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若松孝二「欲望の血がしたたる」

横浜シネマリンで、若松孝二「欲望の血がしたたる」 脚本は大谷義明。

死んだOLの妹(志摩みはる)をかどわかして勤め先の極秘情報を引き出し株で大儲けして出世街道を昇る元同級生の証券マン(上野山功一)に復讐すべく彼の新妻(叶美智子)に近づく売れない画家(生方健)の姦計や如何に?最後まで緊張感が漲る推理サスペンス映画の力作。

足立正生と出会う前の若松映画初期作品の代表作とされ、助監督に梅沢薫がついていたり、ホンを書いたのは大谷義朗とクレジットされているが曽根中生、榛谷泰明、大和屋竺トリオの共同ネーム「大谷義明」とは似て非なるもので、これは一体誰のことなのであろうか?

70分強の尺を通して気が抜けるような場面がほとんどない、逆に言えば遊びが足りなくて観ていて少々疲れも感じるような文字通りの「力作」なのだが、エピソードをてんこ盛りで詰め込み、これでちゃんと交通整理できるんだからホンも演出も随分こなれてるなあ、と思う。

映画の作風としては誰も幸せにならない。イイ奴なんて一人も出て来ない。いや、唯一証券会社専務の令嬢である世間知らずのお嬢様の美智子だけが上野山と生方の血なまぐさい生き方に翻弄され、復讐は生方が上野山にではなく、実は美智子が二人の男にするものであった。

登場人物の背負っている業を最初から描かずにストーリーの中で徐々に種明かししていく手法を取っており、さしずめ専務の妾の環などは思わせぶりに見せておいて実は人畜無害だったり、色々とトリックや裏の人間関係を詰め込んでいて、意外と見応えがあると思うのよね。

大手五社が60年代頃にプログラムピクチャーとして世に送り出していたクライムサスペンスものと全く遜色のない出来栄えでもはやピンク映画でも成人映画でもないと思うのだが(笑)観ていて多幸感に浸ることが全く無い、諸行無常の世間のむなしさが心に静寂を与える。

本作の特記事項として、女優三本柱のクオリティが恐ろしく高く、あの香取環を三番手に配し、向こうを張って証券会社専務の令嬢堂々のヒロインに叶美智子、非業の死を遂げる画家の妹にフランス人形みたいにお目目ぱっちりでムチャ可愛い志摩みはるまで粒ぞろいだね!

ただねえ(ただねえ、じゃねーよw)女優のクオリティが高いのと反比例するようにエロ度は著しく低い。まあ、これは1965年当時のピンク映画なんて映倫の規制も物凄くきつくてこれが限界だったんだろうと分かっちゃいるけど三本柱の美人さんたちのおっぱいが拝みてえ!

濡れ場は結構多いんだけど、どれも女優の悶える表情のどアップで肉体は映しません(笑)成人映画かと言えば、確かにセックスシーンではあるのでPG12には絶対になり得ないとは思うけど、セックスシーンで首から下全く見えないのどんだけ味気ないか改めて今の時代に感謝w

香取環は証券会社専務の愛人でバーのママしてる設定で、主人公の証券マン上野山に惚れこみ彼が結婚しても時々会って欲しいと新婚旅行先にまで押しかける、よくよく考えてみりゃサイコパス女。なかなか濡れ場がないのよね、彼女だけ。ひょっとしたら非脱ぎかゴラァ!

と思って最後の最後まで別の意味でハラハラドキドキしながら観てたら来たよ、来ましたよ、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!嫁の美智子のスキを見て上野山をつまみ食いする環の裸がようやっと目の前に!思ったら数秒で終わってやんの(笑)エロの主役はみはるの方だね。

みはるは画家の兄のヌードモデルしてる設定だからフツーに全裸になってポーズ取ってるのアートだから当時でもOKだったのかしらん(笑)親切を装って近づく上野山に抱かれる時のアンアン悶え顔も他の2人と明らかに違って本格的に汗だくセックスしてる感じが出てる。

