話

・予選前から肘故障の自覚あり、予選は痛み止めで乗り切る。甲子園は「痛いなりに工夫して投げなさい」と言われる
・大会後に沖縄に戻ったら疲労骨折、靭帯損傷、遊離軟骨など6つの診断で、リハビリに1年を費やす
練習で400球を投げることも。延長18回を一人で投げきることを想定した球数
入学時が球速のピーク、投げれば投げるほど球威が落ちていった。それを取り戻そうと力を入れるとバランスが崩れるという悪循環

渡邊ドクターの話
・2000年のシドニー五輪時、ワシントン・ポストの記者から20歳の投手(松坂大輔)を投げさせすぎじゃないかという質問が出た。日本ではそういう見方もあるんだな、ぐらいの印象で、松坂は壊れないだろうと考えていた
・二足歩行をして上から投げるのは人間だけで、簡単な動作ではない。小さい頃にボールを投げる経験がないと身につかない。また体が成長する途中で野球をし多くの怪我をする。高校生でも体の完成度が違う。
・球数制限の有識者会議にも出ているが、球数を制限して投手をどうやって育てるのかという話が出る。日本の野球が弱くなっていいのかと。
新田恭一さんの「力をいれる順番を間違わなければ絶対に壊れない」という理論を今でも信奉しているコーチが多い。データを集めないとこの辺は打ち破れない。

慶大野球部前助監督・林さんの話
・監督の立場に行動経済学を考慮に入れて考えたい。現場として、エースが投げることを変えられない。この投手が投げられれば納得だ、と。
首都リーグではガイドラインを作っている。ルールを決めていかないと、現場任せでは目の前に流されてしまう。

いい投球フォームをつくるということについて
神事)コーチは自分が見てきた最高のピッチャーを理想として持ちがち。骨格の違いや筋肉の違いに対応できない。実際に力がかかっているのは0.06秒しかないのに感覚や見た目では判断できない、ということをまず理解してもらいたい。
林)投げては計測して、を繰り返すトレーニングをしていた選手がいた。測った上で、工夫するのが面白いと考えられれば、それぞれの個人差に対応した形を自分で考えられるのではないか。

大船渡・佐々木朗希投手の決勝登板回避について
林)目の前の勝負を大事と思いすぎず、使いすぎて失敗より使わなくて失敗した方がいいと考えた監督が凄い
渡邊)球速というわかりやすい数字に世の中が煽りすぎ。國保監督は過程を大事にするプロフェッショナル
大野)自分が選手の頃だったら、試合を任せられた以上投げ抜きたい、というのが当たり前だった。國保監督による佐々木投手の起用は、高校野球が変わった瞬間を感じた。プレイヤーズファーストを高校野球が考える時代がきたのではないか。

指導者の知識について
大野)中学生の指導をしているが、入部した時点で壊れている部員も多く、そういう選手に限って早熟でスターだったりする(5年生で活躍して怪我して6年生を棒に振っていたりとか)。体は大きくなっていても中身はまだまだ。ジュニアの指導者たちが、専門的な知識を持っているとは思えない。ライセンス制度や指導者の勉強意欲向上も大事。
渡邊)プロのOBがアマチュアを指導の資格を取るための場で医学的な説明をすることがあるが、いい選手はいい指導者だというイメージがまだ強い。それでも、ライセンス制度の実施は、少なくとも野球がうまくなるのは簡単なものではないとう理解は深まる。

まとめ:100球での球数制限について
林)個人差はあるが、まず大雑把に設定することは必要。一方で、100球で試合が収まるような仕組みなどを考えることも大事
大野)疲れて力尽きて散るシーンを甲子園の感動にするのではなく、ベストパフォーマンスで感動するような魅せ方にしていってほしい。
渡邊)球数もそうだが、連投をどうにかしないといけない。土日に試合を集中させているのは大人の事情。例えば野球の試合は水曜と土曜みたいになれば。
神事)1研究者としての考えだが、20年前にアメリカで出来たこの100球制限という仕組みを、今さらそのまま日本で導入するのか、という思いはある。まだアメリカもやっていないような本当の解決策を日本から出したい



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