臨 時 便
発車のベル。幸福への旅が始まった。
夏風に揺れた木漏れから、光りの粒子がキラキラと輝く。希望と期待に胸は膨らみ、まなざしは柔らかい。旧友は元気だろうか。車内のワゴンに声を掛けた。「ビールと、おつまみを」駅弁はまだ早いしな。おつまみはピーナッツにした。夏に冷えたビールは旨い。たぶん、いまが真冬でもビールにしたに違いない。
車窓から見る空の積雲が夏らしい。晴れた日によく発生する積雲は、夏雲や綿雲ともいう。形がよく変わるイメージだが、積雲には特徴があるのだ。雲の真ん中に線を引く。雲の上部はよく形を変えるが、下部は平たくほとんど形は変わらない。人間も雲みたいだ。ふわふわとしたりそっくりだ。人間も上へ上へと伸びながら成長する。心技体を支える本心は根付いたものであり、そう変わるもんじゃない。雲内部の雲粒の密度が高く、日光が当たった時の明暗がくっきりと表れる特徴も似ているかもしれない。自然界の者同士、似るのかもしれない。
幸せはそこにある。幸せは探すものではない。気づくもの。そこにある幸福に気づいたとき、ひとは幸せを感じる。
希望へと。
臨時便も、そろそろ発車します。乗り遅れのないように。
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