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幡寿一「LOVE-ZERO=NO LIMIT」

2022年2月国立映画アーカイブで、幡寿一(佐藤寿保)「LOVE-ZERO=NO LIMIT」 (成人映画公開題「いやらしい人妻 濡れる」) 脚本は別所透(夢野史郎)。

ステロイド、ジギタリス、バンパイア、エイズ、ブラッドストーム、次々と登場する、血にまつわる不穏な連想ゲーム、未確認尾行物体(伊藤清美)とその観察者(伊藤猛)と更にその観察者の高校生カップルはチルチルミチル。幻視による連環状の悪夢を描いた世紀末的な傑作。

伊藤猛も、伊藤清美も、下元史朗も、大人はみんな、狂ってる。セーラー服少女の穂村柳明とチンピラの平松大はあてどもなく都会を浮遊するチルチルミチルサクラチル、サクラガチラネバ二ホンチル、二ホンガチラネバサクラチル。そうです、これは映画という幻視、悪夢でも淫夢のようにも見えて、実は眼球に写っただけの幻。

全ては連想ゲーム。正解なんか、無い。清美はステロイドの副作用に悩み、伊藤は下元から勧められたジギタリスを飲む。平松と柳月はブラッドストームでハイになり、それを見た伊藤は清美がバンパイアに見えた。エイズ宣告された伊藤は、俺の汚れた血を清美に罹すゲームの決行に迷い、清美にメッタ刺しされ無理心中する、これはグルグルと脳内で回り続ける妄想。

幻覚だから、その内容はヤバ過ぎるほどにヤバい。しかも観客一人ずつが、エピソードを積み重ねたトリックサスペンスを紐解くように、自らが持つ心の中の病理現象を分析されていく。それはすなわち、主要な登場人物達は何を企んで、何を成し遂げようとしているのか、それは夢想の中でしか成し遂げられないインモラルでタブーでしかないフィクションが万華鏡のように妖しく転換する。

私が受け止めた話しはこうである。あくまでも私が謎といて見ただけのお話。ロールシャッハテストや箱庭療法を受けているように映画を観て感想を書いている自分。もはや80年代までの「こうだろ、こうに決まってる」が消滅し、自分だけが信じてる自分しか見えない時代の物語。

内科医の下元は、妻で皮膚科医師の清美に愛されている。だから彼女は危険なステロイド被験者をかって出てくれる。でも下元は自分をつけ狙っていると思う清美が不気味で仕方ない。いっそ殺したい。都合良くエイズ患者の伊藤を見付けて、彼に清美の観察を依頼する。

清美は下元を尾行する物体だが、真偽が分からぬ未確認。でも清美の方は、エイズで汚れた血清製剤を流通させている夫の下元と愛人で片腕のさとみの命を明確に狙っている。目には目を、血には血を。二人の血液を抜いて致死させるバンパイアに私はなればいい。

伊藤はエイズの処方箋として下元に勧められたジギタリスを、予感めいたものを感じながら飲む。エイズの血を下元に採血され、ジギタリスを服用して狭心症の発作に苦しむ伊藤。でも、そんな彼に観察され続けるエクスタシーに、清美はついに伊藤と一戦を越えてしまうが、彼を愛するが故に血を抜けず、そのまま刺し殺し、エイズ血清製剤を流通させた悪の元締めである夫の下元が用意したジギタリスで伊藤と無理心中を果たした、という推理である(←我ながら、なげーよw)

冒頭で、伊藤猛がフラフラと新宿東口の交差点付近を歩きながら「俺が街を彷徨っているのか、それとも街全体が彷徨っているのか・・・」怪し気な清美を尾行し、二人が尾行する、される、観察する、されるにまるでセックスのような快感に酔いしれる。

キャラ設定が明確になっているのに対して、時制は前後左右がグルングルン回り、でも分かり辛いかと言えば全くそういうことはなく、登場人物それぞれがなぜ今、こんな現実、いや、ホントは恐らく夢なのだろう、その渦中にいるのか、ここだけは明示したうえで、後は黒魔術のようにスクリーンに吸い込まれるだけで良い。

伊藤猛は田舎の教師だが、教え子と関係を持ち、その気になった所で彼女は逃げた。じゃあ、彼が都会に出てきたのは何のためか、この情報は明らかにされない。彼女を追いかけて上京したのか、田舎に居づらくなったのか、自ら田舎を捨てたのか、定かではないが、でも一つだけ確かな事、彼は新宿という大都会を彷徨い歩いている。自分が彷徨っているのか、都会の方が彷徨っているのか分からない位に。

