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瀬々敬久「わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です」

新宿ケイズシネマで、瀬々敬久「わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です」(成人映画公開題「禁男の園 ザ・制服レズ」)

高校を中退し、爆弾を作るテロリスト(伊藤猛)と同棲し始めた教え子(蒲田市子)を探し、上京したレズ教師(岸加奈子)は、自らの性癖を指摘され愛する市子と結ばれるが、ここに電車爆破事件が発生。正義感に燃える市子を加奈子は助け出そうとするが、口論になり、革命のためだった赤いパラソルで刺殺。最後は球形タンクが大爆破、死の甘い香りが漂う、レズビアンピンクの傑作。

母校の教師となった加奈子は、高校時代に仲間と自主映画を作っていたが、ここで革命のシンボル的に登場する赤いパラソル。加奈子はそのパラソルを今も持っていたが、レズの間柄となる教え子の市子が無差別テロに向かって一直線に燃えるのを止めようと、この赤いパラソルで刺殺してしまう。原色のロマンチシズムが、濃厚レズプレイごと、胸を高鳴らせ、心に染みる。

ところで(←ところで、じゃねーよw)ピンク映画としてのテーマは「女教師と女子高生のレズプレイ」「女子高生同士のレズプレイ」であり、女教師役の岸加奈子は女生徒の蒲田市子とも林由美香ともレズるし、蒲田市子は林由美香ともレズる。全てのレズプレイが濃厚で、甘い香り漂うフェロモンに包まれる。

本作の原題は、「わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です」物凄く長い(笑)タイトルで、宮澤賢治「春と修羅」の冒頭一文の引用。「春と修羅」は賢治の生前に唯一刊行された詩集で、岩手花巻の田舎で農民生活に根差した彼の作家活動は、没後に初めて、一躍有名になった。

宮沢賢治を彷彿とさせるモチーフは、映画の中に様々な形で登場する。冒頭の田舎の教室と都会のボロアパートで、切れかかってチカチカする電球。壊れて放置したままの扇風機。爆弾を仕込むためのマトリョーシカ人形。飛び降り自殺にも、人を刺殺するにも使える赤いパラソル。

映画の裏モチーフとなっているのは、瀬々監督自身が「春の修羅」との結合を目指したという「東アジア反日武装戦線」私が小学生の時の「三菱重工爆破事件」は今でも強烈な印象が残っている大事件。マスコミは極左を一般市民にとって「怖い」存在として過度に印象操作したと思う。

革命のための政治闘争は必要だが、これは広く大衆の支持を得なければならない。農民や貧困層のためのテロリズムが、逆に罪もない人々を死に至らしめ世間から激しい憎悪の目で見られる。そして地下深く潜り過激にセクト化する、これが左派にとって最悪のシナリオ。

瀬々監督の「宮沢賢治と無差別爆破テロを結合しようとする試み」を、私は「思春期のロマンチックなヒロイズムが白日夢のように過激な行動を引き起こす、若さゆえの過ち」と理解する。もっとも価値観が多様化しつつある現在、このようなヒロイズムはもう絶滅危惧種なのか。

人知れず無差別爆破事件の主犯となる、高校中退の市子は、女も男も愛せるバイセクシュアルであり、市子が心配で何とか救おうとする教師の加奈子はレズビアンである。市子には伊藤猛という爆弾作りのプロである恋人もいて、市子と加奈子と猛は、男女歳の差を超えた三角関係になる。

映画の冒頭で、加奈子が教え子の市子と由美香に見せる「高校時代に撮った」という自主映画。ひ弱な眼鏡男子が不良複数人にボコられ、それを眼鏡女子が見つめている。眼鏡男子は赤いパラソルをさして屋上から落下した。自殺?それとも彼は別の世界にトリップしたのか?

加奈子が何気なく二人に見せたはずの自主映画には、実は加奈子自身が気づいていないデリケートな表現が混じっていて「弱い者、虐げられる者を救うため、行動を起こさなければならない」若い市子はこの自主映画に感化され自分なりの答えとして「アナーキズム闘争」を選択。

90年代の作品だから、時代は既に「オウム真理教」70年代までに「安保闘争」「べ平連」はすっかり終わりを告げ、私の記憶には野坂昭如の「安保、安保でアンポンタン」という自虐的なコピーが頭に残っている。私の学生時代、政治運動する集団は既に完全にセクト化していた。

都会の大学に出てみれば「赤ヘル」とか「黒ヘル」とか、彼らが一体何者なのかは一目瞭然だったのだか、田舎は情報が少ない。宮沢賢治のような農民生活に根差した知的詩人の一節に感化されれば「私がラディカルに世の中を変えてやる!」と熱にうなされることもある。

さて(←さて、じゃねーよw)ここまで書いて「これ、全然ピンク映画の感想じゃねーよ」と自己反省。やっぱりここは、ロマンポルノ的視点で書かなきゃダメだ(←初めからそうしろよw)瀬々監督の作品にしては濡れ場も多く濃厚で、普通に「ピンク映画」してます!

