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佐藤寿保「THE FETIST 熱い吐息」

光音座で、佐藤寿保「THE FETIST 熱い吐息」 脚本は井土紀州。

街を全速力で駆ける通り魔少年の和也(荒木裕一)の姿に心打たれたシスコンで画家の卵の徹(根本義久)が、和也をモデルに画の創作意欲を湧かすが、徹のパトロン画商(田中要次)が嫉妬からレイプ。盗聴マニアの男(正岡邦夫)が一部始終を知り殺人犯の和也に刃を向けた。都会の名もなき隣人の狂気の連鎖を描いた問題作。

サイコサスペンスとしては傑作と言える。M女を姉に持つ通り魔少年の和也。現場から逃げ去る彼の姿に一目惚れしモデルになってもらう画家の徹。姉夫婦の寝室や通り魔現場を盗聴するマニア。画家が少年に愛を告白し二人で逃げようとしたとき盗聴マニアが襲い掛かる!

画家のパトロン役に田中要次、通り魔現場からのレポーターに吉行由実、通り魔少年のM女姉に工藤翔子、その変態夫に伊藤猛、とキャストが充実。一方で通り魔少年、画家、盗聴マニアはいずれも無名の美少年、美青年が演じ、作品にリアリティと緊張感を醸し出す。

寿保監督のピンク映画後期作品の例に漏れず、観ていてなんだか非常に難解な印象を持ちつつも、世界観のようなものが出来上がっていて、ゲイのためなら、いや、芸のためなら男も泣かす~雰囲気を楽しめば物語世界に入って行くことはできる。無理に話の持つ意味を求めなければ。

タイトルにある「FETIST」ってどういう意味なんだろう?フェティシズムとかフェティッシュと呼ばれる、盲目的な狂信に端を発して、性欲とは無関係に性的興奮を得られるある物体に対する異常な欲望、下着とかSMとかに対する偏執的な執着をフェチストって呼ぶのかなあ?

この作品に登場する若者たちは一体何に対してフェチストなのか良く分かり辛いんだけど、和也と徹、二人のイケメン男子が方や姉に対する憧憬とSMマニアの義兄に責められる姿への幻滅から通り魔殺人に走り、方やそんな彼の姿を画に描きたいと欲望するのだ。

正直言って、和也と徹のどっちが根本君でどっちが荒木君なのか分からないのだがwこの作品は画家の卵の目線から描かれるので、主人公の根本義久が徹、彼がモデルに描きたい殺人鬼を荒木裕一と和也と仮定した(いい加減だなあ、おいw)でも第三者、これは特定出来るのだが、正岡邦夫こそがキーマン。

正岡は重度の盗聴マニアで、彼こそが正真正銘のフェチストである(笑)マイクを片手に都会の様々な雑音を拾って歩くヒロインは、ピンク映画では森村あすかを始め複数の映画で登場したのだが、ゲイポルノでは恐らく本作が唯一ではないかな?寿保作品の定番中の定番なんだけど。

ザックリ言えば、和也が通り魔殺人を犯した現場を音を拾って盗聴してしまった正岡が正気を失ってしまい、刃物を振りかざして世直しのために和也を襲ったらそれが徹で、助けようとした和也も刺され薄れ行く意識の中で徹と和也と結ばれる、そんなファンタジー。

和也&徹&正岡のトライアングルだけではイマイチ弱い。そこで投入するのがパトロンのバボさん田中要次と、変態夫婦の伊藤猛&工藤翔子ですよ!バボさんは嫉妬に狂って和也を睡眠薬で眠らせ強姦し、破滅への序章を繋ぐのだが、伊藤&翔子夫婦のインパクトの方がもっとスゲエ!

