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いまおかしんじ「かえるのうた」

下北沢トリウッドで、いまおかしんじ「かえるのうた」 成人映画公開題「援助交際物語 したがるオンナたち」

下北沢の漫喫で些細なことで喧嘩した、漫画家志望の援交少女(平沢里菜子)と、かえるのぬいぐるみを抱えた少女(向夏)の友情。時は経ち、二人は別れ、数年後にシングルマザー夏の前にかえるの着ぐるみ着た漫画家の里菜子が現れ、二人は再会を喜び下北沢駅で「かえるのうた」を振り付きでダンス。淡々とした日常からドラマが生まれる、観ていて心から幸せになれる傑作。

成人映画館でも観たけれど、本作は下北沢トリウッドで時々開催される「下北沢ご当地映画特集」の中の一本として、ピンク映画であることはいったん忘れて、ときめき青春映画として観るのが一番しっくり来る。劇場への行き帰り、下北沢駅で下車し、下北沢南口商店街の風景とともに、今から15年前の援交少女の物語として映画を楽しみたい。

文句なしに大好きな作品で、何度観ても観終わった後に幸せな気持ちになる。感情を激しく揺さぶられるというよりも、ほんの小さな幸せをスクリーンの中にも、それを観ている自分自身の日常にも感じられる「こんな映画が観たいんだ」まさにお手本のような素晴らしい作品。

作品の内容を一言で表現するなら「あのさ、踊らない?かえるのうたで!」「いいよ!」

♪ 誰かの胸に~ へばりついた~あってえ ど根性~ あたしには、あるわ~ 空なんか、知らないよ~ ゲーロー 遠くなんて、見えないよ~ ゲーロー 跳んで、オナカ出して、かえるの娘が~ うっふん♡ うっふん♡ うっふん♡ ♪

映画の中盤で援交デビューした向夏(かえるの着ぐるみ着用)が平沢里菜子と、ラストで漫画家デビューしたまだバイト兼業の平沢里菜子(かえるの着ぐるみ着用)が向夏と、2回登場する振り付きの「かえるのうた」のいい意味でダウナーで明るい脱力感が本作のキモであるw

「かえるのうた」は一般公開時のタイトルだけど、脚本タイトルそのものだったのかなあ?一方、ピンク映画としての公開題が「援助交際物語 したがるオンナたち」で、こちらもドンピシャな良いタイトル。ピンク映画のタイトルには「おいおいw中身が全然違うぞ!」パターンが多いが、本作は違う。

援助交際をする恐らくレズ?の女の子が、下北沢の満喫でダメ男と別れられない意志薄弱な少女と出会い、二人が喧嘩したり援交したり(←おいおいw)しながら友情を深め合ってホンモノの親友になっていく、観てるだけでほっこりするハートウォーミングなストーリー。

でも、里菜子には「私は絶対、漫画家になる!」という大きな夢があり、夏には「私は子供を産んで可愛い服を着せてあげる」というささやかな夢がある。そして夏のかえる跳びジャンプを挟んで(笑)二人は夢を実現し再会、幸せに浸りながら「かえるのうた」を合唱する。

ステキなのは、向夏のコケティッシュな顔立ちがちょっとかえるに似ているのと、平沢里菜子がかえるの着ぐるみを着た姿がとてもキュートなことである(笑)二人をベストフレンドに見立てたレズビアン映画と無理やり解釈する必要は無いw濡れ場より映画重視の一般作品だ。

本作は全編、下北沢でロケしていて、空気感はサブカル、漫画家を目指し食うために援交する離人症っぽい里菜子も、憧れの服を作れるようになろうと縫製工場でバイトする依存症が激しい夏も、田舎ではありえない、大都会の中でフワフワと浮遊する現実離れした存在。

主に登場するのが下北沢南口商店街で、私はこの街に地理勘はほとんどないが、トリウッドに映画を見に行くとき、いつも通る道であろうか?だとすると、本作が制作された約15年前とほとんど変わっていない。「かえるのうた」を踊るマックのある下北沢駅前の広場を除けば。

満喫も、新宿や渋谷にあるような満喫ではなく、喫茶店に漫画が一杯置いてあって、自由に読みながら飲食をダラダラする、いかにも学生街にある喫茶店、私が80年代に学生時代を送った大阪にもこの手の漫画喫茶店はあった。いわゆる「満喫」とはちょっと違う昭和なタイプ。

夏が無我夢中で読んでいるのが、小山ゆうの名作「がんばれ元気」www20歳前後の若い娘が読むマンガじゃ無くない?と思うも、少女漫画を愛好する男子もいるし、漫画に性別持ち込むのもヘン。ただ、夏が「がんばれ元気」好きなのは、里菜子が愛読してるのと全く違う理由。

里菜子は漫画描くのが大好きで、上手くなりたくて、その一環で「がんばれ元気」読んでる。でも夏は、彼氏(吉岡睦雄)に浮気された腹いせに、自棄読書で「がんばれ元気」www彼女にとってのがんばれ元気とは何なのか?勇気を奮い起こして元気を出して、現実と戦いながらささやかな夢を見る少女。