ロマンポルノ的視点を以てしても、やはりこだわりたいのは「死の香り」である。スクリーンに映る画は明暗が美しく時にエロチックだが終始、主人公の市子も加奈子も「そんなに遠くない死に向かって生きている」やるせなさ、絶望感が映画の世界観を支配し続ける。

死のモチーフとして、最初に登場するのは自主映画。加奈子が高校時代に撮影した映研の仲間は皆、連絡すら取れない。映画の中で人が死んでるようにすら見える。飛び降り自殺する少年がさしていた赤いパラソル。それは加奈子の自前で、今も大事に使い続けている。

市子と加奈子はレズフレンドで、自主映画を観終わった後、二人きりになるとセーラー服のまま、濃厚なレズプレイ。市子は腋毛がフサフサに生えていて、それを由美香がペロペロ舐めるのがどうしようもなくエロい!そんな市子は「加奈子先生、レズじゃね?」気づいた。

加奈子先生は、同僚の教師とセックスし身ごもったはずなのに、堕ろした!それを知った市子は「先生、なぜ結婚しないの?」刹那的に加奈子の唇を奪い、その官能に加奈子は震えた。市子は「先生、2万円貸して!」愛用の腕時計と交換し、その日で高校を中退してしまう。

加奈子は市子を説得すべく、上京する。でも、市子は怪しげな年上の男(伊藤猛)と同棲している。伊藤は爆弾作りに没頭、河原で電車の通過に合わせて爆破して実験、普段はバイクに市子を乗せて街を流すごく普通の青年を装い、自宅アパートでテロの準備をしていた。

市子と伊藤は、アパートの窓から、河川の対岸にあるガス球形タンクをいつも眺めていた「あれを爆破すれば、世の中が変わるかもしれない!」ロマンチックなヒロイズムに満ちた伊藤と市子の心は、爆弾作りと言う具体的なロマンを通して結合し、二人は身体を愛し合う。

伊藤がせっせと爆弾を作る部屋は、爆弾を仕込むためのマトリョーシカ、何かあった時のための消火器、そして貧乏で電気代が止められる寸前のチカチカ灯いたり消えたりする蛍光灯、暑い夏なのにお金がなくて直せない扇風機、この部屋で、加奈子は市子を田舎に帰る様に説得する。

市子が頑として首を縦に振らない理由、それは加奈子にもあった。墓地で話し合う二人「先生、子供堕ろしたでしょ」「私は男も女も愛せる、でも先生は女しか愛せない」加奈子は図星の一言を市子に言われ、同時にこれまで自分がずっと市子のことを好きだったんだ、と気づいた。そして市子と恋に落ちた。

加奈子はいつしか、気持ちが高校時代の自分に戻ってしまい、伊藤と市子のアパートに身を置くようになった。夜、市子が眠っているその横で、マトリョーシカ二個をまるでバリケードのように並べ、その向こうで加奈子と伊藤がFUCK。市子は愛する二人に同時に激しく嫉妬した。

全裸の加奈子が伊藤に正常位でガンガン犯されるのが異様にエロい。市子はそこに加奈子の「女」を見た。翌日、電車爆破作戦は決行された。加奈子はある日、アパートがある南千住の駅で、常磐線の車両の網棚に、市子がマトリョーシカを置く姿を見た。慌てて追いかける加奈子。

でも、加奈子が駅のホームで何もできずにいるまま、電車は爆破されてしまった。市子は、成功を祝してバックから伊藤にガンガン犯されている。今度は加奈子が二人を嫉妬の入り混じった目で睨んだ。加奈子は一人、再び南千住駅のホームを訪れてみる。常磐線は、爆破事件などなかったかのように、通り過ぎた。

伊藤は最高の時限爆弾の製作に成功した。マトリョーシカに爆弾を詰めて川に浮かべ、球形タンクに向かって流した。そしてカムフラージュのため、伊藤は市子とともに南千住駅を訪れ、張込みの刑事(小林節彦、佐野和宏、井土紀州ら)に駅裏の原っぱに追い込まれ、容疑者として逮捕された。

伊藤も市子もいなくなり、加奈子は田舎の学校へと戻った。校舎からは棚田が見渡せる、ここは農業の町。ガス球形タンクなんかない。加奈子は、市子がいなくなり魂の抜け殻になってしまったが、市子から手紙が届いた。「先生はマジメだから、夏休みもきっと登校してるでしょ」

加奈子は市子に会いたい、でも会えない。代わりに由美香を学校に呼んだ。加奈子は由美香のことを、彼女はきっとレズに違いない、ひょっとしたら女しか愛せないのは私と一緒かも?と思いながら、セーラー服姿の由美香をワンワンスタイルにして股間を愛撫、百合の花を咲かせた。でも、由美香は加奈子の腕に「私が市子にプレゼントしたはずの腕時計」を発見してしまう。「先生、私は市子の身代わりじゃないよ」

市子が元気にセーラー服姿で学校に戻って来た。( ゚Д゚)い、市子なの?心の底からびっくりする加奈子。電車、爆破したじゃない?どうしてあんた、ここにいられるの?でも、加奈子は嬉しかった。また市子に会えた。二人は全裸でアソコを擦りあい、激しくFUCKした。

そして、クライマックス。加奈子は「まだきっと、やり直せる!」と市子を説得にかかるが「私、何も悪いことしてないよ!」加奈子は、このままだと市子は再びテロリストになるだろうと思った「私があなたのこと、助けてあげる」市子は加奈子に抵抗し、暴れ始めた。

加奈子は手に赤いパラソルを持っていた。私だって高校時代、ロマンチックに革命を夢見ていたわ。でも、愛する彼は赤いパラソルさして空から落ちて行ってしまったの。加奈子は無我夢中で、赤いパラソルを市子の胸に刺していた。革命のための赤いパラソルが革命の芽を摘んだ。

加奈子は「ああ、私はこの赤いパラソルで愛する市子を失ってしまった。彼女の理想は私も良く分かる。だからもっと二人で生きたかったのに!」次の瞬間、びっくりするほどの轟音がドーン!球形タンクが炎上しスクリーンは真っ白。市子が死して、テロは成功した。

市子が網棚にマトリョーシカを置いた常磐線は、今日もいつものように、何もなかったかのように走っている。ガス球形タンクだって、きっと元通りに復旧するだけ。何も変わりはしない。無差別テロしたって、自己陶酔のロマンに浸れるだけ。でも、その若さが恋しい。

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