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瀬々敬久「ノーマンズ・ランド」

横浜シネマリンで、瀬々敬久「ノーマンズ・ランド」(成人映画公開題「猥褻暴走集団 獣」)

湾岸戦争のニュース報道がガンガン登場する中、新宿の雑踏を歩く外国帰りの女(加藤梨香)が、自称殺し屋の男(伊藤猛)と出会って同棲。一方、拳銃強盗(小林節彦)は情婦(伊藤清美)と作戦決行するが失敗。梨香と小林と伊藤は、世界の果ての山中の池で落ち合う。戦争の砲撃は世界の中心へと向かう合図、超映画文法的な、快感を肌で感じたい怪作。

「考えるな、感じろ!」一言で言うならそういう映画です(笑)因みに私はフランス映画が大の苦手で、この作品がゴダールやジャームッシュの影響を受けているような感じをしつつもここは華麗にスルーw政治的なようで恐らく政治的ではない、日常と非日常の間の障壁を壊そうとする何かを感じたい。

私は、朝目覚めた時に、朧げに覚えていた夢のように、うつらうつらと感想を書いてみた(←おいw)湾岸戦争での多国籍軍によるイラク空爆のニュース報道の洪水と、一見すれば全く交わらない、森の中のドロドロ沼の果ての池の底にある世界の中心に行ってみたいヒロインの話、繋がるようで繋がらないようで繋がる、究極の幻想譚だ(笑)

最初にピンク映画的に言っておくと(←っておい、これピンク映画だぜw)女優が三人、ヒロインの加藤梨香がどんな方なのか?私にはよく分からず。脇を固める伊藤清美と小川真実は盤石なんだけど、映画の内容が内容だから(笑)濡れ場要員としてエロの面で貢献してるw

加藤梨香に関して言えば、瀬々監督がデビュー直後の自作品で多用した「この女の子、町でスカウトしてきた素人さんなのかなあ」と思わせる、プロの女優にはない妙な艶めかしさを感じさせる。撮り方もセミドキュメントっぽくて、孤独な都会の闇のようなものを感じさせる。

アプローチとしては、世界規模では湾岸戦争とか、とんでもないことが起きているけど、日本国内ではそんなことは遠い対岸の火事のような出来事で、日々生きていくことにも息が詰まりそうな孤独な男女がいる、全く異なる世界を敢えて結びつけずに平行線で描く試みと思った。

本作にはザ・ピーナッツの大ヒット曲が2回、印象的に使用される。1曲目は伊藤清美がアカペラでかなり音痴(←これ芸風でしょw)愛人小林節彦と拳銃強盗を成功して南の島でバカンスを楽しみたいわ!夢見心地で歌う、ヘタウマぶりがキュートw

伊藤清美はザ・ピーナッツ「恋のバカンス」をアカペラで延々とワンコーラス歌わされるのだが(←瀬々監督、サディストだろw)小沼勝監督が「NAGISA」で使用した甘い青春の調べとは程遠い、生活に疲れた全然先が見えないくたびれた中年男女の「恋のバカンス」感がイイ!

もう1曲の「恋のフーガ」は♪追いかけて 追いかけて すがりつきたいの あの人が消えていく 雨の曲がり角♪小林節彦がオープンカーの助手席に梨香を乗せて疾走。小林は口ずさむ、初めからあなたと私は結ばれないし、真珠の指輪なんか無かった。

ピンク四天王という言葉は、この作品が発端でできたんじゃないの?と思う位に、ピンク映画という括りで考えれば恐ろしくメチャクチャな作品で「おいおい、濡れ場が決められた量だけ入ってればいいってもんじゃねーぞ!」小屋主や常連客の悲鳴が聞こえてきそうな反則作品w

思えば(←思えば、じゃねーよw)まだ90年代前半は年間100本以上のピンク映画が制作されていて、全盛期よりかなり減ったものの、全国に数多くの成人映画館があり(←っていうよりも、一般映画でやっていけなくなった地方の二番、三番館)プログラムを埋めることが第一。

新田栄や小川欽也がスケベな常連客向け、ビデオデッキを持ってない、持っていても自宅で観ることができない妻帯者、時代の進化についていけない老人、彼らにとって心のオアシスだった成人映画館の中に「ちょっとごめんなさいよ」間借りするように自主映画をぶっこんだw

エロを観に来た客って、そもそも一体なんなんだよwと思いつつ、ピンク四天王が「小屋主にとって迷惑千万な映画を作る人たち」だったのは確かで、そういう意味で本作などはまさにピンク四天王の本領発揮、だからこそ成人映画館で観てみたいもんだ、と思うけど無理だなw

ロマンポルノは神代辰巳にしても小沼勝にしても、物語そのものにしっとりジメジメしたエロス、抒情性があり、仮に作家性に走ってもそれなりに成人館とアジャストするけど、ピンク四天王、特に瀬々監督の描き方は物語も人物もかなりドライで、相性が悪いんだと思う(笑)

瀬々監督ってなんでピンク映画から撮り始めたんだろう?と率直に疑問に思ってしまうんだけど、それだけピンク映画という業界の間口が広かったんでしょうね。私はロマンポルノ、ピンク映画を追いかける中で、佐藤寿保以外のピンク三天王はずっと後回しにしてきたようだ。

90年代という時代の感覚、バブルがはじけて世の中の未来が見えなくなって若者の自殺が増えて、悪循環ばかりだった夢のない時代、新興宗教が流行ったり病理現象が社会に増大する中で、それをストレートな形でなく形而上的に抽象的に描いたのが瀬々作品の特徴だと思う。

