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佐野和宏「しがみつく女」

ラピュタ阿佐ヶ谷で、佐野和宏「しがみつく女」(成人映画公開題「痴漢ONANIE覗き」)

豚足好きな自動車解体工の夫(佐野和宏)と、夫婦水入らずのスナック勤めの妹(岸加奈子)のワンルームマンションに、ある日突然闖入して来る元高校教師なのにオミズ系の派手な姉(中川みず穂)。古典的名画「欲望という名の電車」をベースに愛と嫉妬に翻弄される男女をピンク映画版に大胆翻案した野心的な傑作。

タイトルに痴漢とONANIEと覗きが三連コンボで表記されてるけどそんなシーンあったっけ?ああ!あるとすれば、佐野がツンツンしてるみず穂に見せつけようと妻の加奈子とガンガンFUCKしてそれをみず穂に覗かせる・・・っておい!覗いてんのって佐野じゃなくてみず穂の方かよw

扇情的なタイトルと裏腹にピンク四天王、殊に佐野監督の作品だから濡れ場は完全にないがしろ(笑)その割にピンク映画として違和感を感じないのはベタ過ぎるほどのロマンチシズムを感じるから。岸加奈子は美しく中川みず穂はミステリアスに、テーマを持って女優を撮っている。

元ネタと思われるエリア・カザン「欲望という名の電車」はホントに大昔、学生の頃観たっきりで若さのせいか「随分と古くさい映画だなあ」位の記憶しか残っていないのだけれど、佐野監督のピンク映画版を観てみると「結構面白いじゃん、これ!」佐野とみず穂の間に漲る緊迫感スゲエ!

60分の尺を通してハイテンションが持続するのは、それが「欲望という名の電車」を明確にオマージュしつつも、一方でブランチに当たるみず穂を極度のメンヘラ女にデフォルメして、佐野の内面にあった獣性を引き出してしまう、緊張感あふれる心理劇にヒリヒリ感じたい!

元ネタで言う所の若未亡人ブランチ役は演技力が必要で、みず穂と加奈子の配役を逆にした方が映画が安定したと思うんだけど、佐野監督は自分の奥さん役を加奈子にして役得で4回濡れ場ヤリたかったのかなあwブランチ役を加奈子に振るとスタンリー役の佐野と濡れ場無いからねw

スタンリー佐野の職場である産廃処分場と加奈子と暮らす自宅は近接していて東急世田谷線の沿線。何度も登場するチンチン電車が欲望という名の電車なのであろうか?この電車で妹の加奈子を訪ねて来たブランチみず穂にスタンリー佐野が苛立ちを爆発させ獣性を剥き出しにする。

中川みず穂も岸加奈子もロマンポルノ末期に活躍した女優だけど、素面でもイイ女を演じられる大人の女性の色気を纏った加奈子に対し、みず穂はロリ感性をくすぐる黒人好きの不思議ちゃん役が十八番だった癖の強い女優で、佐野監督はブランチみず穂を内面より外見重視で描く。

「欲望という名の電車」をびっくりするほどにオマージュしてるピンク映画なので、ブランチ中川みず穂、スタンリー佐野和宏、ステラ岸加奈子、ミッチ小林節彦、梶野考少年、新聞集金人今泉浩一と表記すればストーリーはほとんど丸分かりになってしまう、スゲエ作品と言えるw

この作品を観て斬新だなあ、と思ったのは、ブランチみず穂も、スタンリー佐野も、ステラ加奈子も、ミッチ小林も、キャラクターは造形から入っていて、彼らの抱えた過去や現在はほとんど描いていない。描かないからこそ、不条理な人間喜劇のような味わいが出て来る不思議さ。

ピンク映画としての濡れ場の要請は、スタンリー佐野がステラ加奈子と夫婦生活を4回もワッセワッセとヤルばかりか、ブランチみず穂の夫婦生活妨害に苛立ちが頂点に達した佐野が仰向けになって加奈子に「スカートまくれ」「跨って立て」「パンティ脱げ」もうやりたい放題w

一方、高貴なお方ブランチみず穂には中々濡れ場は訪れず、風呂上がりにスタンリー佐野にハダカ見られたり、ステラ加奈子と姉妹入浴したり、新聞集金人今泉を誘惑して寸止めプレイからシャワーシーンを覗かれたり、最後に飛び道具的にミッチ小林に犯されたり、佐野はみず穂には一切絡まずw

佐野監督はブランチみず穂をドラえもんでいう所のしずかちゃんになぞらえたんだ、うん、そうに決まってる。だって入浴シーンがやたら多いんだものwみず穂の濡れ場は後半になって固め打ちでガンガン登場する。高貴そうで実は淫乱なメンヘラ女だったという化けの皮剥がれる。

ブランチみず穂は元カレの梶野少年のことを「死んだ」と加奈子と佐野に言っていた。でも、佐野の職場を訪ねて来たのは確かに梶野。彼は生きていたのだ。メンヘラのみず穂が錯誤した現実。この世のものとは思えないのはむしろみず穂であり、加奈子と佐野を存分に惑わし、佐野を嫉妬させた。

