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私が大学生のころ、家に舞い込んできた年賀状の中に、あるひとからの葉書が一枚混じっていたことがある。いまも幼馴染みということにしてあるが、初恋のひとだった。中学の終わりごろ、彼女は親の転勤で引っ越していった。互いに部活がありながらも、朝練がないときは駅で待ち合わせして一緒に登校したり、毎日楽しかった。引っ越してから暫くは落ち込んだのを覚えている。郵送されてきた年賀はがきには、短い文章も書き添えてあったが、このときはまだ誰からかわかっていなかった。「ご無沙汰しております。お元気ですか。子供も生まれ、忙しくしてますが、元気に過ごしています。」と言ったような文面だった。誰かな。苗字に覚えがない、誰だっけ。


私は一旦全部を見終えた後、もう一度その葉書に目を通した。その夫らしき人の名のとなりに、名前が書き連ねてあった。彼女の名前だった。嗚呼。予備用の葉書が置いてあったな。わたしは返事を出すことにした。


予備用があったにはあったのが、絵や文字の印刷がない両面真っ白のものだった。困った。空欄が過ぎる。「謹賀新年」と書き始めてみたものの、初っ端から筆が止まってしまった。子供が産まれたんだなと微笑ましくおもいながら、そうかと思えば当時の楽しかったあれこれが思い出されたりして益々混乱をきわめた。色んなことが思い出されてか、空欄が有り過ぎてか、なかなか書き出せない。結局、謹賀新年とだけ書いて、宛名を書き始めた。

次回、 類 /Ⅱ 

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