石井隆「GONIN」

シネマブルースタジオで、石井隆「GONIN」

バブルの波に翻弄された５人の男たち、ディスコオーナー（佐藤浩市）、コールボーイ（本木雅弘）、元刑事（根津甚八）、リーマン（竹中直人）、元ボクサー（椎名桔平）が、タッグを組んでヤクザ事務所から資金を強奪、でもヒットマン（ビートたけし）に息の根を止められる、バブル世代の男たちの最期を看取った鎮魂歌的な秀作。

時は既に平成、バブル崩壊後に時を移した「ネオ・仁義なき戦い」クールでハイテンションなバイオレンスドラマは、現金強奪作戦に端を発するGONINの男たちとヤクザとの決死の銃撃戦。ヒットマンに命を狙われる、血で血を洗う復讐合戦へとエスカレートする。情念を抜き去り、ひたすらスタイリッシュでロマンチックな石井隆の世界観が完成する瞬間を見た。

1995年の作品で、もう石井隆はとっくにロマンポルノを卒業、奥山プロデューサーだから、とは思うがかなりエンタメ指向に寄ってる気もするし、でも雨の使い方とか死の香りとか、北野ブルーと相まって独特の雰囲気。そんな中で竹中直人だけ天使のはらわたの残党的ダメ男の味わいがあるｗ

タイトルやコンセプトから、全く違う境遇にいたバブルがはじけてボロボロになった男たちの挽歌、というストーリーを想像していたら、それは前半までで、後半からヤクザ組長永島敏行の劇的な最期、そしてヒットマンたけしとガチホモモッくんとの男同士の愛情溢れるラスト、主役が代ってるｗ

エンタメ指向を強く感じるのは、何気ないエピソードを切り取った詩的で繊細な描写が数多く散りばめられている。故郷の飯田行き高速バスに乗り込む前、バスターミナルの売店で森永ミルクキャラメルを「これ、まだあったのか」と買う、そして直後にヒットマンたけしに射殺される佐藤浩市の最期はカッコいい。

モッくんは「俺はホモを装って金持ちに近づいて金奪うんすよ」と言いながら借金まみれの佐藤浩市に「こがね虫」の節で♪万代さんは～金がない～金蔵建てずに殺された～♪実は佐藤にゾッコンラブ！絶命寸前の佐藤にキスされ動揺するシーンに「モッくん、ホモじゃねえか！」胸が高まるｗ

竹中直人のリストラされて人格が壊れてしまったリーマンは、ヤクザより見てて怖いｗ現金強奪の後「俺だって、やる時はやるんだよ！」と勇んで帰宅、娘に「俺のために、エリーゼのためにを弾いてくれよ」でもハエがブーンとたかる音に悪寒しかしない、そしてやっぱり、家族は死んでたｗ

ビートたけしは、ヒットマンとして拳銃持って颯爽と登場、バンバンGONINを殺しまくるんだがｗコンビを組む木村一八のキャラが謎で（笑）たけしに「バカ野郎、この野郎」何かある度にボコボコに殴られる。ダークカラーの作品で、ここだけ笑うことができてほっこりｗこれで一八は更生できたんだろうか？

永島敏行はヤクザの組長で、まんまとGONINに資金強奪されるマヌケと思ったら、ヒットマンたけしを雇って大逆襲、と思ったら、根津甚八に撃ち殺されて敢え無くジエンドの瞬間、さっと立ち去ろうとする大組長の室田日出男に「会長、待って下さいよう」潔い死に様は、GONINよりカッコいいかもｗ

前半はモッくんも椎名桔平も「演技下手だなあ、硬いなあ」と思ってたら、少なくともモッくんに関してはブラフで、後半に入って「俺、ホントにホモなんだぜ」佐藤浩市との高速バス逃避行は遺骨を持って高速バス、そしてヒットマンたけしとの最終対決、やっぱり本作の主役、モッくんじゃね？

歌舞伎町のバッティングセンターがGONINの出会う場所で、寂しいよな、男って、と思ってたら、元刑事の根津甚八には美人の奥さん（永島暎子）と可愛い一人娘もいるとな！でも、人生やり直そうと思った瞬間、愛する妻と娘はヒットマンたけしの襲撃を受けて死ぬ。この絶望感は石井隆の世界だ。

椎名桔平はパンチドランカーの元ボクサーでヤクザ事務所でもはみだし者という、訳わかめなｗ役だが、その恋人でジャパゆきさん役の横山めぐみがスゲエ！役名「ナミィー」で日本語が上手すぎｗ石井隆は本作には名美と村木を絶対出したくない、だからヘンテコなナミィーを出したと想像ｗ

マハラジャみたいなバブリーそのもののｗディスコを経営する佐藤浩市は元バンドのベーシストで黒服着こなして接客する「ヤンエグ」早くバブルが崩壊してこんな奴ら絶滅しちゃえばいいのに！と思っていた人も多いと思うのでｗ同情の余地など全く無いのが、むしろ映画を観やすくするｗ

