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サトウトシキ「今宵かぎりは…」

シネロマン池袋で、サトウトシキ「今宵かぎりは…」(成人映画公開題「新・団地妻 不倫は蜜の味」) 脚本は小林政広。

団地で隣同士の人妻(葉月蛍&沢田夏子)の夫(本多菊次朗&村木仁)が、通勤電車で意気投合、焼き鳥屋で相席してきたOL(佐々木ユメカ)&プータロー(久保田あづみ)と知り合い、夫婦仲再生のために行った温泉旅行がきっかけで不倫沼に堕ちてしまう。シニカルなネオ団地妻ポルノの秀作。

ピンク映画では異例の69分も尺がある。しかも登場人物も一人一人に細かくキャラ設定を付けていて、テロップで「オリジナル脚本・小林政広」と紹介されるのもさもありなんと思わせる、ホントに手の込んだ重層的に構築された恋愛ドラマ喜劇だと感心して観た。

ホンの段階からそうなのかもしれないけど、やっぱりトシキ監督の独特な演出。感情を押し殺してロマンチシズムに流されず、時にシニカルに時にリアルに男女の恋愛感情を赤裸々に描き出す。だから、登場人物たちも感情に流されない、淡々とした言動が多い。

本多菊次朗と村木仁、二人のサラリーマンは中年の域に差し掛かり、通勤電車の車窓の風景を新鮮な気持ちで眺めるようになった。仕事人間で、会社べったりだった自分がもう若くないと悟り、自分の立ち位置を実感する、その先に隣人であるお互いがいるのだ。

本作の視点は徹頭徹尾、本多と村木のものと言って良い。本多は甘いマスクで不倫の匂いがする。一方の村木はブサメンのおっさんでとても不倫の匂いがしない。本多の妻の蛍、村木の妻の夏子は、そんな夫に規定されるように、方やリア充な人妻、方や文句たらたらの人妻なのだ。

本多&蛍、村木&夏子夫婦の間にある微妙なすきま風。焼き鳥屋の相席で知り合うOLのユメカとプータローのあづみ。女優4人の個性が主人公の2人の中年男を惑わせる。蛍、夏子、ユメカ、あづみは四者四様で全員に魅力があり、男が放っておくはずもない。

アラフィフで既婚者子持ちの私にとって、本多と村木の危うい言動に観ていてハラハラ、モヤモヤする。自分も40代で子供無しだったらこういう沼にハマった可能性あったのかな?いや、モテないからそんな訳ないだろう。でも非モテ村木は現に不倫沼にハマっちゃうんだよね。

村木の姦計の犠牲者になった人がいるとすれば蛍。天真爛漫で幸せな奥様を謳歌していた彼女は、夫の本多にも浮気したいという暗黒面があることを納得しない。でも、現に独身のイイ女が彼をオトした。それが村木の欲望の副産物であっても、蛍は犠牲者なのだ。

映画の中でずっと村木が全ての姦計を仕組む黒幕であるような匂わせ方をする。本多とあづみをくっつけて自分はユメカをモノにする。別れた岡田を妻に連絡取らせてダブル不倫の形にする。それが意図的なのか偶然か分からないけど、最終的に村木は高笑いだ。

タイトルに「不倫は蜜の味」とあるが、ホントはほろ苦いものだと思うよ。でも村木の言葉を借りれば「考え方一つで」甘い蜜のようになる。最初から不倫する気満々の村木と、抵抗がある本多。でも村木には現実味の無い話で、本多にはたくさんの誘惑がある。

葉月蛍は、リア充ではあるんだけど、夫に対しても家庭に対しても「こうこうだから、私はこうこう幸せ」という思い込みが非常に強い女。だから、ロースのすき焼きは旨いに決まってるし、夫は一晩3発も愛してくれるの当たり前。でも、決して当たり前じゃない。

沢田夏子は、隣のリア充主婦蛍の自慢話を聞いて愚痴垂れる女。平日の夜にすき焼きだなんて。人のセックスの話を聞かされるなんて。目の前にいる夫は冴えない風貌なばかりか私の話をロクに聞いてもくれない。夏子の欲求不満は今にも爆発しそうな状態なのだ。

対して、未婚のユメカとあずみ。ユメカは本作でこれまでにない、不倫と知って好きな男に抱かれ、酷いフラれ方をしてもじっと耐え、涙を流す。こんなユメカ、他の作品で観たことない。彼女、演技上手いんだなあ。最後は手近な男に堕ちて行く感じもとてもイイ。

久保田あづみは、ピンク映画史上に残る傑作・田尻裕司「ラブジュース」の主演を務めた娘なんだけど、本作では黒髪のロングが凄く大人っぽくてエロチックで、街を歩いていたら「おお、なんてイイ女なんだ!」誰でも振り返りそうな、凄くチャーミングな女性。

作品はザックリ三部構成になっていて、団地で展開する不倫未遂騒動、温泉に場所を移して夫婦和合と思いきや不倫未遂の残り火がやって来て、再び団地に戻ったら不倫関係は恐らくこうなるであろう鞘に全部収まり一人取り残された蛍が泣く、そんな感じでおますw

新しいなあ、と思ったのはヒロインのはずの団地妻・蛍がフツーならよろめきドラマになるところが周囲の夫とか隣の夫婦とかがどんどん不倫関係になっていく中で、ヒロインだけがその流れに取り残されていくという妙味。この寂しさをスクリーンから感じたいw

