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城定秀夫「新宿区歌舞伎町保育園」

城定秀夫「新宿区歌舞伎町保育園」 脚本は池田眞美子。

新宿No.1ホストクラブの社長が売上金を持逃げ。残された4人のホストたち( 鎌苅健太、河合龍之介、宮野真守、兼崎健太郎)がホステスの子供を預かり、それが瞬く間に保育園に発展、妨害するヤクザや腰の重い行政を「本気」が動かす、感動的な社会派ドラマの秀作。

このジャンル作品はあまり観ないんだけど、城定監督だから観た。ところが、「ホストが保育園」という一見ぶっとんだ設定が、泣いて笑って感動して、しかも社会問題をちゃんと斬っていて、凄く( ・∀・)イイ!!

学校や会社の人権講習には、こういう映画を観てもらえばいいんじゃないか?と思わせる、非常に道徳的な映画(笑)見た目で人を差別してませんか?ホストだって「成り行き」で生きて来ただけで、新宿歌舞伎町に「保育園」は絶対に必要なんだ、と思えば必死で汗を流す。

ミュージカル「テニスの王子様」の派生企画ということで、脚本もアニメ関係の方だし、人気声優の宮野真守が目立ってるwでも城定さん色が出てるのは、水商売に対する社会の蔑視や差別、本来は公僕なはずの公務員まで差別意識に凝り固まってる、そんな社会問題を提起する部分かなあ?

舞台となる「Club誠」は大理石がキラキラ光る、典型的なオミズ系ビルに入居。チャラいホストたちの見た目は、まあサラリーマンや公務員からすれば、全く信用が置けないような人たちにしか見えません(笑)でも、ホステスからすれば、だからこそ安心して子供を預けられる。

ホストクラブの社長が売上金を持逃げしなければ、ホストたちにはドンペリタワーを作って一気飲みして狂乱の大騒ぎの毎日が続いただけ。ここにヤクザが取り立てに来て、破壊されたホストクラブには客が居なくなっちゃって、ホステスたちの託児所に変わり「いっそのこと、保育園の認可取れないかな?」

幼児保育に熱中し始める4人のホストは、いずれも魅力的なキャラクターばかりである。健二(鎌苅健太)は熱血なマジメ男、進(河合龍之介)はキザな知的ヤクザ、達也(宮野真守)は金髪の純情青年、優(兼崎健太郎)はチャラ男だが母性本能がある。子供たちは4人とも大好き。

鎌苅健太は、そもそもホール係としてホストクラブに入店した、厳密にはホストではない(笑)彼は東京都の窓口に足しげく通い保育園認可の交渉に血道を上げ始め、これまでは流されるままに生きてきた自分が、生まれて初めて覚悟を決めてやり遂げる道を見つける。本作の主人公。

河合龍之介は、厳密には保育園に参加していない(笑)彼はフラッと現れて、鎌苅に好きなことを言って帰っていくだけの男、と誰もが思っていた。プロフェッショナルな彼は、女に貢がせたブランド物を金に換え、保育園の様子も見ながら、ヤクザの親分に根回ししていた。

宮野真守は、影の主役(笑)ライオン丸みたいなど派手な金髪でチャラ男。でも年上の美女に一目惚れし、彼女の娘を預かる。その美女は、実は性転換した男性wだったと分かるのだが、宮野は家族三人で生きていく覚悟を決める。これは、ジェンダーフリーの重要さだ。

兼崎健太郎は、平均的なホスト像(笑)で、最初に赤ちゃんを預かった段階で、ミルクを「ドンペリホワイト、入りまーす」と叫んでいるようなお調子者。万事にお気楽で、熱血漢の鎌苅と凸凹コンビニになる。保育園は子供が相手なので、明るく爽やかに接するのが大事w

冒頭、「Club誠」で大騒ぎする森羅万象。ここ、ホストクラブだぜwと思うも、彼は金の力にまかせてホストに一気飲みさせたり、ドンペリタワーを作るイヤな奴。馴染み客には、心優しい佐倉萌もいる。何だかピンク映画っぽい出だし(笑)でも、ヤクザの勝矢と松浦祐也のコンビが突然の殴り込み、物語は暗転w

