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瀬々敬久「青空」

アテネフランセ文化センターで、瀬々敬久「青空」(成人映画公開題「獣欲魔 乱行」 脚本は佐々木宏との共同。

家族ぐるみでwスーパーに毒入りチョコを置いて回っていた孤独な少女モモ(中島小夜子)が、東京のテレクラで冴えないレンタカー屋のオヤジ(小林節彦)を引っかけ、祖父のいる京都までキャンピングカーで送ってもらう、ここに小林の借金取り立てと親分の養女だったモモの行方を捜しに来たヤクザ(伊藤猛)も合流。ロードムービーは悲しい結末を迎えるが、社会が良くならない限りグリコ森永事件は時代を超えて再生産されるぜ!文字通りw毒の効いた傑作。

瀬々監督の社会正義としてのテロリズムへの憧憬、それに伴う甘酸っぱいロマンティシズムが炸裂!アナーキストが弱者として絶対的な世間に抵抗を続ける様は、当事者である男女間の恋愛においても、戦時中や学生運動のような非常事態時における異様な性的昂まりを導き出す。文句なしの傑作です。

80年代後半と言えば、リアルに多感な青春時代を直撃した私にとって「グリコ森永事件とかい人21面相」「テレクラにハマるダメオヤジと援交少女」「何か生きる希望を見つけ辛いバブル末期の世紀末的な空虚感に包まれた独特の時代」バブルがはじけた終末感漂う当時の世相を鋭くえぐり取った結果、現代でも時代を超える作品として非常に見ごたえがある。

伊藤猛の役名はおよそヤクザとは思えない「仁丹」レンタカー屋の冴えないオヤジ小林節彦の役名は住職を思わせる「永春」そしてヒロインの中島小夜子はキュートなフランス映画に登場する美少女のような役名で「モモ」ともすれば暗く澱んでしまいがちなストーリーに、生の息吹を吹き込むようなキャラクター。

まず、ロマンポルノ的に言えば(笑)女優はたった二人しか登場しません。しかもピンク映画的に売りものである伊藤清美の濃厚な濡れ場はラスト10分を切ってから。ハダカ映画としてはかなり特殊な構成を、一人で中島小夜子が背負うが、彼女のキュートで謎めいた小悪魔的な魅力が、実はこの映画の全てと言ってよい。

中島小夜子は瀬々監督の商業映画デビュー作「課外授業 暴行」でも同じ「モモ」というヒロインを演じた。作風が相米慎二「ションベンライダー」ぽいのにそうならない、それは中島小夜子が可憐な処女性と、大胆な大人の色気を同時に備える、かなり稀有な女優だからだったではないか。

スクリーンにアップで映し出される小夜子の表情は美しい。何を考えているのか分からない、目、口、表情は、逆に彼女の心の透明性、汚い社会に染まらない清らかなイメージを強調し、ラスト近くで登場する伊藤清美は、小夜子と正反対の生活に疲れた人妻のリアリティを醸し出す。

この映画は、ロードムービーであり、東京から浜松、滋賀で途中下車し、最後に京都に到着して、旅仲間は瓦解する。その劇的な一部始終は、登場人物の背景にある「グリコ森永事件」「ヤクザ同士の抗争」と、その裏側にある隠された事実を徐々に暴き出すサスペンス風味を湛えている。

ピンク映画デビューした頃の瀬々監督の作品って、何てこんなにロマンチックなんだろうと思う。瀬々作品は、時系列に置き直すと、時期によって大きな変化がある。私が好きなのは圧倒的に初期の作品で、若い男女がギャングになって理不尽な世間に立ち向かう、若さのロマンチシズムとヒロイズムに満ち溢れているからだ。

そこには、90年代半ばからの瀬々作品で顕著になって来る、セックス自体に観念的なものを持ち込む手法が全くない。物語の中に恋愛感情があり、男女の濡れ場がある。この若さこそが初期瀬々作品の魅力であり、恐らく何度観返しても、そのたびに新鮮な感動を得ること、必至である。