冒頭、車窓の風景にみたいに団地の近所が左右に流れていき、電車に乗ってる本多と村木が、若い頃は全然気が付かなかったこと、車窓を流れる風景の新鮮さとか、同じ団地に住んでいても言葉も交わさなかった男同士、こうして身の上話をしながら電車に乗ってる。

本多の妻の蛍はロース肉を奮発してすき焼きを作って本多に「美味しいでしょ」夜は本多に抱かれ三発もヤッちゃった。これを隣室の夏子に自慢し、夏子は「なんで私がそんな話聞かなきゃならないのよ」村木にブー垂れるが、夫は全くそんなことには関心無いようだ。

事件が起きるのは、仕事帰りに本多と村木が一杯やってた焼き鳥屋が混んでいて、OLのユメカとプータローのあづみの二人連れが相席になった。村木は豪気にも奢ってやり、帰り道で本多に「ヤリてえなあ」と話すが、本多は「そんな簡単に出来るもんじゃないよ」

本多はしゃぶってくれる、アソコをぐしょぐしょに濡らすエロい娘が好みで、タイプだったのはあづみ。でも村木は盛んにユメカをプッシュする。そして翌日、本多のオフィスにユメカから電話が入り二人は1対1でデート。ラブホに入り、ユメカ突然の「舐めたいの」にビビりつつ肉体関係持っちゃったw

村木は本多の話を聞き「いいなあ。俺もしてえなあ」と言いながらも「出来る訳ないか」一方の本多はオフィスにかかって来たユメカの電話を「こういうことはもうできない。俺には妻がいるんだ」はっきり断った。それは蛍に「浮気してるんじゃないの」疑われたからだ。

村木は不倫にあり付けず、本多は不倫を一夜だけ過ちでしてしまったけどきっぱり断った。団地では夏子と蛍が世間話の中でお互いに結婚する前の彼氏と子供が出来てしまった過去を振り返る。お互いに色々とあったもんだ。でも夫と妻は互いにそのことを知らない。

蛍の発案で村木&夏子夫婦を誘って、夫婦2組で温泉旅行に行くことになった。でもスワッピングが目的じゃないよ。夫婦の絆を取り戻すためだ。本多と蛍の温泉旅行なんて5年ぶり。でも予算をケチったから2組の夫婦は相部屋で、何か起こりそうな予感はさせるw

村木が本多に「風呂に入ろう」と大浴場に向かう途中で、立ち寄った部屋にはユメカとあづみw村木は憮然とする本多に「俺が誘った」ユメカとあづみは大浴場で蛍&夏子と鉢合わせ「どっちが本多さんの奥さん?」うさぎちゃん秘湯の旅的な健康的温泉ヌードがグッジョブ!

相部屋の2組の夫婦の夜。村木は浴衣姿の夏子のおっぱい揉んで手マンしながら「やろうや」夏子も「期待はしてたけど♡」満更でもない。アンアン始まった隣を見て蛍は本多に「しようよ♡」ねだって本多も「したくないことはない」とか言いながら正常位でFUCK!

すっかり元鞘に収まったかに思えた2組の夫婦。ところが大事件です!宅配便業者を装った男が本多の留守に蛍を急襲、強引にレイプ「俺はスーパーを辞めたから足はつかんぞ。お前から誘ってその気になったら消えやがって」唾を吐かれ全裸で呆然と佇む蛍。

村木はちゃっかり、ラブホでユメカをいただいて「次はどうして欲しいんだ?」バックからガンガン突いてる。ユメカは「やっぱり私にはあなたの方が合ってるわは♡」そして、あづみが本多を陥落しようと作戦に出たことを村木に伝える。情報は全部、筒抜けw

本多が仕事を終え帰路についていると、喫茶店から颯爽と出て来るあづみが大人の色気を纏ってエロカッコええ(*'ω'*)本多は「人が見てるかも知れないから」歩き出し食事に誘うが、あづみの方から強引にラブホに連れ込む。あづみは最初から本多に惚の字であった。

夜になっても村木が帰宅しない部屋で、夏子は電話を受ける。昔別れた岡田智宏からだ。「会いたい」部屋に入った岡田は「今でも好きです」「7年前のことよ。もう私、おばさんよ」という夏子だが、ワインをガブ飲みし、机の物を全部ガチャンと放り投げると「抱いて!」

ベットで全裸の村木がユメカを腕枕しながら、今起こっていることを想像する。そして、それは想像では無くて現実。自宅では妻の夏子が仰向けの岡田に跨って全裸で騎乗位でガンガン腰を動かしながら咆哮してる。だって、岡田は俺と結婚する前に夏子と付き合っていた男。

蛍は誰もいない部屋に帰ると冷蔵庫を開けて、帰って来ない夫・本多の食事をラップに包んでしまった。その頃、本多はラブホであづみと熱いキスを交わすと、時間を惜しむように全裸になって立ちFUCKを始め、そのままベットに押し倒し、正常位で愛し始めた。

大好きな本多に抱かれてトランス状態になったあづみはロングの黒髪をなびかせながら、騎乗位に体位を変えて本多に跨り物凄い勢いでグラインドを始めた。そして再び団地、蛍はため息をつくと朝焼けが差し込む部屋で、ラップを外して寂しく朝食を食べ始めた。

そして、エンディングで出演者テロップに、車窓の風景にみたいに団地の近所が左右に流れていき、村木家は夫婦揃って不倫でウハウハ。本多家は夫がマジ不倫にハマり妻が泣いているのに・・・漂う諸行無常感。でもそんなこと、一切構わずに流れていく車窓の風景こそがシニカルにもリアルにも現実なのだね。

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