見出し画像

佐藤寿保「狂った舞踏会」

光音座で、佐藤寿保「狂った舞踏会」 脚本は夢野史郎。

仮面舞踏会へようこそ。筋肉美少年(隈井士門)と愛人関係になったマッスル編集者(伊藤猛)が加虐セックスの恐怖から少年の右腕を切り落としムショ行き。贖罪のための少年探しはパゾリーニ「ソドムの市」とシンクロし自ら眼球を切断してダンスタイムに震える狂気の傑作。

左腕一本で伊藤を折檻する隈井に「一緒に死んでくれ!」心中を懇願する伊藤が「じゃあ、お前も俺のようになれ」刀で右腕を切断される直前「俺には俺のやり方がある!」その刀を奪い取って両目を潰して盲目となって、隻腕の隈井と盲目の伊藤が二人で踊るラストシーンに震えた!

この作品でメインキャストがみんな演技が神がかっていると思う程に素晴らしい。伊藤猛も伊藤清美も隈井士門も鈴木裕も、どこからどう見てもパラノイアって感じでw寿保監督はかなり出演者を追い込んだんだろうな。その後の寿保ワールドのベースになってるようなアブナさ満載。

80年代にENKが制作したゲイポルノってホントに面白い作品が多いと思うのよね。広木隆一「ぼくら三部作」滝田洋二郎「グッバイボーイ」中村幻児「巨根伝説」野上正義「愛の処刑」挙げればキリがない。90年代以降も傑作は世に出てるけど、やっぱり80年代のデキがえげつなく良い。

私は、イタリアの文学者にして映画監督のパゾリーニが1975年に世に出した「ソドムの市」は観たことが無いのだが、本作はそれでも十分に楽しめる。主人公の伊藤猛はソドムの市を観たいと熱望しその世界観の中で片腕を切り落とした少年に贖罪を熱望する、パゾリーニの実話世界。

シナリオタイトルは「オスティア~月蝕映画館~」である。オスティアとは「ソドムの市」を撮り終えたパゾリーニが出演者である17歳の美少年に殴打され車で轢き殺された場所であり、この少年はパゾリーニに性的暴行を加えられていたとされる。これが本作のモチーフである。

夢野史郎のホンの常として、ナイトメアのように事象が次々と現れては消えたかと思ったら反復したり夢だったり、良く言えば変幻自在、悪く言えば訳ワカメなんだけど(笑)本作については原作(これ、パゾリーニ不審死事件だと思うんだけどw)あるからブレずに一本の筋が通る。

筋肉美少年の隈井にとことん惚れてしまった伊藤猛の究極の求愛映画だと思うんだよね。サディスティックな隈井に責められ正当防衛で思わず右腕を切り落としちゃったけどその右腕のホルマリン漬けが伊藤の隈井に再会したい強烈なエンジンとなって再会するのが月蝕映画館なのだ。

この映画館はパラノイア化した伊藤猛が「豚小屋」を上映し、因縁の美少年隈井に仮面舞踏会に誘われる重要な場所。エンディングテロップに「文芸坐」と紹介されるので、これは建て替え前の池袋の旧文芸坐のことなのかな?今の新文芸坐からは想像もつかない超クラシックな劇場。

本作のキーアイテムは断然、伊藤猛が後生大事に持ち続ける隈井の切り落とした右腕のホルマリン漬け。どMの伊藤はどSだった隈井を探し求めるうち、それは贖罪からいつしか加虐行為を再び私にして欲しい♡という性的願望となって発出、そこにパゾリーニのソドムの市ですよw

伊藤は噂に聞いたソドムの市をまだ観たことが無い。日本で公開されるかも分からない作品をどうしても観てみたいと熱望し、イタリア在住の友人にVHS録画して郵送してもらうがPAL方式なので変換作業が必要で横須賀の米軍基地に依頼に行くが無修正はダメと断られ途方に暮れるw

冒頭、雑誌編集者の伊藤がボディビル選手権の取材で筋肉美を競うどアップには、そこはかと「さぶ」な感じがするがそこまでw伊藤はパラノイアレター(偏執狂通信)を受け取り筋肉美博覧会で裸を披露する美少年の隈井と出会い恋に落ちた、でもね、隈井君は特殊性癖の持ち主。

サディスティックな隈井にナイフで身体を傷つけられ乳首から出血してる痛々しい伊藤は思わず刀を取り出すと衝動的に隈井の右腕をザクッと切断。そのままムショに入り一年後、彼の勤めていたマッスル誌は既に休刊になっていて、彼は映画館でこれからどうしようかなあと考えた。

ソドムの市を監督したパゾリーニは、伊藤が隈井の右腕を切り落としたまさにその日に亡くなっていた、と聞いた。ソドムの市はパゾリーニ監督の遺作らしい。伊藤は隈井の居場所を探し出す鍵はソドムの市にあると踏む。でもこの作品、日本では上映不可能な問題作と知り、じゃあどうすんべ・・・

映画館のトイレで、ムショで同じ釜の飯を食った鈴木が声をかけて来た。そしてSMプレイ仲間の清美を紹介する。鈴木はどMで清美は女王様であった。好みのタイプの伊藤に色目を使う清美を罵倒した鈴木に態度が豹変する清美、ビンタして突き飛ばして股間をグリグリ女王様プレイ!

