見出し画像

田尻裕司「ラブジュース」

上野オークラで、田尻裕司「ラブジュース」(成人映画公開題「OLの愛汁 ラブジュース」) 脚本は武田浩介。

由美香は私に向かって叫んだ「あづみ、あんたばっかり、何でついてるのよ!」そんなことないよ。私がついてる訳なんか無い。電車で知り合った美大生の彼は「ずっと一緒にいたい」って言ってくれたけど、彼だって明日になれば、私にきっと別のことを言うに決まってるし。でも、彼と別れてみて、それから電車に乗ってみて、やっぱり思ったんだ。私って多分、ついてる。

28歳の微妙なお年頃のOL(久保田あづみ)が、終電で肩寄せて居眠りしてきた20歳イケメン美大生(佐藤幹雄)と、乗り過ごした終着駅で知り合ってそれから同棲、まだ若い彼と、あづみの心は急速に接近するが、やがて離れていき、彼女は電車の中で年上の男性(いまおかしんじ)に今度は自分から肩寄せて、もう一度彼との夢を見た。でも、終着駅はいつの間にか延びていた。28歳にして、なお少女のように揺れる乙女心をデリケートに描き切った傑作。

登場人物は、ヒロインで28歳OLを演じる久保田あづみ、彼女の存在がこの映画のほぼ全てと言っていい。地味顔で、どこにでもいそうな「隣のお姉さん」(八神康子じゃないよw)彼女が、同世代の彼氏と別れ、世代が一回り近く若い、彼氏なのかどうかすら分からない、曖昧な関係の青年に心惹かれ、でも最後はやっぱり彼女は歳上の男性と一緒にいたい。

共演する女優は林由美香一人だけ。ピンク映画の傑作に多く登場した由美香が、この作品では究極の無駄遣いに一旦は思えるも、彼女はあづみと対極をなす「もう一人のヒロイン」として、非常に有効に作用する。8歳年下の男の子とイチャイチャするあづみと、妻子持ちの年上の男性と不倫する由美香は、正反対の恋愛を並行して楽しみ、揃って失恋する。

由美香にとってあづみは、常に「運のいい女」だった。私は不倫相手の男性に捨てられたのに、あんたは年下の彼氏とイチャイチャして、そんなの不公平じゃん!由美香は不倫相手に失恋した日、彼女を慰めるあづみに酔って涙目で吠えた「失恋しそうもない奴にそんなこと言われてもな。でもうれしい。ありがとう」ここで私の涙腺は決壊。

あづみの世界観で全てが回る物語は、非常にナイーブで、かつロマンチックだ。そして、28歳という年齢から来る「自虐」それが8歳年下の彼氏との同棲によって、微妙にナルシスティックに変容し、最後はそれすら空っぽになる。彼女は憑き物が一つ取れたが、その憑き物こそ本当は彼女に必要なものだったんじゃないか?まるで山手線のようにグルグル回り続ける内省的な物語。

あづみが知り合う8歳年下の美大生・佐藤は、会社で退屈なOL生活を続けてきたあづみには、ひたすら眩しい存在に映り続ける。映像業界で活躍したいと夢を見るクラスメートのこと、本格的な機材を揃えてビデオクリエーターになりたい佐藤自身のこと。大学生ならではの自由恋愛に惚れた腫れたする、青春真っただ中の眩しい若者たち。

あづみは、6年も付き合った彼氏と別れて初めて、失われた6年間を思った。佐藤との出会いはタイムマシーンだった。でも、違う世界に住む佐藤は、すぐにでも私から離れて別世界に戻ってしまうはずだったのに、なぜか意気投合して同棲してしまう。私ってついてるのかな?二人がベタベタ、イチャイチャする空間は桃色に染まって、あづみは佐藤という若者によって官能を蘇らせた。

あづみの一人語りのような物語は、終電、終着駅に例えられる。恋愛の、人生の終わりって何だろう?恋することも、セックスすることも、永遠に出来るわけではない。女性にとって結婚は幸福の始まりなのか?お終いなのか?それすら、未婚のあづみには、まだ分かっていない。分かっていないからこそ、苦しくて楽しい。不安で一杯だけど、まだ冒険できる。そう、彼女はまだ次の世界に飛び込める可能性を持っている。

