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佐藤寿保「KYRIE ELEISON」

ネオ書房@ワンダー神保町で、佐藤寿保「KYRIE ELEISON」(成人映画公開題「(生)盗聴リポート 痴話」 脚本は夢野史郎。

趣味と実益兼ねた盗聴マニアOL(伊藤清美)が植物人間の不倫相手(伊藤猛)が残したビデオドラッグにハマり出産を控えて不安に苛まれて伊藤の妻(摩子)と愛人(紀野真人)と盗聴合戦の確執の中で明らかになる伊藤の死してなお清美への深い愛情に感動する、盲執異形の衝撃作。

子供を産むのが怖いの。それは不倫相手だからなのか?幼き日のトラウマからなのか?そのトラウマは臨月のお母さんが強盗に殺された事件。子供がちゃんと生まれるか不安な母親がお腹の中の私と電話した思い出は、不安の電波が伝播して、犬丸という怪物を生み出す。

夢野史郎の脚本がキレキレというか、もうキレまくっていて(笑)シュールな前衛演劇に一歩間違えればなりそうなところを、夢と現の挟間をギリギリのバランスで行き来するスリリングさは、次々と繰り出される超能力や異常行動、キーアイテムが満載の宝石箱や~。

伊藤猛演じる犬丸は植物人間でゴーグルを装着。ビデオドラッグを編み出しポラロイドカメラで念写が出来る。まさに超能力を纏った人間で、清美はそんな彼と不倫して彼の趣味だった盗聴をするチームに加わり、いつしか盗聴は独り歩きして彼女のアイデンティティに。

不安神経症と言う病気と言えば病気だし人間の性向の一つと言えばそれでしかないものがある。清美が苛まれるのは常に自分が不安な状態に陥っていて誰かに助けを求めたい。自分が妊娠しているという現実と母親の胎内に自分がいた頃の回想がシンクロしてしまうのだ。

犬丸(本作は伊藤猛と書くよりその方がしっくり来る)はベッドで寝た切り、移動も車椅子で包帯グルグル巻きにゴーグルをした異様な造形で、思うに彼は清美の不倫相手として描かれつつも実は清美の不安神経症が作り上げたモンスターでお腹の胎児なのではないのか?

凶悪なキャラも登場する。犬丸の妻で松坂慶子クラスの美人な摩子と、彼女が浮気している紀野真人の二人だ。摩子は犬丸の子供を妊娠した清美を敵視し、「あ、青蛾が!」とか言いながら殺虫剤を振りかけたり、スリッパの下に画びょうを仕込んだり、かなり底意地悪いw

紀野は「名古屋で臨月の人妻が強盗に殺された」件を異常な執着を持って摩子に話す。初対面のはずの清美に「あんた、名古屋生まれだね」事件の起きた名古屋に清美を向かわせようとするがどっこい、清美の母親は殺されていて叔父に育てられた、帰る家など無い。

プログラマーの清美は一日中パソコンに向かうOLで同僚の今泉浩一は彼女を心配してずっと尾行する。その執着もまたな並大抵の物ではなく、怪しげな紀野と会話している場面から危機を察知、摩子と紀野の逢引きを探ろうとして逆にひっ捕らえられる完全なる尾行キャラ。

ビデオの世界から転向して光輪というビデオドラッグを開発、人気を得て新興宗教の教祖とまで崇められた犬丸の面影を胸に、テレビで光輪の画を全裸でジッと見つめながらオナる清美は完全に逝っちゃってる(だからドラッグなんだろw)サブリミナル洗脳なんだよね。

登場する盗聴器が本格的すぎてワロタw最初は清美はスキャンダル暴いて金を作ろうと浅野桃里と不倫するカップルを盗聴するんだけど、ここで犬丸が部屋に乗り込んでボコボコにする元気さにワロタw傷だらけになった清美は「犬丸、あんたホントは動けるんでしょ」

清美がトラウマの出所である名古屋に向かう場面、モノローグで「会社を早退して13時7分のひかり17号で名古屋に向かい、ホームに立ったけど呼ぶ声が聞こえないので反対側のホームに移動して15時1分のひかり224号で東京に向かう途中、血まみれの窓ガラスを見た」

都会の孤独と闇を描いた映画だと思うんだよね。名古屋から東京に出て来た清美は孤独で、結局は想像妊娠でしか無かったお腹の中にいるはずだった胎児は、母親が父親に胸をナイフで切り付けられおっぱいを吸うことができなかった。犬丸こそが唯一の話し相手で理解者。

清美はね、ずっと犬丸とチームで盗聴をしてきたつもりが彼が植物人間になっちゃって一人孤独で何をしたらいいのか分からない。でね、最後に( ゚Д゚)と分かるの。犬丸が盗聴していたのって清美の心の奥底に潜んでいた意識。犬丸は清美の胎児としてお腹に眠っていた。

だからね、清美が覚醒して実は紀野は担当医師で摩子は看護婦で、想像妊娠でしか無かったと知った時、犬丸の呟きが聞こえるの「回路を絶て!」って。犬丸を殺すことで、初めて清美は悪夢から覚めて不安神経症の妄想から脱出することが・・・ホントに出来たの?

