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瀬々敬久「黒い下着の女 雷魚」

横浜シネマリンで、瀬々敬久「黒い下着の女 雷魚」 脚本は井土紀州との共同。

不倫で心身を病み入院した女(佐倉萌)と、妻に隠れ浮気するゲス男(鈴木卓爾)が、テレクラで知り合い殺人事件に発展。目撃者のガソリンスタンド店員(伊藤猛)は萌と再会し、二人は劇的に破滅。週刊新潮「黒い報告書」を映像化したかのような実録犯罪映画の秀作。

良心の呵責に苛まれる人生最大の罪、それは浮気である。大病を患ったヒロインの佐倉萌も、息子を黒焦げの遺体にした主人公の伊藤猛も、自分はまだ十分に罰を受けていない、死にたいと思っていた。そんな二人が運命的に出会ってしまった、悲しくも破滅的な、男女がマイナスに共鳴して死に急ぐ物語。

本作は企画朝倉大介&衣川仲人、プロデューサー福原彰、原案瀬々敬久、脚本井土紀州&瀬々敬久、撮影斉藤幸一、音楽安川午郎、編集酒井正次、録音シネキャビン、助監督坂本礼。なぜスタッフを羅列したか?本作はピンク映画じゃないがピンク業界の英知を集結した力作だ。

出演者も、ヒロインの佐倉萌を始め、ガソリンスタンド店員の伊藤猛、同僚の穂村柳明、店長の外波山文明、刑事の佐野和宏&岡田智弘、美容院の河名麻衣、看護婦の吉行由実、子供服屋店員の泉由紀子、まだ他に居たかな?錚々たるピンク映画俳優オールスター作品でもある。

上映後、ヒロインを演じた佐倉萌さんが舞台挨拶に登壇。本作は萌さんのデビュー作で、瀬々監督もこれが出世作になった訳で、この後に萌さんが瀬々作品に一本も出ていないのは意外だった。デビュー2作目は本作で看護婦役で登場する吉行由実作品でキャラは全く違うらしいw

ピンク映画でお馴染みの幻惑的な瀬々ワールドとは真反対の実録クライムサスペンスものと見せかけて、実はかなり人物描写がファンタジックで(笑)三人の主人公、伊藤猛、佐倉萌、鈴木卓爾がそれぞれ救いようの無い心の病に罹っていて、破滅的な最後に至る破滅映画だ。

全編、茨城県の鹿行地域から隣接する千葉県北東部が舞台で、私は仕事やサッカー観戦で何度か訪れたことがある独特な雰囲気の地域。製鉄所が聳え立つ隣に小さな漁港があり、平坦な田園風景が広がってるかと思えば、高層の集合住宅や賑やかなロードサイド店が個性的。

北関東の田舎町は、私の出身である静岡と違い、山や川や森に恵まれているというより、辺り一面に延々と田園風景が広がっていて、都市化と車文化がかなりいびつな形で発展しているような感じ。静岡で生まれ育ち、広島で生活経験のある私にはどうにも馴染めない地域。

私は子供の頃、週刊新潮に連載されている「黒い報告書」を隠れて愛読していた(笑)実際にあった色と欲にまみれた男女の情痴事件を生々しく短編小説化したもので、ウィークエンダーの文字版とでも言えばいいのか?幼な心に人間の持つ逃れられない性と死の業に震えた。

公金横領とか美人局とか、事件の素材は色々あれど、やはり「殺人」に匹敵するだけの衝撃的な事件は無い。殺人を描くこと自体、タブー視されてもおかしくないが、昭和の時代はスキャンダラスに小説や再現ドラマで語られていた。これはむしろ健全な世の中かも知れない。

恐るべき猟奇殺人を犯した犯人、しかもそれはベッドで男に抱かれた後にナイフでメッタ刺しにして殺したり、首を絞めて殺害した女の死体を小舟に乗せて火を付けたり、目を覆いたくなるような犯行シーンに至るまでに一体どんなドラマがあったのか?その視点で描いて行く。

思うに、瀬々監督は本作に期するものがあったのではないか?ピンク映画では自分が描きたい世界はある程度自由に表現できるけど、映画作家としては商業ベースに乗せなきゃならない。でも、自分の描きたい世界観は決して捨てられない、その妥協の産物だったように思える。