この映画で瀬々監督が描きたかったと思うのは、かい人二十一面相が持つテロリズムの正当性である。毒入りチョコを混入させ無差別殺人を試みること自体は重大犯罪であるが、そもそもこの事件は何が発端で起こったことなのか?それを紐解くことが、物語そのものだと思うのである。

冒頭、高速のトンネルを抜けるデカいキャンピングカーから始まる。伊藤がビルの屋上で、元ヤクザでレンタカー屋を経営、借金返済に滞る小林節彦と一緒に、夕焼けを背に立ちションしている。伊藤のシルエットが手足が長くヤクザの持つ迫力を全身で表現していて、その存在感にまず圧倒される。

伊藤は小林から金を取り立てようとするが、屋上か下のお墓の中で「鬼ごっこしてるぞ」若い女を追いかけるヤクザ二人。まさかその女の子が小林と因縁の仲になるなんて、彼は思いもよらなかった。

小林は死のうと思い、この世の最後の思い出にテレクラに入った。電話を取ると、女性の声のはずが「食べたら死ぬで・・・」みたいな不気味な合成音声が一瞬流れた後、可愛らしい女の子の声になった。それが小夜子であった。二人は新宿アルタで待ち合わせした。

小林は、小夜子に「祖父のいる京都まで送って欲しい」と頼まれ、借金をバックレる良い口実とばかりに、自殺はいったん思い止まりwレンタカー屋の商品であるキャンピングカーで高速に乗った。小夜子が「どうして送ってくれるの?」小林は「西に行けば極楽浄土があるからな」

伊藤は兄貴分の下元史朗にヒットマン役を命じられた。敵対するヤクザの親分が、親分が情婦にしていた若い女を寝取ってしまったらしい。伊藤はミッション通りにターゲットを始末するが、ケチな下元は報酬をくれない(笑)伊藤は身の危険を感じて、高速を西へ向かって逃走を始めた。

小林は小夜子を京都に送る道すがら、サービスエリアで家族に電話を入れる。「このおじさん、私と心中するつもりかも?」と思っていた小夜子は「おじさん、奥さんいたんだ!」とびっくり。ここに鬼の形相で伊藤が走って来る「ここで遇ったが百年目!」www伊藤が探していた親分の養女とは、小夜子のことであった。

伊藤は小林と小夜子を両方とも捕獲せねばならず、運転席の窓から強引に車に乗り込み、宿敵だった伊藤と小林は運命の再会(笑)伊藤は小夜子に対して恨み百倍、キャンピングカーの中で小夜子を裸にして犯した。でも、犯されているにも関わらず、小夜子は見かけのような処女ではなく、アンアン大胆に感じていた。

三人は日が暮れて来たので、浜松で一泊することにした。夕暮れの中田島砂丘を散歩する三人に突然、暴漢が襲い掛かった。伊藤の悪い予感は当たっていた。自分は邪魔な敵対する親分を消すために利用されただけ。冷血な下元は伊藤の命を狙い始めていたが、喧嘩の強い伊藤は暴漢たちを撃退した。

伊藤から逃げるようにバックレた小林は、再び伊藤と出会ってしまい、覚悟を決めた。東京のレンタカー屋に残る奥さんに電話をかけていた。「俺は借金取りに追われていて危険だ。離婚すればお前の安全は保証される」でも、小林の奥さんは納得していない様子であった。

浜松で一泊した夜、小林は小夜子に「なあ、やらせてくれよ」としつこく誘い「仕方ないわねえ」小夜子も体を開いた。セックスマイスターの伊藤と違い、溜まりに溜まっていたw小林は正常位でワッセワッセ腰を振るとあっという間に射精した(笑)

浜松から出発した三人が滋賀に入ると、小夜子が琵琶湖畔で「ここで車を停めて!」小夜子は湖の上で小林と二人きりになると自分の素性を明かし始めた「私は祖父、両親、弟と一緒に全国を旅して各地のスーパーに毒入りチョコを置いて回った。とっても楽しかった。でも、両親と弟の三人は韓国に身を隠そうとしてKCIAに消されたの」