挿入歌は浅川マキ「あたしのブギウギ」摩子と紀野の不倫FUCKを盗聴していた清美は喘ぎ声を消すため紀野がラジカセで流すこの歌に寂しさが込み上げて思わず口ずさんだ♪ひとりぼっちがやりきれなくて お酒飲んでほろほれろ♪何度も何度も振り向いた あたしのブギウギ♪

冒頭、摩子と紀野がベッド上で濃厚ガチFUCKかますのを高性能の盗聴器で聞いている清美は最初から狂気入ってる(笑)産婦人科から診察を終えて出て来た清美は妊娠したけど子供が帝王切開で生まれて来るんじゃ?不安に駆り立てられると盗聴をしたくて堪らなくなる。

家に郵便で届いた光輪ビデオドラッグに欲情した清美はオナると一転して電話相談で妊娠したけど堕ろさないといけない。不倫相手の子供だしちゃんと生まれて来るか分からないし、独り言のように電話で悩みを打ち明けた。そして犬丸との濃厚FUCKを思い出しての恍惚。

清美は同僚で心理カウンセラーの勉強してる今泉に盗聴のことを打ち明けるんだけど、パソコンに一日中向かうストレスの発散も機械だなんて(笑)今泉はアブナイ感じの清美が気になって仕方なくなり、尾行を開始する。でもね、清美にとって有難迷惑でしかないのよね。

今泉のアドバイスはズバリ「妊娠したことを犬丸の奥さんに話したら?」だって(笑)素直に聞いて摩子の元を訪ねて画びょうや殺虫剤で攻撃受けるのワロタw清美はせっせと盗聴をバイトのタネにするんだけど、天罰下って部屋に犬丸が乗り込んで清美をボコるのワロタw

ここ、浅野桃里の濡れ場がバックからパンパン突かれてスゲエ煽情的でここだけトーン違うんですけど!ってピンク映画だからか(笑)清美は謎の男、実は摩子の愛人である紀野に「名古屋出身だろ」言われて名古屋に行く気になるけどそこに実家は無いから帰れない。

清美は寝たきりの犬丸のゴーグルの下の目が何を見てるのか気になって仕方ない。自分も眼帯してみたけど分かんない(笑)で、犬丸の超能力を思い出すんだよね。念写が出来る。だからポラロイドカメラを用意して撮影してみてギョッとした。そこには何が写っていたか?

清美は摩子の私生活を盗聴することに決めた。案の定、紀野と不倫FUCKしてた。ゴージャスな摩子が黒下着に身を包んで紀野に全身愛撫され正常位で突かれてアンアン悶える場面が、ミステリアスな物語の醸し出す妖しげな濡れ場になっていて摩子の美貌ごと一番興奮した!

清美は部屋にリーンと電話がけたたましく鳴る度にびくっとする。ひょっとして電話の主は犬丸なの?と、ここで意外な事実、清美は紀野に逆盗聴されていた。病院に仕込んだ盗聴器で犬丸との会話は全て紀野と摩子に筒抜けだった。急いで帰宅して鬼の形相で探し物。

あった、あった!工具箱からドライバー。清美は仕事中にプログラミングから「HELP ME!」の文字が浮かび電話で「助けて、殺される!」(この辺り、池田敏春「死霊の罠」のヒデキ思い出したw)急いで病室に戻ると犬丸を助けなきゃ!車椅子に乗せて自宅に連れ帰った。

と、ここに今泉からの「HELP ME!」慌てて家を飛び出すと摩子と紀野にボコられてる今泉を発見!尾行がバレたのだ。清美はドライバーを取り出すと「死ねや!」紀野の首筋に突き刺し、紀野はバタッと倒れ様に摩子の胸を刺して絶命。ああ、これで一件落着かと思ったら。

今泉は犬丸の念写を見たいって聞かないの。ついには清美を押し倒して犯そうとするからドライバーで背中からグサリ。?の嵐で絶命する今泉可哀想っスwでもね、今泉が手にしたプラロイドカメラで犬丸が念写したのは確かに母親の胎内で羊水に浸かる胎児の姿だったの。

清美の母親が妊娠が恐怖になって胎内にいた清美に執拗に電話する地獄絵図。( ゚Д゚)目が覚めると、でもそれは悪夢であった。医師の紀野が「堕胎をご希望でしょうが想像妊娠です」看護婦の摩子が注射器を持って笑ってる。これまで見たのは全部、悪夢だったのかしら?

清美は犬丸を車椅子に乗せて歩いてる。犬丸が「回路を絶て」と話したように聞こえた。「死にたいのね」清美は愛おし気に犬丸のゴーグルごと、自分を洗脳していた目を撫でると、手術用のメスで犬丸の首筋をグサリ!でも、清美の悪夢はこれからも続くのではないか。

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