物語は、6年間も付き合った彼氏に、新しい彼女を紹介された挙句に別れを告げられて絶望的なヒロインあづみが、中央線の高尾行き(映画では北尾行き)24時20分の最終電車に乗り、最初は満員電車で立っていたけど、空いて来て座ったら疲れていたのと酔いのせいで眠り込んでしまい、気が付けば隣で熟睡しているイケメンの佐藤幹雄に肩を寄りかかられ、自宅があるはずの駅をそのまま通り過ぎてしまい、終着の北尾駅で、佐藤と二人きりになってしまう、そんな劇的な状況から始まる。

あづみが北尾駅で降りて「どうしたらいいのか?」途方に暮れていると、さっき電車で肩寄せ眠り込んでいた佐藤から声をかけてきた「国道まで出ないとタクシー無いですよ」あづみは、刹那的に思った「今日はもう、脂っこい食事なんかしたくない。それに、一人じゃ寂しい」あづみは佐藤とラブホに入り、一発ヤッた。佐藤は「明日また、会おうよ」と言ってくれた。二人は始発電車でそれぞれの家に帰った。

あづみは由美香から電話を受ける。優しい元カレは、失恋して傷心のあづみを慰めてもらおうと、由美香に頼んだのだ。それって、優しさと言わない。でも「ついてる」はずのあづみは、これを優しさと思わざるを得ない。でも、あづみは会わない。もう新カレ候補の佐藤と会えるのだから。自宅に来てくれるのだ。

あづみは28歳だが、佐藤はまだ20歳。あづみは年上であることを気にするが、若い佐藤は気にも留めない。佐藤はカメラを趣味にしていて、美大生らしく、なんでも被写体にして撮りまくっていた。佐藤はあづみのポートレート写真も撮る。佐藤はあづみのことが気になり始め、あづみも佐藤に心惹かれ始めていた。あづみは佐藤に写真を撮られることが恥ずかしかった。佐藤はいつしか、あづみの部屋に通い同棲を始めた。

あづみは由美香と会い、デパートで一緒に買い物。由美香はあづみに8歳も年下の彼が出来たことに「あんた、やっぱり、ついてるわあ」と、びっくりした。でも、夜遅くあづみが帰宅すると、同棲中の佐藤は不在だった。佐藤は「友達と、その彼女と一緒に飲むことになっちゃって」用意した二人分の夕食を目の前にため息をつくあづみ。やっぱり、大学生の佐藤君は、私の住む世界とは違うんだわ。その頃、由美香は不倫中の男と、自宅で対面座位でFUCKし、絶頂に喘いでいた。

あづみは泣き疲れて眠ってしまい、気が付けば朝だった。チャイムが鳴り「こんな時間に誰?」始発電車で佐藤が来たのだ。佐藤は「やっぱり、あづみのことが気になっちゃって」あづみはあまりの嬉しさに、思わず佐藤に抱き着いた。あづみと佐藤はベッドで激しく燃えた。あづみは佐藤がイキそうになると、泣き顔になるのが凄く可愛くて、仕方なかった「中に出してもいいよ♡」でも、佐藤は胸に射精した「やっぱ、怖え」

あづみと佐藤は同棲を始めたが、二人の価値観は全く違った。あづみにとって、佐藤が楽しそうに語る、写真とか大学とか友人とか、全てが遠いことのように感じた。佐藤はあづみとの恋愛そのものにも、どこか冷めたところがあった。若い佐藤にとって、年上のあづみはセックスの経験が豊富でテクも抜群で、ワンワンスタイルになった佐藤のアナルを舐めながらチンコをしごき、泣き顔射精を楽しむ。そんな「隣のお姉さん」的な存在であった。でもあづみは、それ以上の関係を望んでいた。

あづみにとって最大の恐怖は、佐藤の口癖「俺は、人間関係のリセットボタンを持ってるんだ」あづみにとって、佐藤との関係は、今度こそ、もうやり直しがきかない、最後の恋愛かも知れない。でも、若い佐藤にはそんなことは、露ほども理解できない。佐藤は通い同棲の関係にありながら、あづみの「同棲しよう」という申し出は、やんわりと拒否した。

