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瀬々敬久「牝臭 とろける花芯」

アテネフランセ文化センターで、瀬々敬久「牝臭 とろける花芯」 脚本は井土紀州との共同。

近未来的に無機質なお台場が舞台、番を張る巨乳なカモメ(槇原めぐみ)とボーイッシュなカラス(穂村柳明)のコンビは、空を飛べると信じてるけど、どうしても飛べない。ここにカラスの分身である身体能力抜群のトンビ(川瀬陽太)が出現し、三人は中年夫婦(伊藤清美&小林節彦)のガス自殺現場にあったイルカに変身し、プールで泳ぐ、神話的で観念的な怪作。

お台場でテント暮らしする身寄りのないカラスとカモメは、身体は女で心は男。そして二人が出会う身体も心も男のトンビ。揃って空を飛びたいと渇望する3人の男女は、実は同一人物なのではないか?中性的なカラスの中にある女性的なものがカモメで、男性的なものがトンビ。交感し合う3人は、イルカという記号から喪われた家族の追憶へと収斂していく。

この作品は、松本大洋の人気漫画「鉄コン筋クリート」をモチーフとした、というより下書きにした作品らしいが、残念ながら私はこの漫画は未読。映画の内容を見る限り、スピリチュアルな霊感が作品の全編を通してビビビッと怪電波のように流れ続けており、ホントに漫画と同じなのかなあ?とは思うw「ノレない怪作」だけど、シャープで躍動感に溢れた画面を、ひたすら呆然と眺め続ける。

あらすじは結局、何が何だかよく分かんないけどw感想だけは書ける。前面に立つのはスピリチュアルな多重人格性と、疾走感と躍動感、それに寓話的な神話性である。90年代前半に瀬々監督がデビューしてから積み上げて来た、ロマンチックでアナーキーな世界観は既に、この作品には残っておらず「すけべてんこもり」のような、シュールで観念的な独特のタッチで展開されていく。

カモメは「空を飛びたい」と最初は言っていたが、途中から「イルカを見たい」と言い出す。「空を飛びたい」の意味が、自死念慮が頭から離れないことの象徴だとすれば、「イルカを見たい」の意味は、彼女が喪った家族との再会を渇望し始めた心境の変化を意味する。いまおかしんじの新作「れいこいるか」にも似た、イルカという動物に家族への回帰を渇望する話である。

物語は、鉄コン筋クリートの登場人物らしきものを、恐らく瀬々流に(決してピンク映画流ではない)勝手に(笑)解釈し、個々の登場人物の造形に工夫を加えている。男勝りのカラスと乙女チックなカモメは、二人とも身体こそ女だが「俺は男」と信じている。カラスの目の前にある日突然現れるトンビは、カラス自身が内包している自分、即ち「男性器を持った俺」である。

登場人物の中で一番魅力的なのは、原作(←って呼んでいいのかよ、おいw)の主人公であるカラスやカモメではなく、トンビを演じる川瀬陽太である。カラスとカモメが中性的なイメージで映画の中を暴れまわるのに対し、トンビこと川瀬は「俺は男だ!」と驚異的な身体能力でカラスとカモメを凌駕する。川瀬陽太あってこその作品だ。

カラスを演じる穂村柳明は、演出の中で顔がなかなか、はっきりと映し出されない。ピンク映画でこの演出はまずありえないことで、最初から彼女はピンク映画とは別枠の、本作を神秘的なフィクションとして構築するための道化師である。それに対して、魅力的なルックスとおっぱいが強調されるカモメ役の槇原めぐみは、カラスとの鮮やかな対比で、非常に女性的かつ官能的に描かれる。

本作のハイライトは「交感セックス」である。原作の鉄コン筋クリートには恐らく出てこなかったであろう(笑)カラスの分身であるトンビ川瀬が、カラス柳明を犯す場面。男女の肉体が同一化することで、同時にカラスと対でしか存在し得なかったカモメも、トンビとカラスが交わった場所から遠く離れた場所にいるのに、交感して悶えてしまう。

ロマンポルノ的には(笑)どこが見どころかといえば「ありません」と言う他にないwwwとは言え、純然たる濡れ場要員の泉由紀子が夫でヤクザの伊藤猛とガンガンFUCKする夫婦生活の場面には、かろうじてピンク映画を感じる。カーセックスする河名麻衣にも伊藤清美にも、あまり官能的な何かを感じることはできない。

本作で戯作的にシンボリックに表現される登場人物は、カラスとカモメとトンビの三人だけではない。街を仕切るヤクザの伊達男下元史朗、その子分のスキンヘッドいぐち武志、それに人生を想い悩んでいる伊藤猛の三人は、リアルに神様の小水一男の啓示を受けてお台場の治安維持に走るが、カラスの駆除は出来ない。彼らにとって、カラスはとんでもなく強い奴なのだ。

そんなこんなで、近未来SFアクション映画という括りで捕らえたらいいのか?それすらよく分からない(笑)瀬々監督がピンク映画を撮る中で「これだ!」と閃いて、売れっ子の商業映画監督として成功するまでの、ちょうど過渡期にあった、摩訶不思議な作品として、あまり深く考えずに観るべき作品だと思うwでも、私の場合、次は原作漫画をちゃんと読んでから再見してみたいとも思ったw

