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若松孝二「腹貸し女」

横浜シネマリンで、若松孝二「腹貸し女」 脚本は出口出(=足立正生)

悪しき因習、貧困家庭の女が出産のため腹を貸す仕事。大物代議士(津崎公平)が子孫を残すために愛人(小柳冷子)と、新聞配達バイト彼氏(吉沢健)がいる彼女の妹(門麻美)と、二人の女性に人工授精を試みた、ジャックスのサイケなサウンドと前衛的な画が奏でるエロチックサスペンスの問題作。

浅学につき本作を観て初めて「ジャックス」という1960年代後半に活躍したロックバンドを知った。「フラワー・トラベリン・バンド」とか「はっぴいえんど」は日本のロック草創記とともに語り継がれてるけどそれよりも更に前、これはもう完全に草分け的な存在と言っていいのかなあ。

ジャックスの音楽に頭が引っ張られてなんか映画の内容が混乱してるんですけど(笑)印象的なのはパートカラーが思った以上に多いのよね。濡れ場だけじゃなくて吉沢の子供を妊娠した妹の麻美の胎児を姉の冷子と組んだ悪徳医師の松浦康が掻爬する場面ががっつりカラーなんてw

主な登場人物は5人。腹貸しする側が小柳冷子&門麻美姉妹で、腹貸しを金で買う代議士が津崎公平。でも冷子は愛人を津崎の他に医師の松浦康も持っていて津崎をハメる。一方の麻美は純情な乙女で勤労学生の吉沢健と交際している。姉妹が津崎以外の男の子供を孕んじゃう話なのよね。

清楚な雰囲気を湛える妹役の門麻美に対して、気丈で自己主張が激しい姉役は各種映画資料では伊地知幸子とされているがどっかで見た顔だぞ!と思ったら「犯された白衣」で唐十郎に「殺さないで!」延々と演説を試みた婦長役の小柳冷子じゃないか?私的には彼女で特定しました。

吉沢健が演じる新聞配達少年のイメージは「十九歳の地図」の本間優二と被るし、若松監督の晩年の作品「17歳の風景 少年は何を見たのか」の少年とダブる。ロマンチスト若松監督は心の中に常に17~20歳位だった頃の純粋で怖いもの知らずで夢見がちだった青年期を抱えていたのでは。

ザックリ言えば大物代議士の津崎が金にものを言わせて若い愛人の冷子に人工授精での出産を命じるばかりか冷子の妹の麻美にまで腹貸しバイトを持ち掛け、妹が割って入って来たことに腹が立った姉が医師と組んで姦計を思い立ち実行。でも全てが破滅し家父長制の全面否定に終わる。

私の大好きなシーンがあって、本作のダークカラーの中に奇跡のように咲いた青春そのもの、吉沢が水着姿の麻美と海辺の砂浜を駆けるロマンチックな場面にジャックス「海の女の子」インストがキマる。サイケと言うよりグループサウンズの香りがして時代を感じさせるのよね。

もう1曲、ライブハウスにジャックス特別出演「裏切りの季節」シャウトする中で麻美が吉沢に津崎の申し出を受け若い肉体提供して人工授精で家系相続の相談すると「そりゃ腹貸しじゃねーか」二人は聴衆のフーテンたちと乱交パーティに出かけガンガン鳴る「裏切りの季節」インスト。

本作は尺が70分。一方でジャックスが本作のために録音したサントラは1時間もあって、こりゃ作中でずっとジャックス鳴り続けてんじゃない?と最初は思ったけど思ったより劇伴としては使われておらず、しかもインストが多い。歌詞が過激だから映画の内容にバイアスかけちゃうのよね。

ジャックスの話ばかりしてそのまま終わってしまいそうなので(笑)そろそろ本題の映画の内容はと言えばストーリーを追いかけてみるとシンプルではあるんだけどサービス精神が旺盛すぎるのかw詰め込めるものは何でも詰め込みました感で、ちょっと消化不良を起こす。

シンプルなのは姉の冷子は超ダサンダーで、妹の麻美は感覚のままに素直に生きる女。津崎は家を継がせる跡取りを産むことしか考えてない前近代的な戦前の遺物で、悪徳医師の松浦はただ悪どいだけの俗物、翻って額に汗しながら新聞を配達する吉沢の爽やかさが際立つ。

