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伊古兄ロタ(ikoani rottah)のペンネームで書いた小説を、次のサイトで全作公…

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伊古兄ロタ(ikoani rottah)のペンネームで書いた小説を、次のサイトで全作公開しております。 ご笑覧を(^^;) https://ameblo.jp/ikoani/

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が丘ガール

第48話(最終話)U68星 気が付いたら、私の体はフワフワしていた。周りが、やけに明るい。しかも、キレイな花畑が見えたりして。(もしや?)私は、勘ぐった。妙なことに、足元を見たとき、私の体から、薄緑色の光が出ていたのだ。 それにしても、辺りは静かだ。そうそう、私は、雅彦君のことが心配だったのだ。「雅彦君」。心の中でつぶやくと、何と、雅彦君が目の前に現れた。雅彦君は、私のほうをチラリと見て、微笑んだが、すぐに遠ざかった。スーっと、エスカレーターに乗っているかのように進んだので、

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      第47話 愛の逃避行  太田教頭はおそらく、雅彦君のお爺さんに言い含められたのだ。 「私は、あなたたち一家のことを暴くようなことは言うまい。昔、カーバイト工場で働いていた時、私はあなたのお爺さんに命を助けられたんだよ」  雅彦君のお爺さんは、そんなふうに言って、太田教頭に観念させた。 (私も、太田教頭のお爺さんのように、U人を助ける人になろうと思う)  太田教頭はその言葉を信じた。だから、雅彦君のお爺さんを手にかけるようなことをせずに、その場を離れようとした。私は、そう推測す

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        第46話 美婆 「U人って、なあに?」私は、ミサトさんに訊くしかないと思った。  喫茶『ビーバー』が一瞬だけ、静かになった。 「話してあげれば?」小田校長が言うと、吉岡さんが隣でうなづいて、催促してくれている。亜紀も高田もアケミも、言葉を待っているようだった。 「U人は、絶滅したのよ」ミサトさんが、とうとう重い口を開いた。「もともと、地球にはU人しかいなかったはず。ところが、病気か突然変異か知らないけれど、別の人種が出て来た。爬虫類型宇宙人が襲来した、なんて言う人もいるらしい

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          第45話 謎解きファブラ 『誰か羽振りがいい奴にやられた』  これは、太田教頭が発したという言葉だった。境内で手榴弾が爆発したときに、瀕死の太田教頭のそばで雅彦君が聴いた。「そう聴こえた」と雅彦君は言った。  喫茶『ビーバー』で、亜紀が訊いて来た。 「ファブリック・パネルって知っている?」 「知らない」私は正直に答えた。何のことだろうと思った。 「壁に貼り付けられた布飾り。絵のような、布の壁飾り。見たことない?」 「あ。それなら知ってる。発泡スチロールに布切れを巻いたものよね

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          第44話 紅鳥を描く人 「U人」とは何を意味するのだろう? 「もしかして、雅彦君のお爺さんって、U人?」私は、急いでミサトさんに尋ねた。 「そうよ。その総帥(そうすい)」ミサトさんはすぐに返事をした。「だから、戦争に行っても、銃を撃てなかったんだわ。似たような人が周りにも居たって、以前、言っていた」ミサトさんの話では、そういう人は行軍の途中に脱落して餓死したり、上官に撃たれてしまったりしたという。 「U人と言うのは、大昔から、ヤタガラスに向かって拝んでいた人たちのこと。岩手山

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          第43話 誰か羽振りのいい奴 「太田教頭は、ハメられたんだ」小田校長が私たちに言った。  小田校長と吉岡さんは、どうしてこの場にいたのだ?  そして、太田教頭と緑が丘神社の人たちには、何があったのだ?  すぐに疑問が湧いた。高田もアケミも、同じだったろう。  ところが、それらの謎は、私には一気に解けた。雅彦君がすべてを見ていたのだ。 雅彦君は、しおれた水仙のように首をうなだれていたが、ことの顛末をポツポツと語った。まるで映画でも観ているみたいだった・・・。  昨夜、吉岡さんが

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          第42話 緑色の球体  夕べ、吉岡さんは、「これから、小田校長という人に会ってくる」と言って、喫茶『ビーバー』を出た。 「もしかしたら」高田が心配顔で言った。「・・・吉岡さんは、太田教頭に談判しに行ったのではないのか?」 「ありうるわね」とアケミが応じた。「だって、教頭が張本人みたいなものだもの」  アケミはこう言いたいのだろう。私にも推察できた。  ・・・武道館での決勝戦の時、雅彦君が新作を発表しようとすると、太田教頭は「この二つにしろ」と言った。一つは、『僕はもう 金魚を

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          第41話 パクリの連鎖 「その文芸誌のタイトルと楽曲のタイトル、同じだね。笑えるだろ?」吉岡さんが笑って言った。吉岡さんの笑みにつられて、雅彦君が苦笑いをした。  この楽曲は、啄木へのオマージュとして作られたに違いない。  すると、「他人のことは言えないけどね」吉岡さんが意外なことを話し始めた。「詩集大賞の最終選考に残った僕の詩集の中には、パクリの詩があるんだ」  吉岡さんは、緑が丘高校の二年生の時に『全国高校生詩集大賞』の最終選考に残るという快挙を成し遂げていた。先輩方が残

