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今岡信治「彗星まち」

新宿ケイズシネマで、今岡信治「彗星まち」(成人映画公開題「獣たちの性宴 イクとき、いっしょ」)

何事にも無気力な青年(岡田智宏)が呪文のようにパパンがパン!唱えながら彗星の到来を待ち続けて幾年月、河原で遺体を見つけて仲間たちと燃やすが彗星は現れず自らが焼身自殺未遂、車椅子で海を見つめて念願の彗星到来にパパンがパン!世紀末の先の未来を予感させる、硬質な性春映画の秀作。

今岡監督は1995年に本作でデビュー。90年代半ばは、バブルがはじけ、オウム真理教事件など、閉塞的な空気感が世間に漂っていた時代。自動車の車内で練炭を燃やして一酸化炭素中毒で集団自殺する若者も社会問題になった。そんな暗い世相の中で、終末観を感じつつも、せめて死ぬまでに彗星だけは観ておきたい、という断末魔の叫びが聞こえるような作品。

76年に1回しか現れない彗星は、明治の終わり、昭和の終わり、時代が変わる節目にだけ出現するという。ペットショップで働く無気力な若者も、新しく入ったバイトの娘も、別れた元カノも、新カレの中年おっさんも、みんな彗星が現れる日を待ち望むのだ。

でもね、彗星はただ待ってるだけじゃ現れてくれない。岡田は最初から「パパンがパン!」唱え続け辞めない。河原で遺体を見つければ、焼くことで何か起こるかも?炎上した瞬間にキラリと光った炎は彗星かと思ったが違う。遺骨の匂いを吸ったりしてみるのだが。

岡田がヤべー奴なのは、ゴーゴー燃える遺体の炎の煌きが忘れられず、自らの身体に灯油をぶっかけて炎上してしまう。で、包帯グルグル巻きの姿で車椅子に乗せられ海に向かうんだけど、ガードレールに激突、そのショックでシャキーンと立ち上がる姿にワロタw

で、岡田は海に彗星を見つけ、包帯グルグル巻きのままで海に飛び込んで青空の中にある彗星に向かってどんどん入っていく。恐らく溺死したんだと思うんだけど(笑)「パパンがパン!」確かに彗星は見つかったんだと思う。自分一人だけには見える彗星が。

今をときめくいまおかしんじ監督のデビュー作で、もう本人は一本監督出来たら死んでもいい気持ちで撮ったらしいけど、どこにそんな余裕があるんですか!とツッコミ入れたくなる位に成人映画のフォーマットを逸脱、濡れ場は全然エロくないしある意味問題作w

主演の二人、彗星を待ち焦がれる主人公の岡田智宏は新井総二郎という別名義でデビュー仕立て。彼の別れた元カノ不機嫌な不思議ちゃん役の長宗我部陽子もデビュー仕立てで奈賀愛子という別名義で出演してる。つまり監督と男女主役が3人とも凄くフレッシュ!

商品として不可欠な、エロいカラミのための純然たる濡れ場要員が林由美香で、随分贅沢な、というより勿体ない使い方なんだけど、由美香は不感症のデリヘル嬢という訳ワカメな設定、競馬で万馬券当てた伊藤が使い道に困りデリヘル嬢の由美香を呼んだという寸法。

伊藤に正常位でガンガン突かれてる時は全くヤル気なしこさんだった由美香が、床にぎっしり敷かれている万札を「好きなだけ持ってけや!」言われた瞬間に黒ショーツのヒップをスクリーンに向けてフリフリ万札集め、伊藤にケツを蹴られる場面がなんかエロい!

冒頭、主人公のクスオ(岡田智宏)は長く同棲していたアイコ(奈賀愛子)と別れ、荷物を整理して部屋を出ていく。いきなり世も末感が色濃く漂う展開にクラクラwしかも、アイコの新しい彼は中年で妻子持ちのマサシ(伊藤猛)よりによって相手も相手だしw

クスオが働くペットショップで、いつも小動物の檻をじっと見つめるアブナイ目をしたミニスカートの女の子はタチコ(阿部節子)仕事をさぼり河原でタチコとデートするクスオ。彗星を待つ彼のおまじないは、拝むように手を叩き、その後、膝に手を置く「パパンがパン!」でも当然、彗星なんてやっ来ないw

クスオは河原の中に、知らない人の遺体が放置されているのを見つけた。生まれて始めて人が死んだ姿を見た彼は興奮、別れたはずのアイコにも「死体見に来いよ」と連絡した。そして、アイコといっしょにマサシもやって来た。

死体を覗き込む4人「人間の死体って、こんななのかー」と冷めた感嘆。クスオは思いついた「そうだ!」(そうだ、じゃねーよw)「この死体を、ちゃんと葬ってやろう」死体の上に灯油を撒き、火をつけた。辺りはすっかり暮れて、燃え盛る火がゴーゴー。興奮したクスオは川に入り「パパンがパン!」アイコもタチコもパンティ1枚になって川に入りマサシまで飛び込んで童心に帰ってはしゃぐ4人。

マサシはギャンブル狂であった。妻子を残し家出、アイコと同棲しながら競艇場に通う彼の姿は、もうこれ以上落ちようがない位にみじめなものだが、なぜか桃源郷のようにも感じるのが不思議。生活費のため働くアイコのイタリアンレストランは不景気で客がいない。もう4人とも、人生にテンパっている感じが半端ない。

ある日、マサシは競艇で超大穴を当てた。多額の現金を手にした彼は、サラ金の借金を帳消、妻子の元に帰る決心し、アイコにそれを伝えた。クーラーがやっと届き扇風機生活に別れを告げるはずだったのに、そんな鬼畜の様な台詞を聞いても、平然とカレーライスを食べ続けるアイコの中でも、明確に何かが壊れていた。

クスオは再びアイコと会うようになった。彼は部屋でアイコをFUCKしながら、やっぱりこれでいいのかな?と何となく考えた。彼はアイコを連れて海へ行った。クスオは「パパンがパン!」と叫ぶと、手に灯油を持って断崖へ登り、全身に灯油をかけて焼身自殺を図った。アイコが遠くから見つめる先に、クスオの身体から立ちのぼる炎が見えた。

マサシは妻に許してもらえず、戻って来た。アイコはもういない。お金だけは有り余っているので、デリヘル嬢(林由美香)を呼びセックスした後、「金、好きなだけ持って行けよ」由美香が四つん這いになって金を拾う。黒ショーツのお尻を突き出しながら。それが醜い豚に見えたのだろう。マサシは由美香の尻を何度も足で蹴り飛ばした。

クスオは死ななかった。しかし全身に大やけどを負い、包帯で全身ぐるぐる巻きになってしまった。彼の病床にアイコとタチコがやって来た。「海へ行こうよ」車椅子にクスオを座らせ、猛スピードで押し始めた。スピードが付き過ぎて、ガードレールに衝突!この衝撃でクスオの身体がシャキーン!

クスオは彗星を見たくて全身マヒしてしまったのに、海の中に包帯だらけで飛び込んでいく。アイコとタチコもはしゃぎながら後を追う。すると次の瞬間、

クスオの前に、ついに彗星が現れたのだ!

画面は暗転、黒背景に「獣たちの性宴 イクとき、いっしょ」の題字と共に、出演者たちの「パパンがパン!」の合唱のリフレインで終わる物語。

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