ヒロインの佐倉萌に注目!ご本人は「主役は伊藤猛さん」と仰るが、どうしてどうして、萌さんがどう見ても主役です。何と言っても24歳のピチピチのヌードを大胆に披露してるから!(←主役に推す理由はそこかよw)佐倉萌さんの本作における魅力について、まず語りたい。

萌さんの配役は「悪い男に遊ばれて子供を何度も堕ろしてる」「椎間板ヘルニアと慢性膵炎を同時発症した病人」「不倫相手の教師を殺害しに病院を抜け出した」救い様の無い悲惨な境遇(笑←笑うとこじゃねーぞ)この役をデビュー作で勤め上げたのはたいしたもんだと思う。

萌さんのおっぱい(←そこから入るの、やめろw)乳輪が大きくて、ロケット乳で乳首が上を向いてる。物凄く艶めかしくて、黒い下着に白いコルセットを付ける姿がまた色っぽいのなんのって!私の嫁さんも若い頃腰痛を患ってコルセットしてたから、コルセット萌え半端ない!

黒い報告書を映像化するので、当然ながらFUCKシーンがガンガンあります!と言っても、河名麻衣、泉由紀子はまさかの演技のみで、穂村柳明は一発ヤルけど、後は全部、艶めかしい佐倉萌さんの不倫FUCK、行きずりFUCK、これを存分に堪能したい(←ピンク映画じゃねーぞw)

タイトルにある「黒い下着の女」は佐倉萌が黒い下着を履いていることと黒い報告書を掛けていると思うのだが、問題は「雷魚」の方。これが瀬々作品らしさ、利根川で伊藤猛が投網で引っ掛ける雷魚は魚屋も買わない捨てるだけの魚、それを破滅的な人生を歩む男女に掛ける。

ガソリンスタンドの仕事をサボって利根川で投網漁をする伊藤猛にタイトルインし、病院を抜け出して不倫相手の男に会いに行く佐倉萌、そして仕事をサボって身重の妻に内緒でテレクラで浮気する鈴木卓爾、まさに黒い報告書そのもの、眩暈がするほどのクズ人間ばかりが登場w

本作で異彩を放つ、と言うか、ツッコんでいいのか分からないw「十二橋の節子」彼女は戯れにテレクラに電話する狂女なのだが、注目すべきはJR鹿島線の「十二橋駅」鹿島スタジアムに電車で行くと通る駅だが、利根川に架かる十二橋のインパクトは、観た者しか分からない。

本作で重要なのは「殺人事件の目撃者」である。黒い報告書は目撃者があって初めて完成する。密室完全犯罪をされたら情痴事件が世間の表沙汰にならないし、犯人の不幸な生い立ち、人生と蹉跌も語られない。目撃者が重要、瀬々監督はここがポイントと思ったのだろう。

瀬々監督の大胆なデフォルメは、恐らく実際に起きたと思われる二つの情痴事件を、目撃者と言う存在を通して連関させ、一つの物語のように紡いでいる。錯綜して分かりにくくなりがちな設定を、モチーフを散りばめることで整理して観客に呈示することに成功している。

佐倉萌さんの乳輪デカ目のエロいおっぱいや乳首が上を向いたロケット乳の話ばかりしていても「お前、エロ目当てだろ!」と突っ込まれそうなので(←いや、半分はそうですw)主役三人の後二人、伊藤猛と鈴木卓爾にも触れておきたい。特に鈴木のどうしようもないゲスさw

鈴木卓爾は仕事をズル休みして、妊娠中の妻がいないことをこれ幸いと、テレクラで人妻を引っかけて昼間っからラブホで浮気してる、まあクズ男オブクズ男、一片の同情の仕様も無い奴で、当然ですが最初に殺されます。観客にとって鈴木の死は単なるカタルシスなのですw

一方、伊藤猛の方は、かなり入り組んだ状況と言うか、人生の辛酸を舐め尽くしたような男で、彼も浮気が原因で、浮気相手に家に放火され、幼子を失った。黒焦げ死体になった息子の姿にトラウマを持ち、職を転じて東京から茨城にやってきてガソリンスタンド勤めしている。

伊藤は、利根川で獲った雷魚をガソリンスタンドに持ち帰り、同僚の女に罵倒される。伊藤は自分自身が雷魚のように感じ、生きることに絶望感を覚えると同時に「人を殺してえ!」「俺はもう死にてえ!」破滅に向かって突き進みそうな危ないオーラを全身から発散している。

