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田尻裕司「不倫する人妻 眩暈」

シネロマン池袋で、田尻裕司「不倫する人妻 眩暈」 脚本は西田直子。

バツイチ中年の夫(佐野和宏)が失業し、パートに出た人妻(佐々木ユメカ)は、5年前に職場不倫していたバツイチ先輩(松原正隆)と再会。夫の佐野が元妻(秋川百合子)の就職斡旋を断ってまで就職にもがく中、松原と不倫の末に米国に来て欲しいとプロポーズされたユメカの選択とは?揺れる女心を繊細に描いた秀作。

気丈な女、気の強い女を演じることの多いユメカが男に振り回されるか弱い人妻を好演。パートに出て元カレと出会うことをきっかけに変わる、劇的に変わる。選ばれる側から選ぶ側へ、人生を自分で決めることに目覚めた女性の成長物語を徹頭徹尾、ユメカの目線で捉える。

時制は驚くほどに短い。人妻ユメカが独身時代に勤めていた職場にパートに出て歓迎会をしてもらい、無職の夫は人生に目覚めて再び働き出し、職場の元カレはユメカに一緒に渡米して欲しいとプロポーズ。ユメカは重大な決断をしたことで生き生きとする。起きることはただそれだけなのだ。

表向きの話としては凡庸に過ぎるが非常に映画的なのはユメカが夫と元カレと、何気ない日常の中にドラマチックな場面を掬い上げてユメカの繊細な乙女心を描写。ラブシーンとか美しすぎて逆に濡れ場が興を削いでしまうと思えるほどピンク映画と言うより大人の恋愛ドラマ。

などと、柄にもない生真面目な感想を書き始めたりするんだけど(笑)ピンク映画というジャンルでここまで真摯に作り込むって素晴らしいことだと思うし(直前に深町章の艶笑譚を観たから言ってる訳じゃない、いや、大いに関係あるかw)観る側としても襟を正して観ちゃうのよね。

国映の作品、ことに田尻監督に特徴的と思うのは最初に観始めた段階での映画の手触りがVシネマみたいな、地方の成人映画館でちょくちょく上映してるレジェンドピクチャーやカレスコミュニケーションズのような作風に墜ちる危険性。でも本作に関しては全くそういうことはありません。

観る者をハッとさせるような、ドラマチックで美しい場面の演出が田尻監督ってホントに巧みだと思うのよね。ピンク映画は濡れ場を追いかけて行けば作品の全体像を掴めることが多いけど本作ではそうはいかない。ヒロインのユメカと夫、元カレとの劇的な場面にこそ味がある。

下世話な話ですねけどね、本作の濡れ場に関しては・・・っておい!これピンク映画で合ってるじゃねーか(笑)合計5回ある濡れ場のうち4回が佐々木ユメカで1回だけ佐倉麻美。秋川百合子(本作はあきのなぎさ名義)は私も特に見たかった訳じゃないけど脱ぎ一切無しでツートップ仕様。

佐野和宏の哀しきリストラ中年役は流石の存在感といって良いが、本作で最大の注目は「ちむどんどん」のまもるちゃん役で一躍、全国区の人気者になった松原正隆(ホクロまで松井秀喜似w)がユメカにも麻美にも、他にも女いるだろ!超モテモテ男という意外性を発揮するw

何度もリフレインするモーツアルト「アイネクライネナハトムジーク」これはユメカが独身時代に妻子持ちの松原と不倫していた時のいわばテーマソングのようなもので、再会しても不倫沼に落ちないはずだった二人にからくり人形がこの曲を演奏してしまい二人は恋に落ちた。

平凡な人妻などころか昔気質の難しいバツイチの中年夫の佐野を抱え行き詰まりの人生を送っていたユメカにとってパートに出たことで松原先輩と再会し渡米の誘いまで受けたことは一夜の夢の如く彼女の目の前に現れて去っていく儚い幻。でも元気づけるだけの力になった。

