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類 / Ⅱ

冷静さを欠いていたわけではなかった。しかし、今思えば、多少の冷静さは欠いていたのかもしれない。その証拠に私は葉書の宛名を間違えてしまった。彼女の名前のかわりに、そこに記されていた旦那のフルネームを書いていた。彼女の結婚した男性の名前を書いた経緯には、理由があったと考える。一つは、その苗字に気を取られて、うっかり書き間違えてしまったというもの。もう一つは、当時の私のなかに彼女に対する意識がなかった為、印刷された文字をそのまま書き写してしまったというものである。後者だとして、このことは、私に感慨深い気持ちを起こさせた。熱烈だった気持ちも年月が経てばこのように移り変わるものなのか、という感慨である。この感慨は、葉書をポストに投函するときにも起こった。

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