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          第40話 パクリの楽曲 「とんだ、災難だったね」  喫茶『ビーバー』で吉岡さんが雅彦君と亜紀に言った。それを私は横で聞いていた。隣には、高田とアケミもいた。  災難とは、うちらのグランプリがフイになったことだ。  私は、吉岡さんを初めて見た。玲菜さんのお兄さん・龍樹さんとは違って、とても神経質そうな人だったが、どこか芯を感じさせた。詩集を自費出版したことにもうなづけた。  吉岡さんには、雅彦君と亜紀が、すでに東京で会っている。玲菜さん一家失踪の調査だった。吉岡さんは、玲菜さん

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          第39話 ひよこの後始末  勝負事は蓋を開けてみなければ分からない。県大会の時も思ったが、武道館でも同じ思いを持った。 『英語de川柳・甲子園』の決勝大会で、三重県代表の高校を破って、私たち緑が丘高校が優勝したのだ。夢のグランプリ受賞だ。とうとう、ヤったね!  雅彦君は、最後の『大将』同士の争いで勝った。私は、雅彦君が勝つかどうか不安だった。亜紀も高田もアケミも同じだった。 「なにしろ、パクリの句だからな」高田が心配そうに言った。「違うよ。マジで僕の句だ」雅彦君は堂々として、

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          第38話 強行突破の句 「お前は首だ!」顧問の太田教頭は、部会で高田に言い放った。 「どうしてですか?」高田が驚いて、食い下がった。 「部長にふさわしくないんだよ」太田教頭のこの一言を聞いてから、高田は、足元に目を落とした。泣いているのか、高田!  私は、太田教頭のことが、心底、嫌いになった。  太田教頭は、雅彦君を新しい部長にすえて、『英語de川柳・甲子園』にエントリーしたらしい・・・。 「お前は首だ。それを英語で何というか知っているかい?」、英語の立花先生が、優しい目をし

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          第37話 ダーター・ファブラ  英語の立花先生は、うちの高校に早く慣れようとしてか、先刻の国語の授業を教室の後ろで聞いていた。授業参観というのは父兄のためにあるのに。  私は、少し訝しく感じた。国語の前田先生を偵察しているように思えた。  前田先生はやりにくそうだった。授業が終わると、立花先生は、私たちのそばに来た。立花先生は、失踪した田端先生に代わってうちの高校に来た先生だ。小田校長とはジッコンの仲だと聞いた。そう教えてくれたのは、喫茶『ビーバー』のミサトさんだ。ミサトさん

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          第36話 漱石の小説の謎  太田教頭は、雅彦君を責め過ぎていると思う。かわいそうだ。雅彦君に何か恨みでもあるのかと疑ってしまう。  一時限は、国語の授業だった。国語の前田先生は、新しく来たばかりの先生だった。先生の失踪事件のあと、辞める先生もあって、最近は、新しい先生が多い。  前田先生の国語の授業を、教室の後ろで聞いている先生がいた。この高校に早く慣れようとしてだろうか。確か、英語の立花先生だと聞いた。 「夏目漱石の小説『三四郎』には、謎の言葉が出て来る。『ダーター・ファブ

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          第35話 駄々っ子の大人  この日の『英語de川柳部』の部会の宿題は、『大人(おとな)』だった。  私は、自分の名を書いて愚作を提出した。他の人も、記名して出していた。  以前、英語の田端先生が部の顧問をしていた時は、先生は、無記名で宿題の句を提出させた。無記名の方式は田端先生の発案だった。「名前を書かないメリットがある」と先生は言った。確かにそうだ。誰の句か分からないから、「この句は好きでない」とか気兼ねなく批評できた。  この無記名方式を私は気に入っていた。しかし、新しい

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          第34話 金魚を辞める  緑が丘高校の文芸部の棚に、吉岡さんの詩集が数冊、残されていた。  文芸部に属していたのだから、吉岡さんの詩集が部に残されていたのは当然であったが、この詩集は別の理由から大事にされた。  吉岡さんの詩集は、のちに、『全国高校生詩集大賞』の最終選考に残ったのだ。先輩方が残した『文芸部の歴史』の一節に、そのことが記されていた。  雅彦君が見つけて来た『卒魚』と銘打たれた詩集には、十数編の自作詩が掲載されていた。  表紙の装丁の焦げ茶色のデザインは、どこか品

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          第33話 合体ロボ  岩手山の東側にウサギの形をした雪形が出る?  そのことを母とじいじに訊いてみたが、「知らない」と言われた。 「ウサギの雪形のこと、本当かしら?」翌朝、私は亜紀に言った。 「このあいだ、雅彦君は、春になったら、見せてあげるって」亜紀はまんざらでもない顔だ。ウサギの雪形が真実かどうかなんて、亜紀にとっては二の次なんだ。  私は観念して訊いた。「どうだった?」。 「何が?」亜紀が無粋に訊き返したので、私は追ったりしなかった。  亜紀は自分から「雅彦君とデートし

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