冒頭、ユメカはバイトの面接に来て昔の不倫相手だった松原と出会う。そして予期せぬことに松原に昔働いていた会社に誘われ再びデザインの仕事をするようになる。でも夫の佐野は内心面白くない、妻を働きに出すなんて恥ずべきことだと思ってる悪い意味で昭和のオヤジ。

佐野とユメカの夫婦生活は無難に通過して、ユメカは元いた職場で働き始め、歓迎会で泥酔し、松原に送ってもらっている最中になんかイイ雰囲気になってしまう。ユメカの記憶の中に現れる、5年前に不倫して対面座位で熱くFUCK中に鳴った一本の電話のほろ苦い思い出。

松原が大好きなリンゴを齧り合って貪るように不倫セックスしてたあの頃の私。松原の奥さんから「子供が出来ちゃったみたい。早く帰って来て♡」ユメカは衝撃の電話を聞くと、齧りかけのリンゴを何個も松原に投げつけた。あの時全ては終わった。私は松原と別れ会社も辞めた。佐野と結婚した。

なのに、どうしてまた松原さんと出会うの?雨の中、佐野が迎えに来てくれた。佐野は松原の名前を先刻承知していた。そんな佐野の方も、別れた妻の百合子と会っていた。仕事を斡旋してくれるという。佐野は申し出を断り、自分で将来切り開く決心、もう仕事なんて選ばない、工事現場で働くことにした。

佐野が百合子と別れた理由、それは妻に仕事をさせる、させないという価値観の違いであった。仕事をするなと喧嘩してそれが原因で別れた妻は成功して俺に仕事を斡旋してくれている。この申し出を受け入れるのは俺にとって最大の屈辱だが背に腹は代えられない佐野の苦悩。

ユメカは、職場に忘れ物を取りに来たはずみで、松原と麻美が抱き合ってキスしている現場を見てしまう。でも松原は色男、屋上で光が差し込むユメカの髪の毛を「綺麗だね」触り、焼けぼっくいに火が着きそうになる。一度は別れた二人、理性を持って対処しようと思ったのだが。

ユメカは松原と二人で飲みに行った晩、一度は別れたがアイネクライネナハトムジークの調べに辛抱堪らなくなり、ユメカは松原の元に駆け寄ると二人は熱く抱き合って、ついに一線を超えた映像のカタルシス!それを知った麻美は松原に近づき、何とか繋ぎ止めようとエロいセックスで対抗!

でも松原、麻美に「彼氏は元気?」そっけない。バツイチの松原はユメカという存在が現れ、ニューヨークに拠点を構えた友人の元に行く際にユメカを連れて行きたいと思うようになる。一方の佐野は工事現場で資材運び。落差が大きい二人の男を前に思案してしまうユメカ。

佐野がCADを勉強して図面づくりしてる姿を見て、ズボンを下ろしフェラして服を着たまま騎乗位で腰をガンガン振るユメカ、ハダカじゃないけどエロいからまあいいか(笑)でもね、渡米が決まった松原はユメカにプロポーズするんだ「もう一度、やり直さないか?」って。

ユメカは松原の部屋で後背位、対面座位、騎乗位で熱くFUCKしながら「今日は結婚記念日だったっけ・・」ぼんやりと思った。そして帰宅すると、佐野が手を引っ張って車に強引に乗せた。行先は結婚式を挙げた教会。「6年目もヨロシク!」佐野はユメカにネックレスを贈る。

ユメカはネックレスを受け取らず「ごめんなさい」呆然とした佐野は翌日、ユメカのパート先に怒鳴り込むと「この野郎!」松原をタコ殴り。「ユメカさんを下さい」土下座する松原をガン無視して外に出た佐野を追いかけるユメカ。佐野はユメカをじっと見ると「良かったな」

佐野との離婚届に判を押し、松原と成田空港へ向かうスカイライナーの待ち合わせをするユメカ。先にホームで待っていた松原が「バツなんだろ。遅いじゃないか」ユメカは「さようなら」涙も見せず、松原と別れると笑顔で帰宅する途中、憑き物が落ちたように走り出した。

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