物語の舞台は、お台場の荒涼とした空き地。スクリーンが緑がかった幻想的なフレームに、男か女か分からない、中性的なカラスとカモメが仰向けに寝そべって空を見上げているシーンから始まる「俺たち、空を飛べるよな」カモメは空を飛べると信じ、カラスは愛するカモメを守ってあげたかった。

カラスとカモメの日常、それはお台場のゴミ退治。今日もカーセックスしているカップルにヤキを入れようと現場に向かったら、先にヤクザのスキンヘッドいぐちが大暴れ。カラスとカモメはいぐちをぶちのめし、いぐちはカラスに恨みを持った。兄貴分の伊藤に報告するが「お前たちの叶う相手じゃねえ。それにあいつらはこの町の守り神だ」

でも、神々しい神様の小水一男は「あいつらを早く退治しろ」と伊藤に迫る。伊藤はバーで兄貴分の下元と酒を飲んでいる時「お前は何座?」と聞かれ「おとめ座です」www下元は「俺はかに座だ。占いは信じないけどな」と言った。

カモメは、幼い頃に家族で見たイルカをもう一度見たいと思っていた。彼女はお台場に車を停めてカーセックスしている中年カップルの小林節彦&伊藤清美と知り合いになった。ヤバいことをして隣町から逃げて来た小林は目も虚ろな狂人だが、妻の清美はいたって優しく温厚で、カモメは食事をご馳走になった。清美は空き地にヒマワリの種を植えていた。

神様の小水は下元に「カラスを退治しろ」と命令するが、カラスは強く、拳銃で撃っても鉄パイプで跳ね返す。下元がカラスを刺そうとした瞬間、カラスが振り払ったナイフがカモメのお腹にグサッと刺さり、激高したカラスは下元をぶちのめし、カモメを連れて清美の元に行き、応急手当てしてもらった。

カラスは下元との喧嘩のことで悩んでいた。これ以上、カモメを危険にさらせない。伊藤からも忠告された「カモメを巻き込むな」カラスは自転車で街を去った。そしてある日突然、小林&清美夫婦の車も消えて、路上にイルカの形をした白墨だけが残されていた。

カモメはいつも、なにか些細なことでもいちいちカラスに電話で報告していた。孤独なカラスが、電話ボックスに入りカモメのように受話器で今日の出来事を喋っていると、上空からドサッと音がして怪しげな黒ずくめの男が現れた、川瀬陽太だ!いや、トンビだ!カラスは衰弱するあまり、もう一人の自分であるトンビを幻に見た。カラスは「俺は女じゃない!」と叫び、トンビは「そうだ、俺は男だ!」と叫び返した。

伊藤は妻(泉由紀子)と正常位で濃厚FUCK。豊満なおっぱいを揺らす由紀子がエロい!彼女は妊娠していることを打ち明けた。伊藤は再び小水と会い「下元の兄貴を殺せ」と命令された。伊藤にはもうすぐ子供ができる。下元はお台場の再開発に邪魔な人間で、小水は下元のような害虫を駆除すべきと諭した。伊藤はいつものバーで下元に会うと「仲人、お願いできませんか」と下手に出た「兄貴は俺の恩人なんす」

下元は「お前も立派になったなあ」と目を細めたが、駐車場に入った途端、伊藤は下元に向けて銃を構えた「今日のかに座の運勢は最悪なんだよ」下元は死を覚悟し、伊藤に撃たれた。でも次の瞬間、伊藤がいるはずの場所にいたのは、銃を片手に呆然とするカラスであった。

伊藤の同僚のいぐちが駆け寄って来て「あの野郎!」とばっちりを受けたカラスはいぐちの襲撃を受けたが、トンビが現れ、華麗にいぐちを叩きのめした。トンビは「お前を探しに来たんだ!」と叫び、自転車を物凄いスピードで漕いで、両手を放す「こうすれば、空を飛べるんだぜ!」カラスはトンビのスピードにとても叶わなかった。

ビルの屋上で、カラスに突然襲い掛かるトンビ。必死で抵抗するカラスは「俺は男だ」トンビは「それじゃあ、できる訳ないってことだな」と言いながら、カラスの服を脱がせ、おっぱいを揉み、そして正常位で挿入した。カラスは自分自身に犯されているような、ヘンな気持ちになり、同時に離れた場所に取り残されたカモメも二人のセックスとシンクロするように交感して悶えた。

カラスとトンビにスピリチュアルパワーをもらったカモメは、プールのある建物の壁に、イルカを発見した「私があの時見たイルカって、これだったのね!」カモメはカラスを連れて、二人とも全裸になって人魚のようにプールを泳いだ。トンビがカラスの後を追いかけ、トンビをカモメが追いかけ、三人はやがて一匹のイルカになった。

翌日、もうトンビは消えてなくなっていた。カラスとカモメは自転車に二人乗りし、カラスは全速力で漕いでいる。上空にはヘリコプターが飛んでいる。「俺たちの町だ。突っ走ろうぜ!」清美が植えたヒマワリは満開の花を咲かせ、優しくカモメたちを見守った。

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