見出し画像

佐野和宏「走れ、走り続けよ!」

2022年2月新宿ケイズシネマで、佐野和宏「走れ、走り続けよ!」 (成人映画公開題「爛熟性戯 うずく」)

前作「人妻ONANIE 甘い痺れ」でヤクザに追われる身となったヤン坊(佐野和宏)が千葉の田舎に潜伏し、健気なバーのママ(岸加奈子)を怠惰な生活で泣かせつつ、死んだマー坊(荒木太郎)と瓜二つの青年が登場、マー坊の彼女(川奈忍)と恋に落ち、4人で目指すは憧れの北海道の大地。生きてる限り走れ、走りつづけよ!と熱い檄を飛ばす傑作。

この映画は粗削りな部分が多いこと自体に、佐野監督が半紙に向かって筆で書を殴り書きしているような、熱烈な思いを観客に届けようと格闘するエモーションを強く感じる。俺たちはいつか死ぬ、だからこそ、生きている限り、走るんだ、走り続けるんだ!という生への躍動感に溢れたステキな映画だと、心から思います。

上映前の舞台挨拶で佐野監督がご自身で説明したが、本作は「人妻ONANIE 甘い痺れ」の完全な続編であり、2本で1本のようなものだから、どうしても両作品とも上映したかったが今回は叶わなかった。と言うことなのだが、実際には本作の冒頭で前作のおおまかなプロットを全部紹介しており、ノーストレス(笑)

って言うかw元々がピンク映画というのはアトランダムな3本立て興行であるからして、続編の映画をいきなり上映したら観客からクレーム来るでしょ、これ(笑)本作に限らず、明らかな前作のある続編(たまに2本撮り疑惑ありw)の場合、前作のダイジェスト映像を編集して流すのは成人映画のお約束である。

で、前作を私はまだ観ていない訳ですが(笑)そんなの全く関係ない!ダイジェストで振り返る短い前半部分ハイライトで話の流れは大体理解できるし「ホントは前作だけで自己完結してる話なのよねw」ということも大体想像できた。だから(←だから、じゃねーよw)この後半部分も1本の独立した作品として十二分に楽しめる。

前作とか続編とか凄く強調するのは結局なにかって言えば、成人映画では本来なら反則の(笑)男二人の主人公、ヤン坊(佐野和宏)とマー坊(荒木太郎)がそのままスライドして登場、しかも前作でマー坊はいったん死んでいるのでwwwその代わりにマー坊のそっくりさんが登場という方便(笑)

佐野作品では永遠のマドンナと言える岸加奈子は、ヤン坊こと佐野の情婦としてずっと映画の中心に君臨する。男二人の友情物語と言ったって、色気が無いと始まらない。加奈子を中心とした恋の鞘当てこそが物語としても面白いし、成人映画としてもエロい。彼女の存在は絶対だ。

それと同じくらいに、死んだマー坊こと荒木太郎の恋人である川奈忍。彼女も他の作品ではあまりお目にかからない個性的なショートカット、というかおかっぱ頭でいい味出してる(笑)前衛劇団の女優のような独特の雰囲気は、映画青年荒木の恋人感をモロに感じさせ、俳優と当人の虚実入り混じった感じがイイ!

男女4人の逃避行とその果てにある新しいスタートまでを描いた青春風味溢れるロマンチックな作品なれど、この4人だけで物語は成立しないので、魅力的な飛び道具を仕込んできます。それは中川みず穂。彼女は80年代の雰囲気を引きずったようなアンニュイな雰囲気で、加奈子がいるはずの佐野を官能的に惹きつける。

舞台は千葉の田舎町。前作でヤン坊こと佐野がホモのマー坊と仲良くなり、一心同体の中で、ヤクザのドラ息子の小林節彦がトラブルからマー坊を刺殺。悲しみに暮れ、先に「ヤン坊の墓」を立ててマー坊を埋葬したヤン坊に、ヤクザ小林の追手が迫り、命の危険に晒される状況が続く。

ここで大事なのは、なぜマー坊がヤクザに殺されたのか?とか余計なこと考えてると映画に集中できない。状況として①ヤン坊はヤクザに命を狙われている、②ヤン坊の情婦、加奈子はバーのママして生計を立てヤン坊を養っている、③マー坊は死んでしまったが、そっくりさんが現れて物語が劇的に展開する。④ヤン坊は相変わらずろくに仕事もせず、ぐーたらしていて加奈子を困らせてる。

物語は千葉の田舎の中でも、加奈子が経営するバーの店内をほぼ定点観測のように進む。他に登場する場所と言ったら、中川みず穂が経営する別のバーと、ヤン坊が山中に立てた「お前は先に逝っちまった、俺も後から行くぞ」と立てた「ヤン坊の墓」ほぼ、この三箇所のみである。

ピンク映画の低予算とかキャストの制限を受け入れた中で、どれだけストーリーを雄大に広げて展開するのか?というのは佐野監督のテーマだと思う。行きたいけど行かれない北海道、佐野の元にどこからともなく襲ってくるヤクザたち、などは画面にいきなり見切れ、また去って行く。

冒頭の前半ダイジェスト映像の後(笑)加奈子ママがヤン坊に「あなたに飲ませる酒なんて無いわよ」「ちゃんと仕事してよ」と説教する。ヤン坊こと佐野は、前作で盟友のホモのマー坊こと荒木を失ってしまい、失意の中で無気力にフラフラと生きている。どうせ俺はヤクザに追われた身、いつ命を落とすか分からない。

加奈子には「働けよ!」口うるさく罵られるばかりで面白くない佐野は、みず穂のバーで飲んでいて、金も力もないのに「わたし、困ってるの」というみず穂の誘惑にあっさり乗っかり、そのままみず穂にも乗っかってしまう(笑)いや、正確には閉店した店の椅子に佐野が腰かけ、抱っこちゃんスタイルでFUCKするみず穂の妖艶な肢体は相変わらず素晴らしい!

