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城定秀夫「デコトラギャル 瀬菜」

城定秀夫「デコトラギャル 瀬菜」 脚本は清水匡との共同。

ロミオとジュリエットさながらのロマンチックな恋愛譚に、宮沢賢治の幻想譚をブレンド。イケメンヤクザ(粟島瑞丸)がストリップ小屋地回り中に、盲目のストリッパー(栗林里莉)に一目惚れ。粟島の里莉に対する切ない純情は、麻薬取引の現金を奪って里莉の目を治すためデコトラに乗せてもらい病院へと一直線。ロマンチックすぎる純愛譚の感動作。

「デコトラギャルシリーズ」4作目。吉沢明歩から二代目デコトラギャルを継いだ?原紗央莉は、あっきーと真逆の個性を発揮。あっきーが天使とすれば、紗央莉は悪魔(笑)165cmの身長にいかり肩にダミ声。演技がほとんど棒なところまで、もうこれは「二代目ゴッド姐ちゃん」襲名でも大丈夫な逸材だったw

モチーフは、まず宮澤賢治「銀河鉄道の夜」である。ストリッパーの里莉は盲目だが、幼い頃、お母さんにこの童話を読み聞かせしてもらっていた「月は出ているの?星は輝いてるの?汽車は飛んでるの?」目が見えない里莉にとって、まだ見ぬ想像の夜空は、宮澤賢治に負けないほどにロマンチックであった。

「銀河鉄道の夜」は童話ではあるが、その内容、意味するところを理解しようとすると、とんでもなく難解である。だから、母親が子供に読み聞かせれば、アッという間によく眠れる(笑)本作での最大のハイライト、夜空に輝く満月に、吸い込まれるようにデコトラが飛んでいくシーン。息を呑むほどの美しさ。汽車ではなく、デコトラだがw

劇中で登場人物たちが何度も繰り返し、歌い、耳について離れなくなる宮澤賢治作詞作曲の童謡「星めぐりの歌」 ♬赤い目玉のサソリ(さそり座のアンタレス) 広げた鷲の翼(わし座のアルタイル) 青い目玉の子犬(おおいぬ座のシリウス) 光の蛇のとぐろ(りゅう座)♬ 夜空に見えるお星さまを、印象のままに繋げた、まるで詩のような言葉遊び唄。

デコトラギャルシリーズでは、というよりも、城定監督のOV作品の中で、男性が主役を張る映画は非常に珍しい。本作の主人公は粟島瑞丸。知る人ぞ知るジャニーズ系甘いマスクのイケメン俳優で、ネイティブの関西弁で惚れた女への切ない思いをぶっきらぼうに打ち明ける。彼の醸し出す、世間というものに汚されていない若さが胸に迫ってきて、もう堪らない!男でも惚れてまうよ、粟島さん!

一方、盲目のストリッパーを演じる栗林里莉は、主役だったはずの原紗央莉をぶっちぎって、本作の実質的なヒロインとなる。孤児で盲目の彼女は金のためにヤクザに買われ、ストリップ劇場で踊り、その2階のちょんの間で売春していた。里莉と粟島の出会いは、粟島が劇場支配人(坂入正三)に借金取り立てに来た時に、止めに入った里莉に一目惚れしたこと。

坂入は里莉に「社長さんを二階でおもてなししろ!」と命令。ちょんの間に入った二人。ここで初めて粟島は、里莉が盲目と知った。机の上には童話「銀河鉄道の夜」の絵本。幼い頃、母親が読み聞かせしてくれた。でも、もう母親はいない。私は天涯孤独。その境遇は粟島自身と一緒だった。

里莉には「社長さん」の顔が見えない。里莉にとって社長さんが若いとか、イケメンだとか、全く関係ない。社長さんは他の男とは違って自分を抱こうとしない、優しい人。里莉は社長さんに恋をしてしまった。粟島は里莉にお願いし、ステージ上で自慢のストリップを披露してもらう。そのあまりの美しさに思わず拍手を送る粟島。若い二人はこうして熱烈な恋に落ちた。

ヤクザの粟島と娼婦の里莉。二人の純愛には、困難な前途しかない。粟島はどうしても、宮澤賢治が見たような、美しい夜空、まん丸お月様や、満点に輝く星たちを里莉見せたかった。目の手術のためには多額の現金が必要、粟島は組の金に手をつけて、里莉と一緒に紗央莉のデコトラに乗せてもらい、病院へと向かって逃走を始めた。

デコトラが病院に向かう途中、里莉が尿意を催し野原に座り込んで小便していると、ニワトリが近寄って来た。「飛べますか?」これを聞いた粟島は「飛べるさ」ニワトリを担いで、大空へ放した。すると確かにニワトリは少し空を飛んだ。飛んでみようと思えば、何でもできるということ。

デコトラが病院に到着すると、そこには組長の石川雄也たちが待ち構えていた。病院には目の手術をしないよう脅し、「お前ら、殺してやる!」そして粟島は、石川組長たちに半殺しの目にあう。でも奇跡が起きた!紗央莉の機転でデコトラが発進して逆襲を開始。逆に石川を追い詰めた粟島。だが彼は「組長を殺せば俺の命もない」と分かっていた。石川は「俺たちを殺さなければ、これまでのことは全て水に流してやる」粟島は思う。石川たちの腕や脚を撃ち抜き、その後に自分は自殺して、何とか里莉だけは助けよう。

ところが、呆然と立ち尽くす粟島の背後から、里莉が見えない目でフラフラ歩いてくる「私、目が見えないけど、社長さんのことだけは、見えるのよ」背後からガバッと粟島を抱きしめる里莉。粟島も、里莉をきつく抱きしめた。粟島は「俺は死ぬよ。お前は好きな道を選べ」でも、ここで紗央莉が口をはさむ「あんたが死んだら、里莉はどうなるのさ!」

デコトラと別れを告げる二人。紗央莉が「社長、これからどうすんの?」粟島はカッコよく呟く「どこへでも行けるさ、こいつと一緒なら」顔を傷だらけにしながらも前を向く粟島は、盲目の里莉と手と手を取り合い、国道を歩き始めた。

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