実質的な主人公と言える青年を演じる吉沢健は若冠21歳でなんと本作がデビュー作に当たります。若松作品の常連になってからのニヒルな悪役ぶりは全く影を潜め、ひたすらに爽やかに、肉体よりも大事なのは愛だよ!愛!と叫ぶ。麻美は一度は腹貸し女になるが彼に感化されるのだ。

冒頭、葵映画のロゴは欠落してたけどタイトルの「腹貸し女」がまるで赤ちゃんが生まれてくるように上からゴロゴロと転がって来てヘンなタイトルイン!麻美が恋人の吉沢と愛し合うアーティスティックな濡れ場を経て吉沢が麻美を家に送って津崎と愛人で麻美の姉の冷子と鉢合わせ。

冷子は大物代議士の愛人で齢は親子ほど離れてる。冷子が風呂に入ってると津崎が入って来て浴槽内で抱き合って寝室に異動、仰向けの津崎の股間に冷子が顔を埋めてフェラするが勃起せず「わしゃ、不能じゃあ」寂しそうに呟く津崎の目的は、この家を継がせる子供がどうしても欲しい。

冷子は津崎の精子を人工授精して子供を産むと言い出し、裏では悪徳産婦人科医の松浦と手を組んで、身体も求め合う。最初から津崎はタネ無しなのだ。でも松浦はそ知らぬふりで津崎から金を貰い人工授精の段取りを淡々と進めつつ、冷子を愛人にして抱きお家乗っ取り工作に一役噛む。

冷子はある日、津崎から「君も人工授精の実験台になってもらえんかね」持ち掛けられ謝礼はなんと2000万円(1968年当時で、ですぜ!)迷った冷子は彼氏の吉沢に相談するが、吉沢いわく「新聞を配達しているとその家のことまでは分かるが、家の中で男女の心と身体がどうかまで分かんねえ」

吉沢は姉の冷子の目の前で麻美に「身体じゃないんだ、愛だよ!」力説し、思わず麻美は「お姉さん、まだ私が処女って思っちゃったかしら」だってwでもね、麻美は喫茶店で会ったフーテン娘に「身体を売る訳じゃないでしょ、身体を貸してるだけよ、セックスってそういうものなの」

新築されたばかりの国立競技場の目の前を通ってフーテンの男女とアパートの一室に向かう麻美。部屋ではクスリを吸ってラリッた男女が乱交パーティ。体育座りで見つめていた麻美にオーバーラップするように唇がまるで女性器のようにどアップになりその中で羊水に浸かっている麻美。

吉沢は毎朝の新聞配達に没頭するが、麻美が住み込みの新聞配達所を訪ねると店主が彼は大学に全く行ってないよ、君たち付き合わない方がいいんじゃないの?とか余計なお世話を言っちゃって、もう決心するんだよね麻美。津崎の精子を人工授精して腹貸ししてもいいかなって。

でもね、冷子にとってはとんだ邪魔者が割って入って来た訳。そうこうしてるうちに麻美の妊娠が発覚。吉沢のタネなのは明白なんだけどw困っちゃったのは松浦で、最初から津崎はタネ無しだって知っていた。だから愛人にした冷子を抱いて中出しして子作りしちゃえと思ったけど。

冷子もようやく妊娠するんだけど、それより三ヶ月前に既に妊娠している麻美の方が先約。松浦は「今日しかない!」麻美に麻酔薬を注射して股間を拡げて掻爬しちゃうんだよね。これカラーで見せられたらグロ堪んねえっすwで、姉妹仲良く冷子と麻美は産婦人科の隣同士のベッド。

ここに津崎が慌てて駆け込んできて、冷子はこれまでの態度を一転、松浦を指さして「こいつが堕胎したのよ!」津崎は泣き崩れる冷子に対して態度は冷たい。麻美は吉沢が言い残した「身体よりも愛」を実感して家を出て行くことに決めた。その家では津崎が冷子を前にして怖い顔。

津崎は「もう子供は要らん」「この家は私の代で終わる」「財産は他に使う」血相変えた冷子は床の間に飾ってあった日本刀を手に取ると津崎を背後からブスッと一刺し「どうせすぐ死ぬのに・・・」呟きこと切れる津崎。その頃、麻美は「フツーの仕事がしたいのよ」泣きながら新聞販売所。

吉沢が元気に今日配達する新聞を抱えて飛び出したら目の前で泣いてる麻美を見てびっくり仰天。でも、二人の間に愛が再び芽生えることは無かった。吉沢は新聞を配りながら「腹貸しだってなんだって、やりたきゃやればいいんだよ!」

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