ザーザー降りの雨の夜、二人で車に乗る、密かに思いを寄せあう運転席の根津甚八と助手席のモッくん。ここにちあきなおみ「紅い花」がロマンチックに流れる。それまで、ハイテンションの武闘シーンに合わせて硬質な安川午朗の劇伴が流れ続けた後だけに、ここは劇的な男同士の愛の世界。

さて（←さて、じゃねーよｗ）登場人物は以下の通り、かなり乱暴にｗカテゴライズしてみた。

「GONIN」（＝資金強奪５人組）
①万代樹彦（佐藤浩市）　イケイケのディスコオーナーで大越組に１億借金して追い詰められ資金強奪GONINを結成。
②三屋純一（本木雅弘）　男娼して恐喝する美青年。万代に一目惚れし、GONINに合流。
③氷頭要（根津甚八）　汚職刑事。ぼったくりバーで用心棒していて万代と出会い、GONINに合流。
④萩原昌平（竹中直人）　目が笑ってないｗキレやすいリストラリーマン。バッティングセンターで万代と出会いGONINに合流。
⑤ジミー（椎名桔平）　元ボクサーでパンチドランカー、大越組のチンピラで金目当てにGONINに合流。

「GONIN」に反撃するSANNIN
①大越康正 （永瀬敏行）　資金を強奪されたマヌケな大越組長。鬼の形相でヒットマン京谷を雇うw
②京谷一郎（ビートたけし）　大越に雇われた凄腕ヒットマン、だけどサディストで同性愛者（笑）
③柴田一馬（木村一八）　京谷を慕い「アニィ」と呼ぶマゾヒスト青年。

万代はイケイケのディスコ経営で時代の風雲児だったが、時は平成、バブルは弾け大越組から借金１億。組事務所に呼びだされ、土下座して手のひらを靴で踏みにじられる屈辱に耐える。そんな金欠の万代は、たまたま男娼の三屋の暴行現場を見てしまう。「俺、殺されるんか？」

夢のようなオープニングから、万代は歌舞伎町のバッティングセンターで携帯をビービー鳴らしながらスイングしてると、喧嘩は弱そうだけど狂気のリーマン萩原に絡まれ、金属バットで殴られるが逆襲、ボコボコにした荻原がちょっと可哀そうになって車で家まで送ってやったｗ

荻原はバブルが弾けて会社をクビになったリーマン。家族思いで電話を欠かさないが、家には帰れずカプセルホテルを泊まり歩いている。荻原は強引にディスコまで「俺を雇ってくれ」と付いてくる。ディスコには大越組が待ち構え「金返せ、ごらあ」喧騒の中、夢に見た美少年三屋を発見した万代。

三屋は万代が金持ちだと思って強請ろうとディスコに来たが、居合わせたのは借金返済を迫るヤクザ大越組との乱闘現場。この乱闘に加勢した中年リーマンの荻原はとても役に立ちそうにないがｗ万代は「そうだ！」（←そうだ、じゃねーよｗ）「大越組から借金分の１億、強奪すればいいじゃん！」三屋を誘ったら乗ってくれて、三人まで揃ったｗ

万代は大越組に様子見に行き、元ボクサーのチンピラ・ジミーと出会う。ジミーはパンチドランカーで凶暴な変わり者（←椎名桔平の演技は、設定に無理があり過ぎｗ）ジミーはジャパゆきさんのナミィと恋に落ちていて、パスポートとタイに送り返す飛行機代が必要、万代の計画に乗り、これで４人、かつ大越組の内偵もできる！

万代はぼったくりバーで川上麻衣子にピンク接待され、ビール一杯で法外な要求、怒って「責任者、出せよ」ここに元刑事の氷頭が登場。彼は不祥事で警察をクビになり、今は用心棒で生計を立てていた。彼も計画に乗って５人目、しかもヤクザの世界に精通、拳銃を入手できるし喧嘩も強い！これでGONIN、揃ったぞ！

ここから大越組襲撃、１億円とナミィのパスポート強奪作戦に出るが、ごちゃごちゃしてあんまり良く内容は覚えてないんだけど、ガンエフェクト、バイオレンスシーンの迫力はスゲエ！無鉄砲な資金強奪作戦と思われたがなんと成功し、荻原は「俺はやる時はやるんだよ」と大興奮ｗ

一方、メンツを潰された大越は、ヤクザ界の大ボス式根（室田日出男、見た目が小林悟っぽいｗ）に「ケジメつけろ」短刀を渡され「俺はもう後が無え」凄腕の殺し屋・京谷を雇う。そして漏れなく柴田青年もコンビでついて来て、たけし&一八サドマゾコンビでGONINへの復讐の銃撃が始まる！

万代は大越組組員が殺害された不始末を理由に指を詰めさせられ、でもGONINの一味であることはバレずになんとか帰還。ジミーはナミィーが自由になったと喜ぶが、あっという間に大越組員が拉致。ジミーをボコボコに殴り、その横でナミィが強姦されている地獄絵図は、目を背けたくなるエグさ。ジミーは拷問で自白、ナミィーは殺された。