本作で久米宏が喋ってる昔懐かしいニュースステーションとか、CNNテレビのなんだかカッコいい英語での現地報道とか、とにかく湾岸戦争をフィーチャーしてる。その場合、多国籍軍によるイラク空爆の正当性を語るか、米国の覇権主義を非難するか、本来は政治的な話題。

でも、本作における湾岸戦争報道推しは、完全なるフェイクで、かなり後の時代になって「世界の中心で愛を叫ぶ」とか登場したけど、瀬々監督は90年代前半に既に「世界の中心で絶望を叫ぶ」壮大な実験映画に着手していた、その先見性こそ、凄いし見るべきものがある。

瀬々作品にしては私にとって分かりやすい、いや、分かりやす過ぎて逆に分かりにくいような、とにかくヘンテコな作品で、あまりフランス映画の影響のような部分に私は触れたくない。一つの作品として等閑視するならば、世界の果ての沼にある池の中の、ある世界の中心の話。

梨香という女が帰国して、手紙の命じるままに新宿の雑居ビルにあるマンションの、自称「ゴルゴ」伊藤の部屋を訪ね「あなた、マー君でしょ!」幼馴染の男の名前を叫び、ずっと探していた自分の行きたかった場所に連れて行ってもらう、映像化したのが奇跡的な抽象的な物語。

梨香と伊藤は互いに謎めいた男女で、伊藤は梨香をイヤイヤ泊めてやる。梨香は伊藤の部屋に貼ってある世界地図を指さし「子供の頃からずっと思っていた。森の中をずっと歩いて行けば世界の果てにたどり着くことが出来て、そこは沼のようだけど、水の澄んだ池があるの」

伊藤が歯を磨いていると、全裸になるとムチムチで超エロい梨香が「殺し屋さんでも歯を磨くのね」思わず欲情した伊藤は世界地図の中に梨香を押し込み、立ちFUCKで犯す。伊藤と梨香はそのままズルズルと同棲生活を始めるが、本当は伊藤には腐れ縁の女がいたのだ。

一方、小林節彦は知り合いの東南アジア人に教えてもらったと、新宿のポルノショップ(店主が佐野和宏w)で拳銃を7万円で買い、ベトナム人民服を着て、情婦の伊藤清美はアオザイ(笑)エスニック雑貨店に強盗に入り、ナイフを持った外国人店員を弾みで射殺してしまうw

清美は小林に「恋のバカンス行きたいな~」と歌っていたのに、人だけ殺して文無しで絶望のまま「私、濡れてきちゃった」小林も「俺、勃起した」と濃厚FUCK。清美が黒のブラ、ショーツで小林とカラミ、奇想天外な物語の中で清美の百戦錬磨のエロい濡れ場がひときわ光る!

夢か現か分からないような幻想譚。伊藤の部屋を飛び出した梨香と、清美と一夜過ごした小林の奇跡の出会い。オープンカーを運転する小林が梨香を拾い、「恋のフーガ」追いかけて、追いかけて、と歌いながら向かうのは、梨香が子供の頃から夢いていた、世界の果てにある池。

小林と梨香は意外にあっさりと(笑)世界の果てにたどりついた。そこは、ダムの建設予定地がそのまま放り出されたような、コンクリートむき出しの廃墟。二人は自転車を二人乗りして、森の中にどんどん入って行くが、渇いた大地は、やがてドロドロの沼地に変わった。

伊藤は馬券狂いで本職の殺し屋の仕事も無く、電話を止められていたが、なぜか真実から電話がかかってくる「今からそっちに行くから」梨香が半年分の電話代を払ってくれていたのだw真実は伊藤の部屋に上がると熱いFUCK。対面座位でガンガン腰を振る真実は、どエロい!

伊藤は部屋を飛び出して、それこそ♪追いかけて 追いかけて♪小林の自転車を見つけると、思いっきり飛び蹴りw沼にめり込んでドロドロの小林(笑)小林も伊藤も互いに「お前、どうしてこんなとこに来たんだよ!」と罵り合うが、「はて?」自分でも良く分からないw

伊藤と小林は「そうだ!」(←そうだ、じゃねーよw)梨香に「ちょっと出かけて来る」世界の果てにたどりついてから二日間も経っていた。覆面を被ってポルノショップに乱入、佐野を射殺する伊藤と小林。でも伊藤は小林に「お前の拳銃、弾が出てなかったぞ」と指摘(笑)

伊藤と小林は、こうして(←こうして、じゃねーよw)やっと食糧を調達。両腕にケンタッキーフライドチキンを山のように抱え(笑)「梨香、ケンタッキーだぞー!」でも、梨香はそれどころじゃない。目の前に、夢にまで見た世界の中心がある。そこは世界の果ての沼の中に、奇跡的に存在する、澄んだ水の池の中。

梨香は「ああ、ここが世界の中心なんだわ」服を着たままズンズン池の中に入っていく。伊藤が「何やってるんだ、やめろ!」引き止めるが梨香は「マー君は、いつもそう言うのね!あの時もそうだった」(←お前はマー君を何人殺したんだよw)小林は「俺も一緒に連れてってくれ!」

梨香が池の中に沈んで行き「このまま溺れ死んじゃうの?」と思った瞬間、米軍がイラクに空爆した爆弾が、恐ろしい勢いで「ドーン」轟音とともに大爆発、スクリーンは真っ白に!!!

梨香は伊藤、小林と一緒にゴムボートにロウソクを何本も立てて、世界の中心の池に精霊流しのように流し、戦争で亡くなった犠牲者を弔った。そして梨香は小林の車に乗せてもらい、やって来た田舎の一本道を戻った。一人ぼっちになった梨香、さて、これからどこに行こうか。

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