これはホントにゲイポルノなのか?全身にレザーの拘束具をハメられおっぱいだけ剥き出し、鞭で伊藤にバンバン叩かれ喜悦の声を上げる翔子はガチマゾ。そんな姉の姿を歯を食いしばって我慢するしかない和也は、義兄への歪んだ憎しみが凶行へと走らせ最期は惨事を招く。

寿保作品を観ていていつも気になるのだが、ガスマスクフェチだよね(笑)本作でも翔子が顔面に装着されるマスクは強制的に口を開かせて涎がダラダラと出る仕様。伊藤は「顔じゅうを涎でグショグショに汚しやがって!」と言いながら翔子をきつく折檻するんだよね。

伊藤猛と工藤翔子のSMプレイのシーンだけを切り取ってみれば、本作はゲイポルノじゃなくてSMポルノだろ!とツッコミたくもなりますが、これは和也が凶行に走る元凶としては機能するけど、メインプロットに作用していると思えない。完全に寿保監督の趣味の世界だよなあw

盗聴魔の正岡が物語の節目節目に10回ほど(←多いよw)登場するんだけど、彼が耳にするSMプレイとか通り魔殺人現場とか刺激が強すぎて、目の前の都会の情景とかホワイトアウトして死後の世界のようになっちゃう。彼が最終的に通り魔征伐に出るのも必然の結末。

冒頭、和也が都会の死角になっている人気のないトンネルを全力ダッシュして、酔いつぶれて路上に寝てた徹がそれをボーと見つめ、路上観察盗聴者の正岡がマイクに音を拾う。これで三役揃い踏みだ。全く赤の他人だった3人がどのようにして結びついていくのか?が話のキモ。

和也は最愛のお姉さん翔子と同居しているのだが、彼女は既婚者で夫の伊藤は変態サディスト。SMプレイでアンアン感じる姉の痴態を見るにつけ、義兄の伊藤に対して殺意がメラメラと燃える和也はそれを直にぶつけることができず、ナイフを持って夜の町へと駆け出す。

一方の徹は、パトロンのバボさんに「あなた、画に集中できてないんじゃない?」小言ついでに抱かれる。徹が画に集中できない理由、それは偶然見かけた和也の走る姿が美しすぎて、どうにかして彼に画のモデルを引き受けて欲しい。そうすれば俺はもっと素晴らしい画が描けるはず。

和也が深夜の路上でか弱い女性ばかりをナイフで狙った凶行はマスコミにも報道されることになり、吉行由実も被害に遭う(クレジットの八巻由美は変名と思うが、これひょっとして本名?)工藤翔子のSMプレイシーンは存分に拝めるものの、さすがに吉行由実は脱がずに惨殺されたw

意を決した徹は、由実殺しの後ダッシュしていた和也を通せんぼ。「画のモデルになってくれないか?」最初は怪訝な顔をして拒否していた和也だったが、和也の持っていたナイフを手で握りしめ、ああ、これは画家の命じゃないか、右手からダラダラと出血している姿に和也は本気を感じ、モデルを引き受けることに決めた。

アトリエに上がり、徹にポーズを付けられる和也。それは左手を腰の後ろに回し、右手で髪をかき上げる、どうみても女性ヌードモデルのポージングそのもの。そして、徹がせっせとデッサンしている女性の全裸ヌード。徹はこれを、セクシーな和也モデルの魔力を画に描くことで完成させようとした。

徹に冷たくされ始めたパトロンバボさんは、アトリエで和也とばったり「そうか、そういうことだったのか」和也を睡眠薬で眠らせバックから犯し、それを帰宅後に発見した徹は気が動転、バボさん死ぬんじゃね?と思う位にグーパンチで殴りつけ、もう和也愛はマックスの絶頂に!

徹は和也が持っていたナイフをダメにしてしまったので、新しいサバイバルナイフを和也にプレゼントした。バボさんに犯されたショックから( ゚Д゚)と目覚めた和也は、無意識のうちにサバイバルナイフを手に自宅に駆け戻り、SMプレイ真っ最中の翔子と伊藤を何度ナイフでグサリ、刺殺して二人とも絶命した。

和也は変態姉と義兄の精神的束縛から解放され、徹はパトロンバボさんの心理的重圧から解放され、二人仲良く街を出るつもりであった「一緒に逃げよう!」和也はお約束のように全力ダッシュ姿を徹に見せ、それを見つめていた徹の横に怪しい影、正岡だ、正岡が来るぞ、ナイフを手に!

深夜の殺人鬼・和也の手による吉行由実刺殺事件の絶叫音を拾ってしまい正気を失っていた正岡は、正義の刃を和也ではなく勘違いした徹の方に向けてしまいグサリ。そして助けようとした和也も結局グサリw薄れゆく意識の中で、画のモデルを通じてプラトニックに愛し合う関係になっていた和也と徹は、全裸で肉体を貪り合った。

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