冒頭、佐野が職場で自動車のスクラップ作業とかしていて、家に帰れば豚足。でも住んでる場所は高級住宅街世田谷という絶妙なアンバランス(笑)家に帰れば加奈子特製の豚足をかっ食らうスタンリー要素を全部乗せした佐野の元に、ある日突然、ブランチみず穂がやって来る。

エキセントリックなブランチみず穂とスタンリー佐野の間でバランサーとなるのがステラ加奈子で、彼女は夫である佐野のことも、親愛なる姉のみず穂のことも、両方とも愛している。それが、みず穂にとっても佐野にとっても愛の裏返しで激しい嫉妬の応酬に変わっていく。

みず穂は元高校教師でブルジョワチックな女としてミステリアスに描かれるが、ホントはとんでもないメンヘラ女なのだ。だがしかーし!それを最初に強調しちゃうとネタの底が割れちゃうので、大事に大事に「欲望という名の電車」忠実なオマージュのフリして最後にオトす。

スタンリー佐野とステラ加奈子はラブラブの夫婦仲だったのに、ワンルームの部屋をパーテーションで区切ってブランチみず穂が同居し始めることにより、関係はぎくしゃくしてくる。善意の加奈子は何が悪いのかさっぱり気づかないけど、佐野もみず穂も加奈子を独占したい。

佐野と加奈子とみず穂の男女三人による精神的にピリピリと張り詰めた緊張の三角関係を緩和すべく登場するミッチ小林(笑)彼は佐野の産廃処分場での同僚で、佐野も小林もきつい汚い危険の3K職場の人間なのに、メルヘンチックな所のある小林にみず穂は心を許す。

やたらと風呂に入ってるwみず穂を何度もフィーチャーした後、小林が彼女に惚れて、みず穂はラブラブの雰囲気でラジオをつけてムーディーな音楽が流れちゃったりしてwこれに麻雀中の佐野が「俺たちは戦ってんだよ!」スイッチ切って大爆発。これはメンヘラみず穂の伏線。

みず穂は多情な女で、ミッチ小林を誘惑するばかりか、新聞集金の紅顔の少年今泉を「この机を運んで頂戴」お礼にキスすると途端に「出てって!」そしてシャワーを浴びて、覗いてる今泉少年。みず穂のメンヘラぶりがいよいよ隠せなくなって来た所で、元カレの登場です!

みず穂は高校教師だった頃、教え子の梶野に手を付けた。といってもプラトニックだけでセックスはしていない。本当の愛は肉体でなく魂の結びつきと考えるみず穂の寸止めプレイ。梶野と駆け落ちしたみず穂は、梶野の医学部合格を後押しすべく、身体を売ってお金を作った。

受験勉強と色っぽいみず穂の寸止めプレイで欲求不満がサイコーに高まった梶野は襲い掛かるが、ナイフを持って応戦するみず穂。そのまま昏倒し、みず穂は梶野を刺し殺したものだと思ってた。退院したみず穂はメンヘラも治らぬまま、フラフラと妹の加奈子を頼って来たのだ。

佐野はみず穂がずっと風呂に入りっぱなしで「トイレに行きたいんだよ!」苛立ち、産廃処分場に戻った時、みず穂を探した「死んだはずの」梶野に出会った。彼からみず穂との関係を打ち明けられた佐野は、全て隠さず小林に話した。小林は「あの女、騙しやがって!」怒髪天に突く怒りよう。

小林はみず穂の部屋に乱入「いくら払えばヤラせてくれるんだ?」と叫びながら、組み敷くと正常位でガンガン犯し始めた。事の顛末を悟ったみず穂。汚れた身体を洗い流そうと風呂に入る時、発作的にナイフを持ち、シャワーを浴びながら、無意識のうちにリスカしていた。

佐野は帰宅すると風呂場から出て来ないみず穂に「てめえ、どんだけ風呂に入れば気が済むんだよ!」ドアを開けると手首から血を流して意識を失っているみず穂。ここに加奈子が帰宅して「あなた、何やってるの?」てっきり、みず穂を邪魔に思った佐野の犯行だと思った。

ぐったりしたみず穂と、口喧嘩する佐野&加奈子夫婦。身も蓋も無い修羅場で「この先どうなるの?」と思ったら「製作・国映」とかエンディングテロップ流れ始めて( ゚Д゚)呆然としてると、ここから巻き返しがスゲエ!病院に見舞いに訪れた加奈子と職場で咆哮する佐野。

スタッフ、出演者のテロップを差し挟んで、病院にみず穂を見舞った加奈子と、仕事も忘れて悲しみが止まらない佐野の、それぞれの修羅場を映し、ここから加奈子が欲望という名の東急世田谷線に乗り、佐野のいる産廃処分場に向かって懸命に走る躍動カットで明るいその後を思わせぶりに終わる。

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