伊藤清美は皮膚科医で、夫の下元史朗は内科医。清美は医者の使命として自ら夫の研究するステロイドの被検者となって、その効果を自分の皮膚で試している。一方で、この夫婦のセックスは互いの肉体に嚙みつき合って血をすする、バンパイアのような異様な雰囲気がある。下元は妻の清美がいつも自分を尾行している恐怖に怯え、不気味がっている。

平松大と穂村柳月のヤングカップル。セーラー服姿の柳月は学校に通っている形跡の無い家出少女。チンピラの平松は縄張りを持っていて、伊藤猛が柳月のオナニーを覗こうとするとみかじめ料として千円取る(←安いw)あてどもなく大都会新宿を彷徨う若い二人はチルチルミチルの青い鳥兄妹のようで、生きている実感のないフワフワした世紀末的な佇まい。

伊藤は下元に、清美の観察者になって欲しいと頼まれた。清美が下元のことを尾行しているらしいのだ。そして、下元は平松にも伊藤の観察を頼む。平松→伊藤→清美→下元。新宿の雑踏の中で観察や尾行を続ける男女の窃視する快感、観察される快感が交錯し、それは淫夢となって各々の脳内に淫らな幻視を誘発した。

医師の下元は伊藤に告げる「君はHIV陽性だ」そして「これを飲めばいい」と渡したのは、解毒作用があると言わんばかりにジギタリスwww伊藤はこの薬を飲んで急に昏倒して平松&柳月に救急車を呼んでもらったりするが、実は元気でホントにこの薬を飲んだのか?それは定かではない。一方で、清美はステロイドの副作用に悩む。

平松と柳月は伊藤に「これ、知ってる?スゲエ気持ちイイんだぜ、ブラッドストーム」注射器で自分の二の腕から血を抜き、それを相手の二の腕に注射する。相手からも同じことしてもらう。平松と柳月は「これって、ヤクよりサイコーだぜ!」血液交換してエクスタシー。伊藤は「そんなのもありかな」と思ってた。

伊藤はサングラスに黒づくめの服に黒いヒールで魔女のように歩く清美を尾行しながら、彼女に誘われてホテルに入る。「私は医者なの。だから、あなたの生命を奪ってしまうだけの血液を抜く致死量を知ってるの」伊藤の首筋にナイフを当ててグサリ。悪夢から目が覚めた伊藤は血を取ろうとする清美を「バンパイア」と呼んだ。でも、なぜ彼女はこんなことを?俺はエイズだ、清美とブラッドストームしたら、二人ともあの世行きだよな。そう思うと伊藤は下元に「あんたも非情な男だね」と思った。

下元は平松に観察者の仕事を依頼しているので「どうだい」と近況を報告させる。報酬を受け取った平松は、「ブルセラ、どうです?」下元に勧め「じゃあ、一発ヤルか」ホテルに柳月を連れ込んで、セーラー服を脱がし、純白のパンティとブラが艶めかしい柳月を手マン、クン二してねっとりと犯した。

一方、清美は医師の使命として、エイズの血が混じった血液製剤を流通させている組織を根絶させようと、組織の配下であるレズビアンのしのざきさとみに接触。ラブホに連れ込んで乳首を擦りあうような濃厚レズプレイの後、さとみの血を抜いて殺した。清美は医師だから、生命に最低限必要な血液の量を把握していた。

伊藤はHIVにかかっている恐怖から逃れようと、瓶に入ったジギタリスを一気飲み(笑)そのまま清美を尾行し、入ったホテルで清美に抱き着かれる。「私、あなたにずっと尾行されているのが物凄い快感だったの」二人は全裸でねっとりと愛し合った。

清美はコトが済んで、( ゚Д゚)と気が付いた「あれ?ステロイドの副作用が出ていない」不思議がるが、それを聞いた伊藤は深い絶望の淵へと陥った「あんたは夫の下元を愛してるんだ。だから、下元の前では副作用が出るのに、俺の前では出ないんだ!」

清美は「違うのよ」全裸の伊藤を無我夢中でメッタ刺しにして殺した。そしてジギタリスを一気飲みして伊藤の横で自害した。そこに平松&柳月が入って来て「これが無理心中って奴?」平松は「そうだ!」(←そうだ、じゃねーよw)「これよりもっと、究極に気持ちイイ事、しよーぜ」注射器を掲げ、エイズに罹った伊藤の死体の二の腕に注射した血液を流し込み、4人ごと心中。

これで清美も、伊藤も、平松も、柳月も、全員死んでしまったのか?いや、新宿の雑踏をサングラスかけてカッコよくキメてるのは柳月。平松が「よお」と声をかける。サングラスの女の顔はやがて清美に代わり、サングラスには伊藤の顔が映った。みんな、生きている。きらめく青空に、注射器をかざして、血液がピュッと流れ出した。




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