萌も、伊藤と同じく死にたい女。不倫相手をナイフで刺し殺して、そのまま無理心中してやる!萌と伊藤は決して会ってはいけない男女。マイナスとマイナスが作用したらどんだけ恐ろしいマイナスが生まれるのか?それをリアル黒い報告書として破滅的に暗いトーンで描き出す。

萌は、乗った電車を十二橋駅で降りて、公衆電話ボックスからテレクラに電話、そこに出てしまった鈴木もある意味災難だ(笑)萌が電話する姿を目撃していた十二橋の節子、彼女がまさかの物語のキーマンとして、ダークカラーで進んでいく話を、更に一層不気味に彩っていく。

ラブホでシャワーを浴びる萌をベッドで待つ鈴木。ここで思うのだが(←思うなよw)恋人同士でラブホに入ったら、お風呂って一緒に入るでしょ。テレクラとか売春だから、男はベッドで待つのよね、でも鈴木は一味違います。痺れを切らして、全裸の萌に襲い掛かります!

鈴木が萌をガンガンFUCKする場面が、ピンク映画ばりっていうか、ピンク映画そのものにエロくて、興奮MAXの所で、いきなり萌がナイフ取り出し鈴木のお腹をメッタ刺しって、これどうよwタイルが赤くて目立たないが、鈴木の出血で全身赤く染まる佐倉萌のビジュアルすげえ!

鈴木が萌に胸をメッタ刺しされて、絶命寸前になりながら「どうして?」を繰り返す。確かに、テレクラで知り合ってセックスしてちゃんと金も渡して、そういう意味では瑕疵はないけど、行い自体は天罰が下って当然だろ(笑)でも、この事件で佐倉萌は殺人犯になってしまった。

萌が鈴木を刺したのは、不倫相手の教師に会えない寂しさからの発作的な犯行。でも目撃者がいない。刑事の佐野と岡田は、面通しで美容室の麻衣とガソリンスタンドの伊藤を参考人に呼ぶが、伊藤はガソリンスタンドで会ったはずの萌のことを「知りません」とウソをついた。

萌は鈴木の車に乗ってラブホに向かう途中、給油でガソリンスタンドに立ちより、伊藤の「ゴミはありますか?」に「これ捨てといて」と婚約指輪を差し出した。もう真っ黒黒の黒ですwでも伊藤は犯人のはずの萌のことを庇った。伊藤は萌にどうしても聞きたいことがあった。

伊藤は「人を殺す気分ってどうなの?」萌に尋ねた。萌は自分が子供を何度も堕ろし不倫相手に遊ばれたこと、そして違う男を殺したことを白状した。伊藤は自分も不倫して不倫相手に放火され息子を黒焦げにされたことを告白した。救いようの無い地獄にいる、死にたい二人。

萌は伊藤と、鈴木を刺し殺したラブホで再会する。萌は病気が回復し「死にたいのにまた生き残っちゃった」伊藤に抱き着き、セックス。死に至る哀しいセックスは、病的だが恐ろしいほどに官能的で、エロい。コトが済みぐっすり眠る伊藤は目が覚めると萌がベッドにいない!

萌は風呂場で、シャワーホースを首に巻いて自殺しようとしていた。伊藤は「俺が楽にしてやるから」萌も「締めて、きつく締めて!」そのまま絶命する萌。伊藤は萌を殺すことで、初めて雷魚だった自分が救われた気がした。萌も雷魚だったのだ。自分の人生はもう終わった。

伊藤は、萌の絞殺死体を利根川に運ぶと、小舟に乗せて灯油を撒き、火をつけて燃やした。ゴーゴーと燃える萌を見ても、伊藤は何とも思わなかった。彼は利根川の雷魚を木の枝でつつきながら話しかけている「十二橋の節子」を見かけて、二人で電車に乗って上京した。

大都会東京の駅の雑踏を歩いている、伊藤と十二橋の節子。良く見ないと分からないほど、群衆の中に埋もれる二人。突然、フィルムが動かなくなり音が止まる(←瞬間、上映事故かと思ったぜw)そのまま行方をくらました伊藤の姿を見た者は、誰もいない・・・

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