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佐野和宏「ふくろうの夏」

2022年2月新宿ケイズシネマで、佐野和宏「ふくろうの夏」 (成人映画公開題「熟女のはらわた 真紅の裂け目」)

援交デート中に悪いおっさんに犯されそうになった家出少女(麻生みゅう)を助けたヤクザのおっさん(佐野和宏)は、サツに自分を売った妻を殺すべく、拳銃を手にしていた。悪事はふくろうがじっと見ている、でもヤクザのおっさんってホントはイイ人なのかも?少女は思った。フクロウが夏の暑い日、青春の終わりを黙って告げる抒情的な傑作。

田舎の夏の終わりの思い出を、アウトローで周囲に迷惑ばかりかけてきたヤクザなおっさんと、行く当てもなく漂流する家出少女のドタバタしつつ心温まる、新しく形成されていく疑似父娘関係、それを定点観測のように動かずに森の木陰からじっと見守るフクロウの目で描いた、抒情的にして優れた人間群像劇です。

今日の佐野和宏特集の2本「発情不倫妻」と「熟女のはらわた 真紅の裂け目」は振り幅が広すぎ(笑)前者は自主映画「ドライフラワー」をも突き抜ける前衛芸術なのに対し、この作品はかなりエンタメ指向に寄っていてキャラも描き分けられテンポよく展開、おっさんが俺の青春ももう終わりだと呟いた映画。どっちも同じ人が撮ったんだなあ、と思ったよw

佐野は脱獄したヤクザ、ヤクの売人で情婦だった女に実家の農業を継いでくれとサツにチクられムショ入りし情婦に逆ギレ、命を狙いに脱獄したという、まあとんでもないクズ男からのスタートで「こんな奴に感情移入できるの?」と言えば、かなり重層的な構造に出来ていて、ある意味、佐野作品らしくない。

エンディングテロップに「ふくろうの夏」と出るように、本作の主演はフクロウ(ただし特殊造型w)である。森の影でじっと動かぬまま、人間のバカバカしい愚かな、でもちょっと愛すべき群像劇を見つめ続ける、そこには善悪を超越した、全てを包み込むような優しさ、懺悔する相手としてのフクロウがいる。

物語を表現するなら「ヤクザのおじさんと家出少女と、そしてフクロウ」もしくは「Don't trust over thirty~30歳を超えた奴ら、大人なんか信用するな」家出少女の口癖は、父親を失った喪失感から街を彷徨う少女の絶望を超えた、達観のような台詞であり、妻と息子を捨てたヤクザのおじさんときれいに重なり合っていく。

ヒロインの麻生みゅうは、主戦場がエクセスのこってこてのどピンク映画のイメージがあるから、国映作品で佐野和宏が作家主義的に撮った作品で主役を張るなんて、スゲエなあ。しかもフワフワした行き場のない家出少女感、良く出ていて「主役を張りたい」佐野和宏に一歩も引いてない。

エロ的には、やっぱり吉行由実でしょう。特異なキャラを上手く演じることが出来て、しかも煽情的な濡れ場も作れる、こんな女優、ドラえもん、僕にも欲しいよお、と全ての成人映画監督が言いそうな、一粒で二度美味しいまさにピンク映画女優、あまり便利に使って貰っても困るが、本作はジャストフィット。

登場する男は、佐野以外は、少女売春を期待するムッツリスケベおじさんの小林節彦も、佐野の舎弟でヘタレチンピラの白都翔一も、汗かきデブ不動産屋の神戸顕一も、言動だけでなく見た目もキモイ(笑)佐野を引き立たせるだけのためにあるかと言えば、不条理劇の味わいがある。

繰り返すが、主役はあくまでもフクロウなので(笑)いかに主役を張りたい佐野といってもフクロウからすれば単なる群像の中の一人。精一杯に駆けずり回って悩んで暴れて、最後は自爆する。因果応報と言えばそれまでだが、それだけではない「もがくこと、あがくこと、それこそが人生」

冒頭、脱獄して川を渡る佐野のイメージカットはまさに往年のピンク映画だが、場面展開してバーでヘタレななずの白都(ゲイポルノではいつもヘタレだからw)がこってこてにおミズの工藤翔子を言葉嬲りしながら「アソコ弄れ」「イけ、イッちゃえ」お前はTOJIROかよwと思うようなAVチックな演出。

白都は翔子にはガンガン上から目線で、「もう佐野の時代じゃねえ、俺がボスだ」と粋がってたくせに、佐野が店に来ると急にオドオド(笑)ヤクの売人として気合が入っていた佐野アニキに喧嘩じゃかなわねえ。言われた通り、すんなりと拳銃を渡した彼は、佐野がこの拳銃を何に使うか知っていた。