と、ここで大事件が発生する。佐野は道中で、死んだマー坊に瓜二つの荒木(←マー坊を荒木が演じてたから当たり前だろw)と出会い「マー坊、マー坊じゃねえか!」と大興奮、加奈子のバーに連れ帰り、マー坊のかけてた眼鏡を荒木にかけさせ「ほら!」ここで初めて気づく加奈子も忍も鈍感すぎw

取り敢えず、荒木と忍は一緒に風呂に入る。荒木は勃起したイチモツを「口でしてくれないかな」とお願いするが「手で」とシコシコし、浴槽の中に白濁液が散らばる。一度は死んだはずのマー坊と再会した現実を、忍はゆっくりと受け入れ始め、荒木と恋仲になっていく。

ヤン坊こと佐野を突け狙うヤクザ一味は、セニョールと呼ばれる超強力な助っ人を用意。セニョールはヤン坊の連れと見込んだ荒木と忍を拉致し、荒木の前で忍を全裸に剥き輪姦。それでもなかなか口を割らない忍の先にあった夢は「みんなで北海道に行くこと」ヤン坊が死んではいけない。

加奈子は佐野の心がすっかり自分にないことを絶望して寂しく涙を流す。その頃、佐野は山中に粗末な「ヤン坊の墓」を立てた。加奈子の誕生日が今日だったことを思い出し、ケーキを買って単線の線路伝いに歩き、先にマー坊を埋葬した「ヤン坊の墓」に手を合わせて冥福を祈ると、お祝いしようと帰路を急いだ。

でも、ヤクザたちがとうとう、ヤン坊の墓にやって来てしまった。忍が拷問のようなレイプに耐えきれず、教えてしまったヤン坊の墓。セニョールは佐野を始末しようとナイフを突き出した。生死をかけた格闘をする佐野とセニョール。でも、佐野を愛する加奈子は絶望の中で、常連客のイケメンに抱かれていた。

加奈子と佐野の痴話喧嘩をバーでずっと見つめていたイケメンは、佐野のいない加奈子バースデイの日、「一緒に暮らそう」と加奈子を誘惑、火照った身体を持て余し寂しい心を埋めたい彼女も抗うことが出来ず、場所をバーの2階に移して、二人は濃厚なFUCKに耽り始めた。

全裸の加奈子を正常位から優しく愛撫して、ズブッと犯すイケメン。加奈子は挿入された気持ち良さに喘ぎながらも、心は佐野を忘れられず、眼の焦点はうろつくのであった。そしてまさにその時間、佐野はセニョールと格闘の真っ最中。加奈子、男に愛されるセックスの甘ったるいテーマに乗せて、セックスと格闘が交互に交錯する。

佐野はやっぱり、強かった。セニョールのスキを突いて殴り倒すと、子分で気弱そうな広瀬寛巳は「覚えてろよ」その場を立ち去った。佐野は顔をボコボコに変形させながら帰宅。その時、加奈子はまさにイケメンに抱かれた直後。イケメンは「佐野さんと話がしたいから」2階を指定した。

佐野が2階に上がった途端、イケメンは加奈子を人質にとってナイフで脅しながら、佐野に降伏を迫る。でも、佐野は喧嘩などからっきし弱いイケメンからナイフを奪い取ると殴打。加奈子を救い出し、二人は熱いキスを交わし、久しぶりに全裸できつく抱き合い、濃厚なFUCKで加奈子は念願のエクスタシーに達した。

そしてローカル線の駅舎。佐野と加奈子、荒木と忍、2組のカップルが15分後に来る汽車を待ってる「やっと、北海道に行けるのね!」幸せ一杯の3人の笑顔を見ながら「ちょっと忘れ物した」佐野は駅舎を降りると山中に向かって走り出した。その先にはマー坊が先に眠るヤン坊の墓があった。

佐野が最後の墓参りをすべく走っていると、物凄い勢いでフレームに入って来る人影。広瀬だ!これはあの、ヘタレチンピラの広瀬に違いない!佐野は不意を突かれて広瀬に何度も胸をグサリ、グサリ刺され、絶命した。広瀬は「やったどー!」興奮しながら、走り去っる。

駅舎で「佐野さん、遅いわねえ」と呑気に、待てど暮らせど戻らない汽車を待つ加奈子と荒木と忍。加奈子は不意に、「ギャー」という断末魔の叫びを耳にした、気がした「もしや?」加奈子の胸に去来する悪い予感、マー坊を追って、ヤン坊、あなたも結局は私を残して死んでしまったの?

佐野は最後の力を振り絞って、あの場所まで辿り着き絶命した。力尽きた彼の頭上に「ヤン坊の墓」エンディングテロップの中で登場人物は走り続け、佐野もヨレヨレしながら、やっぱり走り続ける。テロップは観客をアジるように、大きな文字で檄を飛ばした

「走れ、走りつづけよ!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?