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優雅な読書が最高の復讐である/A Sunday in Ville-d’Avray

11月。

ソフトの立ち上がりが悪く、その間にちょっとだけ目を通そうかと思った小説を一気読みしてしまう。タイトルは「A Sunday in Ville-d’Avray」。ドミニク・バルべリスというフランス女性作家の英訳本である。

 今年、アルフレッド・ヘイズの「In Love」という小説に夢中になり、感想を書いている人はいないかとサーチしていて見つけたブログで、この小説を見つけた。アンニュイな日曜日に、もっと憂鬱になることは間違いないのに、パリからヴィル=ダヴレーに住む姉を訪ねに行く妹の話で、秋に読むのにぴったりの中編だと紹介されていた。あまり他言語の英訳本は買いたくないのだが、これは表紙がよくてつい購入してしまった。ロンドンの書店Daunt Booksのレーベルから出ているのも決め手だった。何年か前に仕事でロンドンに行った時にこの書店に寄り、オリジナルのレーベルから再版された小説を二冊買った。そのうちの一冊、レオナード・マイケルズの「Sylvia」が傑作だったので、それ以来、ここのセレクトは信頼しているのだ。

 ドミニク・バルべリスは本国では人気らしく、ドゥ・マゴ賞を受賞し、この作品もフェミナ賞の最終候補に挙がっている。アンヌ・フォンテーヌ監督が映画化している作品もあるが、こちらも残念ながら日本未公開だ。

 パリからヴィル=ダヴレーに行く妹は、ぼんやりと夢見がちな主婦である姉のクレア・マリーについて思いを馳せる。ブリュッセルでの子供時代、二人は「ジェーン・エア」に夢中だった。クレア・マリーは窓辺に何時間も座って、何事かを待っているような地に足のついていない少女となり、そのまま大人になって、今は医師の夫とティーンの娘とヴィル=ダヴレーの瀟酒な一軒家に住んでいる。主人公の恋人は、クレア・マリーを耐えられないほど退屈な女性だと考えていて、ヴィル=ダヴレーに行くと思うだけでも気が滅入ると彼女に告げる。だから彼女は一人で姉の家に行く。

 まだ夏の名残りがある彼女の家の庭で、クレア・マリーは思いもかけない恋の物語を妹に打ち明ける。夫の患者の一人。ハンガリーからの亡命者で、輸送業を営む黒い髪の男。カフェでの逢瀬。情事にすら発展しなかった短い関係。

 淡く潰えてしまった姉のロマンスについて聞かされた妹の気持ちを考える。結局失ってしまったとはいえ、姉はかつて待ち望んでいたドラマティックな瞬間を手に入れたのだ。しかし、クレア・マリーの話はどこまでが真実なのだろう? 少女時代の姉妹の記憶と同じく、証拠になるものは少なく、その物語は彼女の中にしか残っていない。

 ラストの方に映画の話が出てきて、あっとなった。ヴィル=ダヴレーは映画「シベールの日曜日」の舞台なのだ。他人の目がないときは、お互いに何者でもない、青年と少女の短く幸せな関係。この映画の原作のタイトルが「ヴィル=ダヴレーの日曜日」なのだ。

 それにしても、どうして私はこれを水曜日の午前に読んでしまったのだろう。クロード・シャブロルの撮るミステリ映画みたいな灰色の空が広がる日曜日の午後に読むべきだったのに。

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