一方、スケベオヤジの小林に渋谷でナンパされ田舎で5万円デートするみゅう。金だけもらいヤラせずぼったくりのつもり(笑)「おしっこしてくる」しゃがんでムチムチのケツがスクリーン一杯に広がるカットはピンク映画的には白眉。そのままオナニーを開始して「おじさん、来て♡」小林にねだる。

小林も「よーし、おじさんヤッちゃうぞ」バックからガンガン犯し始めたところでハッと気が付く。小林は淫夢を見ていただけで(笑)みゅうに「もう帰る」と言われ「じゃあ、写真撮ろう」廃屋に連れ込んで抱き着いて犯そうとしたところで、草野球マンからユニフォームかっぱらった佐野がバットで威嚇、すたこらさっさとフェードアウトする小林w

佐野は一応「金、貰い損ねちゃっただろ、いくらだ?」みゅうは「10万円」と2倍に上乗せ(笑)佐野は拳銃を手に入れていたから「金位なんとかなるだろ」みゅうを買うことに決めたが、金は工面できず、もう夜も更けてしまった。仕方なく、拳銃で別荘の鍵を撃ち壊しwww当日の宿とする佐野。

シャワーを浴びるみゅうの裸身が思った以上に肉感的で素晴らしい。乳首も勃起してる。佐野は父親のようにリラックスして、キャンドルを立てて眠っている。みゅうは5年前に父親を亡くしていて、佐野に父親の姿を見た。みゅうが佐野の胸板で眠る姿に「ガキだな」おじさんと少女はすっかり、心打ち解けた。フクロウが優しく見守り、心地よい音楽が流れた。

この別荘の管理者である不動産屋のデブ神戸が、有閑マダムの吉行由実を物件案内に来る。この由実さんの造形が全くもってスバらしい(*‘∀‘)麦わら帽子にサングラス、ショールを羽織り、手には日傘、部屋に入ると扇子を仰ぎ、汗だくデブ神戸に「厚いわねえ、脱ぎなさいよ」「私も脱いでいいかしら」

気が付けば、ブラとパンティだけになって、神戸に股間をクン二させている由実様(笑)そんな情事を2階で息を潜めて見ていた佐野とみゅうは、神戸の運転してきた車をかっぱらって、佐野の妻の実家へと向かう。俺をサツに売ったあいつ、撃ち殺してやる!復讐を果たすつもりだった。

佐野は「これでホントのお終いだ」妻を撃とうとした瞬間、赤ん坊の泣き声がする。佐野はどうしても妻を撃ち殺せず、弾は宙を撃った。みゅうは車中で「奥さん、おじさんに家に帰って欲しかったんじゃないの?息子さんと一緒に幸せに暮らして欲しかったんじゃ?」佐野は「うるせえ、お前なんかに何が分かる」

佐野とみゅうが別荘に戻ると、デブ神戸が叫んだ「ドロボウ!」佐野は「ドロボウが車返しに来るかよw」と言いつつ「この女、借りるぞ」由実様を押し倒し、拳銃を突きつけて「俺は合意じゃないとセックスできないんだ。ヤッてくださいと言え」恐怖におののき「ヤッて、ください・・・」有閑マダム感が消えた由実様に萌えええwでも、フクロウは冷めた目で「お前、何やってんだ」じっと見てる。

佐野は由実にのしかかると、おっぱいを揉み、パンティの上から股間をガンガン弄り、そのまま挿入しようとした(←このレイプシーンが本作でエロ的には一番興奮w)ここで、みゅうが拳銃を構え「この人、嫌がってるじゃない!ガキと嫌がってる人とはデキないんじゃなかったの?」

みゅうは「Don't trust over thirty!」と叫びながら、夢中で佐野の胸を拳銃で撃ち抜いた。佐野は息も絶え絶えになりながら、佐野が倒れた途端に舞い戻って来たヘタレの神戸に「おい、デブ、金貸せ!」そのままみゅうに渡し、拳銃で空砲撃って「解散だ!解散!」これは佐野ピンクの終焉を意味するのだろうか、寂しくも目頭が熱くなる瞬間。

由実様も、デブ神戸も、みゅうも、みんな立ち去り、フクロウだけが息を潜めて見守る中、息を引き取る佐野。そして二年が経ち、みゅうは再び、この町を訪れた。そして母と息子の二人連れとすれ違う。「お父さんは?」「2年前に、あそこに行っちゃった」あどけない声で天を指さす息子。ここで、バタバタと飛んでくるフクロウ。また定点観測が始まったのだ。

みゅうは「私、2年前もここに来たのよ」その瞬間、去って行く母と息子の隣に佐野が手を繋いで3人仲良く歩いている家族の幻を見たみゅう。みゅうは母親と息子の姿を見送る。そして、森の影からフクロウが、あの夏のようにみゅうをじっと見守っていた。ふくろうの夏、日本の夏。

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