冒頭、新妻の美智子とルンルン新婚旅行に大自然に来た上野山はヤリ手の証券マン。風光明媚な大正池で記念撮影しているとスケッチしていた男が級友の生方。でもね、不穏な空気が漂ってるの。生方の妹のみはるは大正池で水死した。生方は上野山にお前が殺したと抗議する。

美智子と上野山は新婚ホヤホヤのラブラブでホテルでシャワーを浴びて新婚初夜の一発・・・の前に環が部屋に電話をかけて「来ちゃった♡」上野山を誘惑し、もう一人の怪しい影が生方。環は単に上野山と寝たいだけなんだけど、生方は壮大な復讐計画を持ってやって来た。

生方は売れない画家で妹のみはるにヌードモデルになってもらってデッサン。当座の生活費もOL勤めのみはるに養ってもらってる、実の兄妹なのに男女の仲を想起させるただならぬ関係。上野山は生方に「お前の絵はきっと売れる」ついては生活を援助したいと申し出た。

でもそれは上野山が証券マンとしてのし上がるための策略であり、みはるの勤める会社の重要情報を聞き出し株を買いあさって大儲けしてそれを証券会社の専務にアピールして出世街道を爆走、そして成功のキモとなる専務の娘の美智子を嫁にもらうことに成功したのだ。

成り上りたい野心にギラギラ燃える上野山と世捨て人のように芸術に耽る生方の強烈な対比。上野山は美智子を嫁にもらい財閥の血筋の仲間入り出来た途端にみはるを捨てた。自殺したみはるは上野山に殺されたようなもの。でも上野山はホントはそれが原因じゃないと言う。

生方の策略は美智子を新婚初夜の晩に上野山のスキを突いて手籠めにしたのをきっかけに彼女を付け回し、自宅に呼んで非業の死を遂げた妹みはるの鬼畜上野山に利用され捨てられた話を聞かせ、でもホントはあなたのことが好きだったんです!美智子に愛を打ち明け結ばれた。

美智子が生方の愛を本物と思った根拠、それは生方がせっせと美智子の肖像画をデッサンしていたからであった。以前は最愛の妹みはるだったのが今は私。鬼畜な夫の上野山許さじと美智子は別れを切り出し、さすがにいつもは豪放磊落な上野山も大慌てで理由を探り始めた。

生方は上野山の証券会社に出入りする元同級生の経済新聞記者にも同じように非業の死を遂げたみはるを弄んだ上野山のエピソードを話し、「許せねえ!」記者は上野山が株を買いあさった横浜工業の経理スキャンダルを報道、株は大暴落し上野山は一転して窮地に陥る。

でも美智子と結婚して今は財閥の血筋となった上野山に怖い物なんかねえ。専務が全部手を回して、経済新聞に圧力をかけて記者は上野山と手打ち、何事もなかったようにやり過ごそうとするが、ワナワナと怒りに震えている美智子はどうにかして生方の復讐を助太刀したい。

でもね、上野山が生方と直接会い、会社に送った脅迫状のことも全部チャラにするから200万円でフランス留学して二度と帰って来るな、提案に、じゃあ500万!と交渉を始めた生方も実はクソ野郎で、上野山は感づいてたんだよね。生方とみはるは近親相姦の関係にあったって。

美智子は上野山と生方の取引を盗み聞きしてついに怒髪天を突き、上野山が帰宅すると手料理にバースデーケーキで満面の笑みで迎え、ホッとした上野山が電気を消しロウソクをフーと消してビールを注いでもらい飲んだ途端に大量の血反吐を吐いて倒れ「何でこんなこと?」

美智子は「私が殺したんじゃない。あなたが自分で自分を殺したんだわ」そして次の行先は生方の元。フランス留学の準備をする彼に「私も連れてって♡」( ゚Д゚)え!動揺する生方の胸にギュッと抱き着くと、持っていたナイフで胸をグサリ!こうして上野山も生方も死んだ。

ゴウゴウと燃える炎の中に美智子は生方がデッサンした自分の肖像画を放り込み燃やした。そして美智子は上野山と楽しかった新婚旅行の思い出の地、大正池に来ている。ここは可哀そうな妹みはるの自殺した場所。美智子は池に独りでボートで漕ぎ出すと沖に向かった。

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