佐藤はあづみの部屋のCDラックを眺めながら「まさか長渕なんて聴いてないよね」CDラックの中には長渕剛「JEEP」も入っていた。それは元カレから借りたままのCD。あづみは元カレを呼び出し、「JEEP」のCDを返した。そして新しい彼女との近況を聞いた。もう別れたという。「三ヶ月以上もった相手はいない」そんな相手と、元カレは付き合っていたのだ。

あづみは佐藤のことを黙ったまま、ホテルに入り元カレに抱かれた。でも、頭の中は佐藤のことで一杯だった「早く家に帰って、彼のことを抱きしめなくちゃ」急ぎ帰宅し、あづみは佐藤とセックス。コトが済み「私にも佐藤君のこと、撮らせてよ」でも、佐藤は拒否した。佐藤があづみを写真に撮っているのは、思い出作りでは無かった。被写体が欲しいだけだった。

あづみは佐藤の股間に顔を埋め、フェラした。その途中で電話が鳴った。あづみは思う「私と彼とは8つも年が違うんだ」佐藤は年上のあづみに甘え始める「もう大学なんか行きたくねえ」あづみは、このままじゃいけないと思いながらも「私も、会社を休むよ」二人は風呂に入り、身体を念入りに洗いっこ。これから一日中、セックスするのだ。

あづみは正常位で抱かれながら、佐藤が「ずっと、あづみと一緒にいたい」という甘い囁きを聞いた。でも、あづみは「ずっとなんて、おかしいよ。だって今、私たちは一緒にいるじゃない」なんとなく、佐藤とあづみの間には、距離ができ始めていた。

あづみは由美香に呼び出され、一緒に居酒屋で飲んだ。由美香は不倫相手と別れた。彼女は、ちゃんと12時には帰る彼を見送り続けるうち、どうしようもなく寂しくなり、別れることに決めた。あづみは「私も失恋したら、話聞いてもらうから」と答えたが、由美香にとって、慰めでもなんでも無かった。由美香はあづみに向かって、涙目で叫んだ。「失恋しそうもない奴に、そんなこと言われてもな。でもうれしい。ありがとう」

あづみは由美香と別れ、北尾駅に着いた。改札の前で、佐藤が座り込んで、ずっとあづみのことを待ち続けていた。佐藤はあづみを見つけると「チッス。遅かったね」と軽く声をかけた。「飲んでたの?」あづみは「友達と。女とだよ」あづみにとって「女と」は特別に重要なことだった。でも佐藤は「どっちでもいいよ」と受け流した。

あづみは、そんな佐藤に急に苛立ち、階段から突き落としてしまった。その晩、二人は「ずっと好きだよ」と言い、濃厚にFUCKした。それが佐藤の、別れの挨拶だった。朝起きると、もう佐藤はあづみの部屋にいなかった。そして、二度とあづみの部屋を訪れることはなかった。一度だけ、北海道から電話がかかってきた。もう、二人は男女の関係ではなくなっていた。

季節が変わり、あづみは佐藤が撮った自分の写真を、ごみ袋に入れて捨てた。北尾駅行の電車に乗って、読書していたあづみはふと居眠りしてしまった。夢の中で佐藤とツーショット写真を撮りながら「思い出が出来たね」と話し合う二人は、あづみにとっての幻であった。

北尾駅行の電車は、終点の北尾駅が近づいていた。あづみは目を閉じたまま、隣の年上の男性(いまおかしんじ)に肩を寄せ、眠っていた。電車が止まり「北尾、北尾です」のアナウンス。乗客は降りていくが、隣のいまおかさんは、降りない。電車は再び動き出した。あづみは、いまおかさんに気づかれぬよう、薄目を開けて車内表示板を読む。北尾駅から一駅、路線は延長されていた。

あづみは「なんだ、終点が延びてたんだ」安心して、再びじっと目を閉じて、いまおかさんの肩にもたれ、ゆっくりと眠った。あづみは思う「私って多分、ついてるんだ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?