仰向けの鈴木をオラオラと犯す清美の姿を呆然と見つめる伊藤は、「右腕を失くしたあなたのことを探しています」ビラ撒きを始めた。街頭に隈井の姿がひょっこり現れた気がしたが、それは清美であった。伊藤は月蝕映画館でパゾリーニ「豚小屋」の上映の受付もぎりをしている。

清美が映画館に入って来て「どんな映画を見せてくれるの?」ボソッと「豚小屋」と呟く伊藤に「じゃあ、見せてもらおうかしら」金を払うと「要らない、観終わった後に面白くないと思ったら払わなくてもいいから」清美は伊藤の背後に回って「私、鈴木に殺されちゃうかも」

伊藤はむしろ、清美が鈴木のことを殺してしまうんじゃないか?と思った。そして清美は俺のことを殺すかも?そんな妄想をしているうちに彼の脳裏に蘇る隈井とのSMセックス。バターナイフで胸から股間までバターを塗りアナルに塗り込むと鬼畜のように犯したどSの隈井君。

伊藤が隈井に全身バターでベトベトにされ、ブリーフ越しのモッコリをバターナイフでツンツン弄ばれ、更にはアナルにバターを塗りたくって犯される・・・悪夢を見た後、これをお口直しするかのように、伊藤猛ファンの皆さん、凄いですよ!全裸シャワーヌードシーン、貴重です!

伊藤はどうしても隈井に再会したい。鈴木は彼が立ちんぼしていると教えてくれた。二丁目に行くとゲイボーイが「注射しない?」誘って来て伊藤の中で何かが壊れ始めた。ああ、パゾリーニのソドムの市が見てみたい。彼はイタリア在住の友人に頼んでVHSテープを入手した。

街頭でふと、自分の後を付けている隈井を見つけた伊藤は、猛ダッシュで隈井を追いかけた。でも見失い、そこには注射しない?のゲイボーイ。彼は隈井の話をする。彼は見た目が目立つし、可愛い顔をしてるからみんなで可愛がったのよ。彼の生い立ちの話を君に聞かせてあげようか?

隈井は両親と妹の4人家族で、ある日突然、自分よりちょっと年上くらいの若い男が同居し始め、熱量でみんなと関係を持ってしまい、そしていなくなった。妹は恋しさに狂い、母親は色情狂になり、父親は下半身を露出して車に轢かれた。それを聞いた伊藤は「勝手に映画の話を盗むな!」

伊藤の隈井恋しさはますます募る。ベッドサイドに置いた隈井の右腕ホルマリン漬けを抱きしめながら隈井にサディスティックに責められる夢を見るのが彼の楽しみになった。そして彼は海の見える岸壁で踊るんだ、存在しない隈井の左腕と自分の右腕を絡めたつもりでダンス。

やっと手に入れたソドムの市を観る術を失って肩を落とす伊藤と出会ったゲイボーイが、VHSビデオを取り上げて弄ぶ。慌てて取り戻そうと気が動転した伊藤、鉄パイプで殴りかかり逆襲を受けるもソドムの市を観るためならパラノイアになってしまった彼はゲイボーイを殴り殺した。

伊藤が帰宅すると仮面舞踏会への招待状が投げ込まれていた。行く先は月蝕映画館。ストッキングを被った受付が「今日は貸し切りですから」そしてルールはストッキングを頭から被ること。劇場の扉を開けた瞬間、ピカッとスポットライトが伊藤に当たり、ステージに誘導された。

ストッキングを被った男女が次々と映画館のステージで代わる代わる、伊藤とダンスを踊る。そして舞台は暗転、隈井らしき男が清美に「おい、ヤリたいならヤッてみろよ」仰向けに転がされた伊藤にお仕置きを加えようとする。それを止める鈴木も、街頭であったゲイボーイもいた。

全てはラスボス隈井が仕組んだ芝居であった。「どうだい、映画より面白いだろ」隈井は「あの時は気持ちが動転して・・・」詫びる伊藤に殴る蹴るの暴行、スクリーンを突き破って倒される伊藤。でも隈井に縋りつき「一緒に死んでくれ」もう隈井無しでは生きていけない身体。

隈井は「じゃあ、俺と同じようになれ」刀を取り出すと伊藤の右腕を切り落とさんとしたまさにその時「俺のやり方で」伊藤は刀で自分の両目を切り裂いた。ダラダラと眼球から流れる血もそのままに、隈井に「俺を引っ張って連れ出してくれ」あの海の見える岸壁に躍り出る二人。

眼球から血をダラダラ流す盲目の伊藤は、左腕一本の隈井にリードされながら、タキシード姿で二人きりの優雅な舞踏会。青空が広がる岸壁で、エンドレスに踊り続ける伊藤と隈井のカップルはこの姿だからこそ再会し愛し合えた奇跡。踊り続ける二人から離れ青空をパンするカメラ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?