大越は「確か、５人だったよな」一人ずつ、顔と名前を一致させ、ヒットマン京谷に粛清を依頼。三屋はディスコで従業員として働き始めていたが、万代の身の危険を察知、二人して逃走を開始。一方、ジミーはナミィを殺された復讐のため大越組に乗り込むが、京谷はあっさり射殺した。

萩原は分け前の２千万をバッグに詰め込み意気揚々と帰宅。娘に「なあ、俺のためにエリーゼのために、弾いてくれよ」でも、たかっているハエの音。娘は遺体となってピアノの前にいた。妻と息子も二段ベッドで冷たくなっていた。荻原が殺したのだ。彼は風呂場で妻の遺体と屍姦している狂気の荻原を、押しかけた京谷はあっさり射殺した。

柴田は娘の遺体を見ながら「父親が実の子供を殺すなんてｗｗｗ」とおどけるが、これが京谷の怒りに火をつけた「親が子供を殺しちゃ、いけないのかよう」京谷は愛人の息子であった。「バカ野郎、この野郎」柴田を殴り続ける京谷の姿は、怒りを通り越して滑稽ですらあった（笑）サドの京谷に犯され、悶えるマゾの柴田ｗ

氷頭は、GONINで強奪した分け前の２千万で、別居中の妻、娘とやり直そうとレストラン。でも二人がトイレに立った瞬間、レストランから人の気配が消え、静まり返る。異変を察知した氷頭は妻と娘の手を引いて車に乗り込むが、京谷が狙撃、氷頭は命からがら逃亡したが、妻と娘は息絶えた。

万代と三屋は高速バスに乗るため最終便を予約、バスターミナルへ向かい、逃げて来た氷頭と再会した。氷頭は万代に、萩原一家４人惨殺事件（←３人は荻原自身が殺したんじゃね？）新聞記事を見せ、万代は自責の念にかられた。でも「万代さんラブ！」の三屋は「あんたのせいじゃない」と強調。氷頭はヒットマン京谷に気を付けろと忠告し、去った。

万代が出発前に、売店で森永ミルクキャラメルを手に取り「まだ、あったんだなあ」と買い物を済ませ「おじさん、15年前にも来たよ」「うちは20年以上、やっとります」この会話の直後、京谷が乗り込んできて万代を襲撃。ハチの巣にされる万代のスローモーションのカットが超カッコいい！

万代はトイレに逃げ込み、三屋も銃で反撃。万代は血まみれで「俺はこれから、実家の母に金を渡そうと思ってたんだ」と告白。そして「3つ数えたら逃げよう」と言った後、最後の１秒で刹那的に三屋に接吻、三屋が目を丸くして驚き、ときめくその目の前で、万代は息絶えた。

氷頭はテレビニュースで万代の死を知り愕然。一方、三屋は愛する万代の後を追って自殺しようと思うが、どうしても死にきれない。三屋と氷頭はザーザー降りの雨の中、車中でちあきなおみ「紅の花」を聞きながら、センチメンタルな気分になる。そこは大越組事務所の目の前であった。

氷頭が眠っているうちに、大越は配下を連れて事務所に戻って来た。三屋は大雨の中、ずぶ濡れで車中から飛び出し、大越組員を次々と射殺。反撃に遭った瞬間、氷頭の運転する車が大越組長の車に体当たりして完全破壊！でも奇跡的に生きていた大越。防弾チョッキを着ていたのだ。

でも、居合わせた式根会長は不機嫌そうに立ち去った。大越は「会長、待って下さいよう」と縋り付くが、絶望し防弾チョッキを脱ぎ捨て「さあ、撃てよ」щ(ﾟДﾟщ)ｶﾓｰﾝのポーズ。氷頭が頭部を撃ち抜き、大越は「これが俺の運命」あっさりと射殺された。

ここに駆け付けたヒットマン京谷！背後から氷頭をヒット、彼は死んでしまったのか？三屋も撃たれるが、最後の一撃のはずが弾切れ、ここに柴田が現れ、反撃した三屋のヒット、京谷を庇った柴田がまさかの絶命！愛する柴田を喪った怒りに燃える京谷は、駆け付けたパトカーに向かって発砲を始める狼藉（笑）そのスキをついて、三屋は逃亡した。

三屋はバスターミナルに向かい、万代の実家である長野県飯田に向かった。隣の座席に万代の遺骨が入った骨箱を乗せて。サービスエリアで休憩中、ヒットマン京谷がバスに乗り込んで来た。京谷と三屋は同時に相撃ち、京谷は胸を撃ち抜かれ「ちょっと休憩」と呟き、そのまま三屋の隣の座席に腰掛けた。京谷は死亡、愛する万代の遺骨を抱きながら三屋も息絶えた。二人の死に顔は、安らかに眠っている子供のようだった。