勝矢と松浦は、まるでジャイアンとスネ夫のように、心優しいホストをいじめ倒す、嫌な奴。でもジャイアンもスネ夫も立場上で仕方なくいじめるのだ。彼らはヤクザの大親分(外波山文明w)の命令で、夜逃げした社長の借金の連帯保証人にするため、ホストたちを逃げられぬように締め上げに来たのみ。借用証明書に拇印させれば、まず第一段階は終了だ。そして、物語はここから本格的に始まる。

<キャラ紹介>・・・思い入れたっぷりに、書いてみたい
1.健二(鎌苅健太)
母性本能をくすぐりそうな、いつもキョトンとした目をしてるショーユ顔。でも、いつもオドオドと小リスのように自信が無さげな風貌は、子供たちには絶大な人気があっても、女性にはモテない。エプロン姿が良く似合う、保父さんと言う職業が天職ではないかと思う彼には、最初からホストは向いていなかったw

2.進(河合龍之介)
クールなハンサムで、腐女子系に人気がありそうで、同性にも結構モテそうなタイプ。マイペースにホストを続ける彼の私生活は謎に包まれ、実は単なるホストでは無いんじゃ?オーラを放つ。頭の回転も良さそうで、金、知恵、押し、ホストに必要な要素を全て兼ね備えた、健二と真逆の人間像。

3.達也(宮野真守)
金髪の長髪が印象的な、もうチャラ男としか言いようがない、恐らく道ですれ違ったら間違いなく1mはよけそうなヤバい奴(笑)でも、心根は非常に純情で、ホストにあるまじき、水商売の女性に一目惚れしてしまう。これもホストには向いてないだろ。別の仕事を探しとけよw

4.優(兼崎健太郎)
一般的に考えるところの典型的なホスト。よく気が付き、周囲を笑顔で包み、モテモテでも全く嫌味が無い。「Club誠」のナンバーワンホストだったのは当然だし、この店が続けば王者は揺らがなかったであろうイケメン。でも、ひとつだけ足りないものがある。それは、腹黒さだ。

5.美佳(富田麻帆)
都庁職員で、ホストクラブ通い(笑)職場では地味な眼鏡っ子で目立たない。健二が保育園の許認可申請に来た時再会し、あれこれと健二のために陰で力になる。恐らく城定監督の理想の女性(笑)

6.真理(桂亜沙美)
本作で最大の飛び道具。達也が一目惚れするクラブ「ハーフ&ハーフ」のママ。達也も店名から想像できたかもしれないのに、あまりに美人で女らしいので、「私、男なの」とカミングアウトする場面では、観客の私もびっくり仰天!因みに、桂亜沙美は女性である(笑)

7.ダイゾー(DAIZO)
元ホストで、路上ミュージシャンをしながらプロを目指している。保育園に様変わりした職場にギターを持ち込み、「アンパンマンマーチ」を歌って人気者に!主題歌の「Blue Bird」は彼が歌っている。

キャラの紹介で、物語の全貌が見えてくるのは城定作品の良い所で、設定自体が種蒔きの段階、これを刈り取りながら映画が進んでいくので、観て行くうちにどんどんカタルシスが消化されていく、それが「城定映画」だと思う。

ヤクザによって破壊しつくされた店内。残されたのは、健二と優、それに偶然走って来た女が渡した赤ちゃん。この三人だけだった。進は「我関せず」とホストを続け、達也は一目惚れした真理に首ったけ。でも健二と優の二人は、ホストで培った?母性本能で赤ちゃんの世話を甲斐甲斐しくする。

赤ちゃんの母親が、ようやく引き取りに現れた、と思ったら大量のホステスが大量の子供を預け、「Club誠」は保育園状態になり、ホストクラブに戻ることなく、どんどん保育園そのものになっていく。ヤクザが時々集金に訪れにきて脅したり、子供たち同士で喧嘩したり、ドタバタと日常が過ぎて行く。

ある日、健二は気が付く。社長が残した借金は3千万円。でも、保育園の損益計算書を作成してみると、経費を差し引いても月に百万円の利益が出る。これは、都から認可を貰って本格的に経営しながら保育園を目指すしかないっしょ!と、人生の目的を初めて見つけた歓びに浸る。