小夜子は刹那的に湖にザブン!飛び込み、小林は「お前一体、何考えてるんだよ!」小夜子を助け出すと、そのまま小林はどこかに消えた。伊藤が小林に代わって小夜子を京都まで送り届けることになった。不気味な廃墟ビルに入っていく(←ヘブンズストーリーやすけべてんこもりを思い出すw)小夜子はまるでサイコパスのように、この廃墟ビルの由来と自分との因縁を語り始めた。

「この廃墟ビルは万博を当て込んで建設されたけど、途中で建設中止になって建物が取り壊されないまま廃墟として残ったの。私の恋人は、このビルから湖畔に飛び込んで死んだ。」小夜子のぶっ飛んだとんでも話を聞いて伊藤は「俺に恋人の代わりをやれってか?」

小夜子は伊藤に「私を抱いて!」廃墟ビルの中で全裸になると、伊藤を求め、立ちFUCKで愛し合った。そのままコンクリートの打ちっぱなしの床に小夜子は仰向けになり、伊藤は何か神聖な儀式を執り行うように、小夜子を正常位で抱いた。腰をピストンされて悶える小夜子の表情はキャンピンクカーの中で見せた娼婦ではなく、可憐な少女そのものであった。

伊藤と小夜子は、ようやく京都に到着した。小夜子は祖父が待つ家に到着した。祖父が冷えたスイカを持ってきた(←悪い予感しかしねえw)祖父、伊藤、小夜子の3人でスイカにかぶりついた時、小夜子の中で確かに家族が再生した。でも次の瞬間、祖父は喉にスイカのタネを詰まらせて、即死した。

伊藤と小夜子は、川岸の荒れ地に木の棒を組んで十字架を作り、小夜子の祖父の遺体を埋葬した。伊藤は生活のため、ケチな借金取り立てを始めた。テレクラで買った買春代が払えない客を小川を走って追いかけ格闘し、濡れてしわくちゃになった1万円札を眺めながら、伊藤は「俺、一体何してんだろう?」と思った。

伊藤が成り行きで小夜子と二人で生活を始めた時、家の前の小川を、琵琶湖からワープしてきたのか(笑)ボートを漕いで、小林が再登場。伊藤は思わず「お前、これまで何やってたんだよ!」小夜子が小林に近づくと、小林はポツリと言った「俺、かい人二十一面相になる」

場面が急に変わり、旅館で伊藤清美が全裸で仰向けに寝ている。テレビのニュースが「かい人21面相から4年ぶりの脅迫状が届いた模様です」と伝え、伊藤は「これは小林の仕業に違いない」と確信した。伊藤はこれまで清美に「俺は小林と一緒に京都に向かっている」と連絡してきたが「もう小林はいない」清美にウソをついた。

清美は伊藤に「旦那と会えないなら、もう私は死ぬ。最後に抱いて!」伊藤は清美と舌を絡ませ合いディープキスした後、正常位で激しく犯し、清美は騎乗位に体位を代えて男の精液をむさぼった。不思議ちゃんルックの小夜子の濡れ場と違い、ピンク映画らしいフェロモンが濃厚に感じられるこの場面が、本作のクライマックス。

小林が小夜子と仲睦まじく神社を参拝していると、伊藤が小林に「奥さんがお前に会いに来てる」と伝え、清美は小林に京都でようやく会うことができたが、小林は「頼む、俺と別れてくれ」小林は、伊藤に消される恐怖はすっかり消え去っていて、小夜子と二人で人生をやり直そうと思っていた。清美はそのことを悟り、発作的に小林を刺殺した。

伊藤と小夜子は、小夜子の祖父の墓を作った十字架の下に、小林の遺体も埋めた。小夜子は伊藤に「全国を旅しながらスーパーに毒入りチョコを置いて回らないか」と誘った。でも、伊藤は新京極のアーケード街を歩いている最中、下元配下のヤクザに急襲され、銃で撃たれてあっけなく死んだ。

小夜子は再び、一人ぼっちになってしまった。川岸に作った祖父と小林と伊藤のお墓をじっと見つめながら、小夜子は思った「一緒に毒入りチョコを置いて全国を回ってくれる人を、テレクラで探さなくちゃ」

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