里菜子は友達もおらず、親とも縁を切って、孤独に漫画家修行をしてきた、夏はDV吉岡に精神依存してたけど浮気されて自暴自棄、八方塞がりのダメな少女二人が援交という踏み絵を踏んで友情を確かめ合い、精神的に結びつくが、夏は子供欲しさにDV吉岡と一度はヨリを戻してしまう話。

いまおか監督は大阪出身だったっけ?私は静岡出身で、「下北沢」という地名に、いかにも東京でしか味わえないような演劇、サブカルのメッカ的なイメージで、里菜子も夏もまさに「文科系サブカル女子」里菜子が島根の田舎から上京したという設定からも「田舎から見た都会」がある。

渋谷でも新宿でもない、下北沢ですよ!例えば大阪なら難波とか、名古屋なら栄とか、新宿や渋谷っぽい繁華街は他の街にもあるけど、下北沢はあり得ない。マスメディア、小説、映画などの文系文化は東京に一極集中、田舎者の憧れ、サブカルの象徴のような街が下北沢だ。

私は、大学進学で静岡から大阪に出て、就職して初めて上京した。その時に友人と下北沢を訪れた感想「へえ、ここが、あの、下北沢かあ」どこがどう下北沢という訳ではないが、なんとなくサブカルっぽいという適当なイメージ、それが「下北沢」という固有名詞なのだw

この作品を観て、観客が幸せな気分に浸れるのは当然、ダブルヒロインの里菜子と夏がともに別々になりながらささやかな幸せを掴むからであり、物語は二人の出会いから、喧嘩、友情、試練など、まさに「がんばれ元気」的に二人が成長していく、それを見守るような映画。

私は、いまおか作品を観るといつも思うのだが、独特の「いまおかリズム」がある。イズムではない、リズムだ(笑)人を喰ったような、テンポをわざとズラしたような、いや、わざとじゃないかもしれない、生まれ持って凡人とは違う独特のリズム感を持つ天才なのだろうw

例えれば、ホームランバッターが「カキーン!」とジャストミートして高々と舞い上がったボールの軌道のようなもの。前半部分で舞い上がったボールがグングン高くまで行き、やがて青空にスポッと吸い込まれ、また軌道がはっきりと見えて、外野スタンドに飛び込む感じw

決して物語の結末が予測不可能な訳では無く、それよりもむしろ、途中の物語がグングン盛り上がる所で一瞬、観客が「( ゚Д゚あれ?」とボールを見失うけど、実はその軌道はまっすぐに当たっていて、それがラストに結びついて、堰を切ったような感動に繋がって行く。

だから(←だから、じゃねーよw)いまおか作品は、簡単に予測できるようなストーリーテリングではなく「俺、ひょっとして狸に化かされたのかも?」と思う位。観客を煙に巻くのがちょうどいい。城定秀夫や後藤大輔みたいにタネをせっせと巻いて回収するタイプじゃない。

いまおかさんのホンは、軸がしっかりしていて、起承転結も面白いのだが、自身が演出することによって、奇想天外な遊びが入ったり、フワフワと浮遊する地に付かない感じ(←これを私はホームランボールに例えてみた)それがあってこそいまおか作品で、彼の個性と思うのだ。

本作のテーマはズバリ「援交する処女のルポ」だと思う(←もったいぶって言うほどのことかよw)ピンク映画で取材記者やレポーターが援交少女をインタビューしながら歩くフェイクドキュメントはあるが、本作は里菜子と夏、二人の援交少女の日常を妄想して作り上げた話。

深夜の下北沢の漫画喫茶で、二人の少女が喧嘩している。しかも、喧嘩の理由は「がんばれ元気」の第三巻の取り合いという「そんなことで喧嘩するか?」というバカげたもの、これを中年男性がじっと見つめながら「この二人の少女、普段はどんな生活を送ってるんだろう?」

里菜子は島根から単身上京し、漫画家を目指して最初は喫茶店やコンビニでバイトしていたが、周囲は敵ばかり、気楽なのは自宅に男を上げて援交しながら生活費を稼ぐ。昼に寝て夜になると漫画喫茶で漫画を読み、家に帰って性癖のレズ漫画を描きながらダラダラ過ごしてる。

夏には彼氏の吉岡がいて、喧嘩ばかりしてる。早くお母さんになって子供に可愛い服を着せてみたいと縫製工場でバイトする彼女は、かえるが大好きで、部屋中にかえるのぬいぐるみ、外出する時も肌身離さず、甘えん坊で情緒不安定。夏を持て余した吉岡は、他の女と浮気に逃げた。

明るい未来が見えないまま、「がんばれ元気」の取り合いと言うしょーもないことで喧嘩した二人は、手を繋いで歩いてみる。夏には友情、里菜子には愛情の証だった。二人はその日は別れ朝帰り。案の定、夏の彼氏吉岡はまた浮気相手を家に連れ込み、夏は絶望感に浸った。

夏のバイトする縫製工場に、彼氏の浮気相手がお詫びのフランスパン(笑)を持ってくるが、拒否った夏とフランスパンチャンバラを始めたwww夏は里菜子の部屋を訪問、まるで男の子みたいな殺風景な部屋に驚く。里菜子は自分だけの漫画部屋に侵入されるのはイヤな気分。

夏は里菜子の部屋に転がり込みたくて、3P援交(相手は佐藤宏?)を承諾するが、いざとなると全裸でおっぱいをチューチュー吸われる里菜子をよそに、風呂場でじっと体育座り。夏を見切って、騎乗位でガンガン悶える里菜子の美乳で微乳は最高にエロ美しく、私はガン見!