一方、達也は真理にぞっこんで「ハーフ&ハーフ」に入り浸り、娘の千春を預かって欲しいと頼まれやる気満々、ダンボールに手書きで「新宿区歌舞伎町保育園」の看板を作り「Club誠」の上に貼る。こうして、私設の保育園はいったん、完成した。でも正式に認可は取れていない。

進は、健二と優が保父さん業務にあたふたするのを、冷静に横からアドバイスしつつ、裏では貢いでくれる女のブランド品をせっせと質に入れて、保育園設立のための資金を捻出していた。でもクールな進のこと。やっていることは他の3人には極秘。健二は「勝手な事ばかり言って」と苛立つ。

健二は都庁に保育園の認可申請に行く。係長の千葉誠樹(←ピンク映画ではすっかりお馴染み)が「できる訳、無いでしょ!」と冷たく一蹴。でも、健二の「歌舞伎町には保育を必要としている母親たちがたくさんいるんです。そんなことも分からずに、何が都庁ですか、何が福祉課ですか!」周囲の目を気にして、しぶしぶ対応を始める千葉係長。

都庁で事務員をしている美佳は、健二の顔を見るなり、Σ(゚Д゚)あっ、私が通ってたホストクラブの人だ!でも、職場にバレてはいけないのでwこそこそと健二にアドバイスする「認可はムリ。でも、認証だったら行ける」千葉係長は、認証申請に切り替えた健二に「誰がこんな入れ知恵を?」とブツブツ。

でも、ヤクザの取り立ては甘くなかった。ジャイアン勝矢とスネ夫松浦が組長に呼ばれ、ここで「歌舞伎町保育園」計画は露呈してしまう。外波山組長としては、健二たちにビルから出てって欲しい(←他のテナントのこと考えたら当たり前w)でも外波山は、若い健二の熱意にほだされ始めた。

健二が外波山組長以下、組員たちに360度包囲される中、進が入って来た。手には現金100万円入りの封筒「今日はここまでで、ご勘弁を」他の組員やちは何も反論できない。外波山は、既に決まっていたことのように「3か月の猶予をやろう。それまでに黒字出せ。ダメだったら、潰すからな」

健二は目の色を変えて、新宿区歌舞伎町保育園(←名前が長いな、おいw)の実現のため書類審査の準備に没頭した。でも、保育園を取り巻く周囲で、様々な事件も起こり始めた。

一つは、達也の恋路。彼が一目惚れした「ハーフ&ハーフ」のママ・真理はホントにニューハーフであった(笑)千春が懐かず、保育園でもトラブルメーカーだった理由、それは父親が母親だったこと。彼女には父親が必要なのだ!達也は散々迷った末、真理に渾身のプロポーズ「男でも女でも関係ねえ!三人で暮らそう!」

もう一つ、それは翔太という少年。彼の母親は突然、勤めていたクラブをやめ、客の男と失踪してしまった。翔太は、保育園に払う金を滞納していることを気に病み、「ここに本当にいても良いの?」と、何度も健二に聞いた。そして、翔太は心労で倒れた。健二は申請書類のことも忘れ、翔太を看病した。

都庁の美佳から連絡が来た。認証保育園の枠が一つ空いたのだ。今日の午後3時までに申請すれば大丈夫。でも、健二には翔太の体調の方が心配だった。翔太は、健二の手を握り「ずっと、ずっと、ここにいてもいいんだよね!」と泣いた。健二は、思い立ったように書類を握りしめると、慌てて都庁に向かって走り始めた。

この、健二が都庁に3時に間に合うかどうかの瀬戸際、歌舞伎町から都庁舎まで、新宿の街中を疾走する躍動感が、実に素晴らしい!そしてギリギリ、健二は受付窓口に到着した。美佳に対応を促された千葉係長は、しぶしぶ一言「受領しました」都職員の温かい拍手に、健二は包まれた。美佳は「もう大丈夫」

健二が夢にまで見た「新宿区歌舞伎町保育園」の看板は立派なものに変り、上に「東京都認証」の文字も付いた。外波山組長は、まるでパチンコ屋の開店の時のような、大きな花輪を贈った。4人のホストがオミズ系ビルの中に新設された保育園の前に集合、関係者の前で宣言する「保育のご指名、入りました~!」

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