里菜子の部屋には、かえるの着ぐるみがあった。彼女はリサイクルショップで呼び込みのバイトをしていた。ラブホで援交中の里菜子の部屋に勝手に上がり込み、帰りを待ってかえるの着ぐるみを着て待つ夏。吉岡の家を出て里菜子と同居したい夏に、里菜子が出した悪魔の条件は「ここで援交してみろよ!」

里菜子は気合の入った援交女子で(笑)覆面被った伊藤猛と川瀬陽太にボールギャグ噛まされスリッパでペンペンされながら悶える、実はど変態(*'▽')どこでも誰とでも、プロフェッショナルに春を売る里菜子から見れば、子供っぽい夏に「お前、できるかい?」これは踏み絵。

里菜子の部屋で、意を決して客の男に抱かれる夏は、ピッチピチのジーンズでケツがデカくてなかなか脱げず、おっぱいもデカいがイケてない、なんだかホントにイケない援交見てるみたいで興奮する(←こらこらw)夏は無事に踏み絵を踏み、魔女の様な里菜子に褒められたw

かんぱーい!二人で援交しまくってマンション買って一緒に住もうよ!ノリノリの里菜子に、おずおずとかえるの着ぐるみきた夏も促され振り付きで「かえるのうた」合唱。夏は里菜子の机の上に置かれた漫画原稿で女子同士がキスしている画を見て「そっか、そうだったのか」と思った。

夏には子供に可愛い服を着せてあげたい夢、里菜子には漫画家になる夢、それぞれが夢を熱く語り合った。「でも、私たちじゃ、子供出来ないわよね」夏は意を決して自分の住処を作る決意、援交相手に「抱かないけど殴っていいよ」6万円もの大金を受け取るが、これは下北沢で一人暮らしするのに必要なお金。

客のDV男の残虐非道さは、夏のDV彼氏吉岡の比ではなく「手加減するから」の後にボディブローがズドーン!(←がんばれ元気かよw)顔じゅう傷だらけで縫製工場で働く夏は、ようやく自分だけの住処を得て、ここに彼氏が「お前、どこに行ってたんだよ」ようやく夏を探し当てた。

乙女チックな夏は、浮気癖のある暴力的な吉岡に「私のこと、探しに来てくれたのね!」思わず胸に飛び込み、そのまま仰向け吉岡の上に跨り、プリケツ突き出してディープキスする姿は、子供っぽい夏ではなく、すっかりエロい大人の女性であった。振り出しに戻ったのだ。

そんなある日、里菜子が倒れた。子宮を摘出する大手術、縁を切ってた親が上京、島根に帰れと言った。夏は子宮が無い里菜子にはもう子供は出来ないのね!センチメンタルな気分になって彼氏の前でオイオイ泣いた。夏は吉岡とヨリを戻し、里菜子は島根に戻ることになった。

京王井の頭線4番ホーム、渋谷行きの電車が入線し、ホームに立つ夏は、島根に帰る里菜子を見送った。夏の「あんたの漫画、面白いと思う。島根でも漫画は描けるでしょ」の言葉に「あんたバカだったけど、一緒にいて楽しかった」ドアが閉まり、里菜子は夏と永遠のお別れ。

夏は、背中にかえるのぬいぐるみを背負い、かえる跳びしながら家に戻った。そしてドアを開けると数年後、夏には二人の息子がいる。家中にかえるのぬいぐるみが所狭しと置いてある。夏は二人の息子を連れて散歩に出て、下北沢駅前のマックでハンバーガーを買った。

夏が息子たちとハンバーガーを食べていると、ヌッとかえるの着ぐるみが登場!中の人は何と、里菜子だった。何気なく「久しぶり!」「え、帰って来たの?」里菜子は漫画家としてデビューし、夏はその漫画を手に持っていた。そして里菜子は今、再び下北沢に住んでいる。

漫画家だけではまだ食えない里菜子は、近所のリサイクルショップの呼び込みのバイトで、かえるの着ぐるみを着ていた。「へえ、息子さんいるんだ!名前、何て言うの?」「元気と勇気」「何、それw」と笑う二人は、もうすっかり別々の人生を歩き始め、互いの幸せを確認した。夏は吉岡と別れ、一人で息子二人を育てていた。

里菜子と夏が幸せを感じたら、もうこれしかないでしょ!「かえるのうた」下北沢駅前で全出演者が集って踊る「かえるのうた」シングルマザーの夏は洋服で、里菜子はバイト中なのでwかえるの着ぐるみを着て、振り付きでノリノリで歌う「かえるのうた」でみんなハッピー!

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